第160話 荒れる皇太子妃選び
皇太子妃選びは難航した。
議会では、もう何日も皇太子妃選びの議論をしているのだった。
先の議会では、皇太子殿下と王女の婚姻を進めるべきだと決まったが、当のアルベルト皇太子殿下が、頑として首を縦に振らなかったのである。
「 私は、公爵令嬢のリティエラ・ラ・ウォリウォール嬢と結婚をしたい 」
アルベルトは議会に出席をして、そう断言した。
しかし、ここ何代も、皇族の結婚は他国の王女が続いている事もあって、皇族の結婚は他国の王族と言う事が慣例となっていたのである。
現に、皇后陛下は他国の王族から輿入れをし、皇帝陛下の姉君も、他国の王族に嫁いでいるのであった。
それに、イニエスタ王国は、かつてはローランド国同様にシルフィード帝国の統治国であったが、今はシルフィード帝国に次ぐ大国になった。
その大国からの婚姻の申し出を断る事は不本意だった。
しかし………
皇太子殿下の想い人は、シルフィード帝国最高位貴族の令嬢で、父親は我が国の宰相であり、皇太子殿下のお相手としては何ら問題が無いのである。
これが下位貴族なら真っ向から反対も出来るのだが……
議会は何日も議論し、荒れた。
何よりも
シルフィード帝国の頭脳で、数々の難問を解決して来た宰相ルーカスが、自分の娘の事であるが故に進言する事が出来ない事が、より難航した理由でもあった。
皇太子殿下が、それ程までにリティエラ嬢を寵愛してるのなら、王女を正妃にし、リティエラ嬢を側妃として迎えれば良いと言う意見が強くなってきた。
こうなると、身分的にはレティが正妃になる事は出来ないのである。
これには、独身の令息のいる貴族達が反対をした。
天才で見目麗しい公爵令嬢を、息子の嫁に貰いたいと主張する貴族まで現れたのだ。
こいつら……
好き勝手言いやがって……
俺には王女との結婚を勧め、俺のレティを嫁に貰いたいだと?
冗談じゃないぞ!
議会に出席していたアルベルトは激怒した。
大臣や議員達は驚いた。
あの、何時も紳士的で、大人しく優しげな皇子が、ここまで激怒する姿は見た事も聞いた事も無かった。
皇子は、そこまでリティエラ嬢を寵愛してるのか………
リティエラ嬢は先日の晩餐会で見ただけであった。
確かに……
リティエラ嬢と一緒にいる皇子は、楽しげに笑い、一目で彼女とは恋仲である事は分かったが………
まだ、学生の恋程度に思っていたのだった。
これはもっと慎重にいかねばならない………
しかし、最後にはやはり
ここは国の繁栄の為に王女を正妃に、皇太子殿下の意思を尊重して、リティラ嬢を側妃にと言う意見が尊重されつつあった。
しかし、アルベルトは断固として、リティエラ嬢としか結婚はしないと言い張った。
アルベルトも、皇族として、国同士の繋がりの為には政略結婚も仕方無いとずっと思って来た。
しかし、今は愛する女性がいるのだ。
彼女をこんなにも愛しているのに、政略結婚なんか出来る筈が無いのである。
アルベルトは、それでも聞き入れ様としない議員達に業を煮やし、しまいには、公爵家のラウルが皇太子になれば良いとまで言い出した。
確かに、公爵家は皇族の血を引く家系であるには違い無かったのだ。
翌日の議会では
ラウルがとんでも無いと乗り込んで来た。
俺に皇子様なんか出来る筈が無いじゃないか!!
「 我が妹の事で、進言があります 」
ラウルは、これまでにレティがしてきた事を話した。
学園の事を話すので、生徒会代表として、メンバーであるエドガーとレオナルドも同席していた。
庶民だけがいる料理クラブで、貴族であるレティが一人で入部している事。
貴族令嬢に苛められた庶民棟の生徒を助けた事。
そして、暴漢に教われた庶民棟の女生徒を守る為に、暴漢と戦った事などを話した。
さらに………
最近起きた王女絡みの事件で、レティが王女を戒めて庶民棟の生徒を庇った結果、王女に対して帰れコールが起こった事も………
途中からは、エドガーとレオナルドが助言を加えながらの発言となった。
3人は必死だった。
アルベルトとレティの、二人の恋を実らせてあげたいと言う強い思いと、将来自分達が仕える帝国の皇后陛下が、あの王女ではあり得ないと思っているのだ。
「 仮にもこの国の皇太子妃になりたいと考えてるのなら、国民に好かれる人でいなさいよ 」
レティが王女にブチ切れた日に言い放った言葉は、アルベルトだけでなく、彼等にも響いていたのであった。
レティが平民達からだけで無く、貴族達からも慕われ愛されているのかを説明し、レティこそが皇太子妃として相応しいと力説した。
皆がレティの、人となりを知る事には成功した。
皆が頭を抱えた……
意見は出尽くした。
万事休すか………
「 皆の者……先程、面白いものが届いた 」
今まで黙って成り行きを見守っていた皇帝陛下が、初めて口を開いた。
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