第137話 君のデビュタントは僕のもの



舞踏会



皇帝陛下と皇后陛下のダンスが終わると

皇太子殿下と王女のダンスが始まった。



殿下が王女の手を取り、腰に手をやり、踊り始めた。

優しく見つめ合い、微笑み合い、二人の世界に溶けていく………

もう、4度も同じ場面を見ているのだ………



殿下と関わっているだけに

4度目の人生の今の私は邪魔者よね………



早く消えてあげよう……




あれ?

グレイ班長がこっちに向かって歩いてくる。



記憶が甦る………



そうだ………思い出した………

私のデビュタントはグレイ班長と踊ったんだわ。


この時、グレイ班長の事は知らなかったけれども………

確かに、この男性と踊ったわ………



あっ………

殿下と王女のダンスが終わる………

拍手が鳴り響く。



次は、一般のダンス。

私のファーストダンスはグレイ班長と踊るのね。


グレイ班長と視線が合う………



その時、突然目の前に、殿下が飛び込んで来た。





えっ!?



「 僕が一番だ……」


ゼイゼイしながら……

「 リティエラ嬢、貴女のファーストダンスを踊る栄光を、僕に与えてはくれないだろうか……… 」


目をキラキラ輝かせ、尻尾をブルンブルン振って、手を私に差し出し、返事を待つ殿下………




走って来たの?


王女様は?


3度のどの人生でも、王女とだけしか踊らなかった殿下なのに……


今、私の目の前にいる殿下は、私の事を大好きな殿下だ………

胸がキュンとした。



「 はい……喜んで………」

私は、手を殿下の手に添えた。



カップルがダンスホールの中央に集まって行く………

殿下に手を引かれ中央へ………




レティはアルベルトを見上げ、アルベルトはレティを見下ろし、見つめ合う二人………




聞きたい事がある………

言いたい事がある………




すると、ダンスの音楽が始まった。


殿下は私の腰をグイっと引き寄せ………

いや、まるで抱き合う様に密着した。



「 良かった、間に合った…… 」

「 皇子様なのに走って来たの? 」

「 だって……レティを誰にも取られたく無かったから…… 」


二人で、コツンと額をくっ付けてクスクスと笑い合う。



「 綺麗だレティ……謁見の間に来た時には息が止まるかと思ったよ 」


「 殿下に頂いたドレス……ちょっとお直ししちゃいました………ご免なさい 」

「 うん……凄く似合ってる……」

レティの耳元で囁く様に言うアルベルト………

真っ赤になるレティ………



背の高いアルベルトはレティを見下ろし、小柄なレティはアルベルトを見上げ、二人の甘く、蕩ける様なダンスはギャラリーの注目を浴びた。



「 レティ、ダンスが上手いね 」

「 お父様と、お兄様とで練習したのよ 」

「 そうなんだ 」

………良かった、エドやレオと練習した……なんて言われたらどうしょうかと思った………


「 でも、殿下の足を踏んじゃったらご免なさい 」

「 良いよ、可愛いレティの足に踏まれても、きっと痛く無いよ 」


クスクス……と、笑い合う二人………




「 でも、レティ………今日は変だったね、それとも僕の気のせい? 」

「 ………緊張してたの………」


嘘……

本当は、もう関わりたく無かったの……

王女を好きな殿下を見たく無かったの……




「 そう? スーパーレティでも緊張するんだ? 」

「 皇帝陛下と皇后陛下、それに皇太子殿下までいらっしゃるんですもの………」


「レティ、皇太子殿下には気を付けて! 」

「 悪い人なの? 」

「 そう、彼はリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢を狙ってるんだ 」

「 まあ………悪い人ねぇ 」

レティはクスクスと笑う。


「 だろ? 皇太子妃になって欲しいんだって………」

アルベルトは、ニヤリと悪い顔をした。


「 じゃあ………リティエラ公爵令嬢にお伝えするわね 」

「 本当に? イエスと言ってあげてと伝えてくれる? 」


「 あら………皇太子殿下は悪い人なんでしょ? 」

「 いや……本当は良い奴なんだよ 」


二人は、顔を見合わせクスクスと笑い合う。




殿下が王女を好きでないなら……

私も、殿下を好きだと言っても良いの?


過去の記憶と、現実の狭間で

レティは、何が正しい道なのか………

もうどうしたら良いのかが分からなくなっていた。





そんな二人を見ていた大人達は驚いた。


皇子様があんなに蕩ける様な顔をするなんて………

皇太子殿下が、あんなに甘い顔が出来るなんて………

誰もが今までに見たことも無い皇太子殿下だった。



そして………

一緒に踊っている美しい令嬢は誰だと、ざわざわしている。

あれだけ綺麗な令嬢が居たなんて……


レティは正式に、社交界にデビューしたのだ。

大人の男性陣が、レティから視線を外さない………




だけど、学園の生徒達は見慣れた二人だった。

キャアキャアピンクの歓声がホールに上がった。



ダンスが終わると

レティは最上級のカーテシーをし、皇太子アルベルトに最大の敬意を表した。


その美しい所作に、誰もが息を飲んだ………



離れたくない………

二人はそう思ったが……

アルベルトは皇帝陛下と皇后陛下と王女の待つ椅子へと向かった。


両陛下は、何やらニヤニヤしていて………

王女はツンと機嫌が悪かった。



大人の男性陣が色めき立つ………


だけど………

次はエドガーがレティにダンスの申し込みをしていた。


エドガーと楽しそうに踊るレティ………

レティの腰に回したエドガーの手が気になるアルベルト………

俺が見てるのに………あんなにくっつかなくても………



「 アルベルト様、聞いてらして………? 」

「 ああ……えっ!?何を?………」



エドガーの次はレオナルドだった………

レオナルドはレティの腰を思いっきり引いて………密着した。


クソッ……レオナルドめ………


何やらレティの耳元で囁きながら踊ってる……

クスクスと笑い合う二人………


レオナルドはずっとレティの耳元で囁き続けている。

赤くなったり、恥ずかしそうにするレティ………

アルベルトは気が気ではない。


すると………

レティがレオナルドの襟首を持ち

「 レオナルドーっ 」

………と、ガクガクいわせていた。



「 まあ……はしたない……… 」

王女が皇太子殿下を見ると

皇太子殿下は席を立ち、もう、走り去っていた。


「 アルベルト様………」






「 激しい女だなあ……ピーくらいで……… 」

レオナルドは、エドガーに羽交い締めにされ、ラウルに口を塞がれた。


レオナルドの襟首をガクガクいわせていたレティは、アルベルトに抱え込まれ、抱き締められていた。


レオナルドは、以前にレティに教えた魔法の言葉のピーとか、ピーとかの意味をダンスを躍りながら、耳元でレティに教えたのだった。



大人達はざわめき、学生達はキャアキャアとピンクの歓声を上げた。



両陛下は、笑い転げているアルベルトに驚き、二人で顔を見合せ笑っていた。


ラウルとレティの父親である宰相と母は額を押さえ、レオナルドやエドガーの父親である外相や国防相達は、苦笑いをしていた。



アルベルトは落ち着かせる為に、レティをベランダに連れて行った。

「 レティ、落ち着いて 」

「 あんな言葉を魔法の言葉だなんて……よくも……」

アルベルトは笑いが止まらない。


「 殿下も、どうして教えてくれなかったの? 」

キッとアルベルトを睨むレティ。

レティの怒りの矛先がアルベルトに向かった。


これは大変とばかりに

「 レティ、もう一度踊ろうか? 」

アルベルトが笑いながら、レティをダンスホールの中央まで引っ張って行った。





ダンス曲が始まった。


「 レオナルドはもう、絶対に許さないわ 」

アルベルトはクックッと笑っている。


「 私、近所の野良猫に、ピ………とかの名前をつけちゃったじゃないのよ 」


「 毎朝、大きな声で名前を呼んでたのに………」

アルベルトは、肩を揺らし笑っていた………





大臣達は、皇太子殿下があんな風に笑っているのを見た事が無く、大いに驚いていた。


それにしても

皇太子殿下とリティエラ公爵令嬢との関係は?

誰がどう見ても恋仲であるのは確かだ。


しかし………

皇太子殿下には、イニエスタ王国の王女との婚姻が進んでいるのでは?




リティエラ公爵令嬢が社交界デビューした事で

社交界がざわつき

これから………

皇太子妃を巡る紛争が巻き起こる事になるのである。









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