第122話 皇太子殿下の千里眼
ここは皇太子宮の執務室、アルベルトは公務中だ。
「 殿下、顔が蕩けてますよ 」
アルベルトのニヤニヤが止まらないのを見かねて、クラウドが言った。
「 最近、レティが可愛すぎるんだ 」
デートに行こうと言ったり、抱き付いて来たり、おまけに、やっと名前で呼んでくれたのだ………
これが蕩けずにおられようか………
「 リティエラ様とのデートは楽しかったですか? 」
「 そりゃあ、もう……… 」
………と、蕩けた顔のアルベルトは思い出に浸るのであった。
「 あっ、そうだ! 牧場を改築するよ 」
「 殿下の牧場をですか? 」
「 カフェを作って、馬が走れるコースを作るんだ 」
「 馬も、もっと増やそう 」
「 レティのおねだりなんだ 」
「 えっ?! リティエラ様の? 」
「 そう、俺とのデート場所がもっと欲しいんだって 」
「 ……… 」
殿下は嬉しそうだが………
彼女が、そんな事を言う女性だったとは………
もしかして、このまま婚姻をしたら
彼女は、国を狂わす程の、魔性の女に化けるかも知れないぞ。
確かに………
あの美貌と、あの頭脳と、あの度胸の良さには、何かとてつもない危険な物も感じるが………
しかし、牧場を憩いの場にすれば、収益がもっとアップするのも確かだ。
殿下は、千里眼をお持ちなのかと思う程、何事にも先見の明がある。
まあ、良いさ………殿下があれ程ご執心の令嬢だ。
今は、何も考えないでおこう………
「 わかりました、直ぐに手配をします 」
「 あっ、費用は俺の私的資金で賄うよ 」
「 御意 」
「 それから………殿下、去年の夏に視察に行った温泉施設ですが……」
「 予算が下りた? 」
「 はい、直ぐにでも着工出来ます 」
昨夏に、アルベルトがレティに会いたいが為だけに、無理矢理公務として視察に行った寂れた温泉施設が、馬車が通りやすい様に整備し、道路を拡張し、広い施設に立て直す事になったのだった。
「 あそこは、良い保養地になるよ 」
「 そうですね、両陛下も楽しみにしておられると聞きましたよ 」
アルベルトは満足そうに笑い
レティから、誕生日プレゼントに貰った万年筆にキスをし、溜まった書類にサインをするのであった。
そう、その温泉施設がある場所こそが、
4年後、レティの恐れるガーゴイルとの決戦の地なのである。
道無き道を整備し、拡張し、温泉宿を立派にし、
突如現れた大群のガーゴイルを迎え撃つ事に、準備出来る地にした事………
それは、
シルフィード帝国、皇太子アルベルトの、何よりの功績になるのであった。
それは、もっと先の話なのである………
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