第183話 閑話─皇太子殿下の婚約者は変装をする



話は遡り

レティが留学から帰国して4日目のお話




皇太子殿下の婚約者

いくら絵姿NGでも、晩餐会で殿下と踊ったのだから、貴族間では顔を知られており、勿論学園では、殿下の次には有名人なんだろう……


私は、小さい頃は殆んど領地で自由気儘に過ごして来たので、目立つ事は極力避けたいと思って来た。(←しかし結局は目立っている)

人前で何かやるのは平気だけれども、決して有名になりたい訳じゃないのである。(←しかし今や時の人である)


クラウド様の計らいで、一応顔出しNGにして貰えているから、一般庶民にはバレ無いだろうが、街中では何時誰に会うか分からない。

デザイナー、リティーシャと公爵令嬢が結び付くのは、学生である今は避けたいのだ。


婚約発表から、何気に公爵家の周りには新聞記者がいて、自由に街に行けない状態なのであった。

店にまで付いて来られたらたまったもんじゃない。



そこで変装をする事にした。

殿下もレオナルドに変装して成功したのだから……


私は男に変装した。

勿論レオナルドである。

正確にはレオナルド風だ。


レオナルドは長い髪を後ろで三つ編みにしているので、同じ様に私の肩までの髪を後ろで三つ編みにする。

深く帽子を被り、薬草畑の作業をする時に着る小作人用のサロペットズボンを履けば……ほら、レオナルドじゃん!


いや、レオナルドはサロペットズボンは履かないと思うが……



「 男に見える? 」

「 見えません! 可愛らしい男の子には見えるでしょう……でも、皇太子殿下の婚約者様には見えません! 」


何故……皇太子殿下の婚約者様がこんな格好を……

普通なら……

皇太子殿下を想いながら……刺繍をしたり、綺麗なお花を生けたり、詩を書いたり……

そんな毎日を過ごすんじゃ無いのですかと、マーサがヨヨヨと泣き崩れた。


それなのにお嬢様ときたら、請求書を書いたり、薬草に水をやったり、医学書を読んだりしてるのですから。

それから……それから……

マーサの嘆きはまだまだ続きそうだ。


「 皇太子殿下の婚約者に見えなければオッケーよ! 」

確かに、この変装は皇太子殿下の婚約者としてはどうかと思うわよ。

だけど、仕方無いじゃない。

店をオープンさせなきゃならないし、オペラのお姉様達にドレスを届けないとならないんだから……

商売人にとっては納期は大事よ!

……と、力説すると……


「 だから……何故公爵令嬢のお嬢様が商売なんかを…… 」


まあ、生きていく糧ね。

さあ!出発しましょう!


そうして、荷物を持った侍女と使用人(レティ)が裏口から出て、新聞記者らしき人の横を堂々と通り、公爵邸を脱出する事に成功したのであった。


「 やったわよ! いける! 」

私に、これっぽっちも気にも留めなかった。



しかし……

公爵家の馬車が使えないから、街には徒歩で行かなければならないのである。

お店までが案外遠い……

マーサと二人で荷物を持ち、徒歩で店まで行くのが大変だった。

早く乗り合い馬車が通ってくれないかしら?

街がぐっと近くなるのに……



こうして、味を占めた公爵令嬢の変装ライフが始まったのである。


皇太子殿下の婚約者は

何時も斜め上を行く規格外の少女であった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る