第161話 皇子のホームラン



「 皆の者……先程、面白いものが届いた 」



ずっと議会の成り行きを見ていただけだった、皇帝陛下の言葉に、会議場は静まりかえった。



「 我が国の重鎮である、虎の穴物理学研究所の研究員達からの書簡が届いた 」


おお………父上までもが……

レティが『皇立特別総合研究所』を長たらしい名前だとして付けた『虎の穴』を、皇帝陛下までもが呼んでる事に驚きを隠せないアルベルトだった。



虎の穴の物理学研究所の研究員とは、赤のローブの10人の爺達の事である。

彼等は、科学や物理学を研究して来た者達だけでは無く、先の皇帝陛下や、現皇帝陛下の教育係や、大臣経験者という立派な肩書きがある爺達なのである。


要するに爺達はこの国のご意見番だった。





皇帝の秘書が書簡を手に取った。


……コホン………では読み上げます………


「 皇太子殿下が、リティエラ嬢にしか子種を注ぎたく無いと言うのであらば、皇太子妃はリティエラ嬢以外にはあり得ないのである 」



クソッ……

「 その通りだ、私は……未来永劫リティエラ嬢にしか子種を注ぐ気はない! 」


エロ爺のエロ進言に乗っかったアルベルトは、やけくそで叫んだ!



皇帝陛下と宰相が吹き出した。

二人共笑いを堪えている………




「 成る程………一理ある……… 」


もっともな意見に、大人達の誰もが納得をしたのだった。

この国の繁栄の為には、いかに皇太子殿下が子種を注ぐかどうかに掛かっているのだ。


今現在、皇族は3人しか居ない。

物理的な国の繁栄よりも、皇族の子孫を残す事こそを最優先に考えるべき事だと、議会にいる者達は気付いたのだった。

皇太子殿下のやる気に掛けるしかないのだ。


爺達のエロい進言もあり、揉めに揉めていた皇太子殿下のお妃選びがあっさりと決着が着いた。




「 決め手がお前の子種って…… 」

ラウル、エドガー、レオナルドが腹を抱えて笑い転げていた。



「 俺は恥ずかしい事を言ってしまった……格好悪すぎる……… 」

アルベルトが両手で顔を覆いながら言った。


「 格好悪いけど、格好良いよ! 」

ラウルがアルベルトの肩をポンと叩いた。


「 愛する女の為に格好悪くなれるお前は格好良いぞ 」

エドガーが胸を張れと言った。


「 格好悪くなる程愛せる女がいるのは羨ましいよ 」

レオナルドがウィンク目をした。


アルベルトは嬉しそうな………

それでいて少し誇らしげな顔をした。



そして……

「 なあ、これ………帝国史に残るかな? 」

「 ああ、残るね!……オレが残してやるよ 」

ラウルがゲラゲラ笑いながら言った。


「 皇子、議会で叫ぶ!自分の子種は1人の女性だけに注ぐ……てか? 」

「 皇子、自分の子種は1人にしか注ぎたく無いと駄々を捏ねる……とか? 」


ギャハハハハ…………


「 止めてく…れ…… 」

アルベルトはまた、両手で顔を覆った。


4人は、腹を抱え、ゲラゲラ笑いながら議会を退席し、皇太子宮のアルベルトの執務室に消えた。




しかし、大人達はその後も大真面目に議論を続けていた。


皇太子殿下が、リティエラ嬢を寵愛してる事は周知の事実である。

そんな皇太子殿下が、正妃である王女に子種を注がずに、側妃であるリティエラ嬢だけに子種を注ぐ事になれば、両国の関係はどんどん悪くなる一方だろう………


だったら、初めから婚姻などする必要は無い。

いくらイニエスタ王国が大国であっても、かつてはシルフィード帝国が統治していた国で、シルフィード帝国の方が格上国である為、断るのは何の問題も無かった。



そして……

こうなったら、さっさと皇太子殿下とリティエラ嬢の婚約を進めてしまおう……

……と言う結論に至ったのだった。



そして、エロ爺達の皇太子殿下の子種の話は

エロ親父達に伝染し

いかに、皇太子殿下がリティエラ嬢に子種を注ぐかの話に花を咲かせていた。



聞いてられない話である。



気の毒なのは、この国の宰相ルーカスだった。

しかし……

この国の頭脳である宰相ルーカスは、皇帝陛下に向かって一礼した。

そして、お互いに緩やかに微笑むのであった。



現、両陛下の仲睦まじさがシルフィード帝国の幸福であれば、皇太子殿下の幸せこそが、我が国の発展になる。

そんな結論になったのである。


皇太子殿下が幸せそうに公爵令嬢と踊っていた……

あの日の二人を思い浮かべると、間違った方向にいかなくて良かったと安堵する大人達であった。







そして………

アルベルトは

深夜遅く、皇宮を発った。


愛しい女性の元へ………




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