第118話 残酷な殿下



練習着に着替えて

髪もポニーテールにして、準備万端だ。


今日から私達32名の弓兵(予定)達は、木剣を使い、剣術の稽古に入るのだ。



私は張り切っていた。

剣を持てる事が嬉しくて仕方無い。


軽く伸びをして、柔軟をしていたら

殿下がやって来た。



白い小さなハンカチの様な物を手渡された。

「 手袋だよ 、はめてごらん 」


白の手袋は、虎の穴で着る白のローブと同じ生地だった。

「 殿下、これは……… 」

「 ローブは何でも吸収するらしいから、ルーピンに言って、特別に作らせたんだ 」



「 レティの可愛い手が、肉刺(まめ)だらけになったら大変だからね 」

殿下はそう言って優しく笑った。



殿下は手袋をはめた私の手を、大事そうに触りながら

「 うん、ピッタリだね 」

「 殿下………有り難うございます、一生の宝物にします 」




殿下は優しい………

私に、優しすぎるわ……






********





騎士クラブにも新入部員が入部してきた。

レティ達32名は先輩だが、たった5ヶ月間の先輩なだけなので、やっと木剣を使用出来る様になっただけだった。





「 皇太子殿下に敬礼 」




新入部員に緊張が走る。

いや、全部員が緊張してるのだ。



二人を除いて………

その二人はエドガーとレティだ。


基礎訓練はグレイ班長が、過去?、未来?に考え出された物を使用していた。



そして、レティ達32名は木剣を持ち、剣術の訓練が始まった。



32名の指導者は皇太子殿下である。

皇太子殿下の号令で、木剣を素振りする。



レティが嬉しそうだ………

目がキラキラ輝いている………

ああ………可愛い………



レティは、直す所も無い程の綺麗な姿勢だったが………

皇太子殿下はレティの周りをうろうろし、レティの腕を持ち、腰の位置を直す指導をしている………


そして、指導がエスカレートしていき………

レティが構えて持つ木剣を、レティの後ろから抱える様にして、レティの手に、自分の手を添えて指導をしていて、エドガー部長に叱られる皇太子殿下だった。




周りの部員達は

二人のイチャイチャを横目で見ながら

チッキショーと、気合いの入った練習をする彼等の腕は、どんどん磨かれて行くのであった。





「 皇太子殿下に敬礼 」



部員全員の敬礼で、今日のクラブの練習が終わった。



凄いわ…………この手袋………

家で少しは木剣で練習をしていた事もあり、手には肉刺(まめ)が少し出来ていた。


私が手袋を外して手を見ていたら

殿下がやって来て、私の手を調べる。


「 手袋の出来具合はどう? 」

「 はい、これ凄く良いです、肉刺(まめ)が出来そうにありませんね 」



「 レティと手を繋いでいたから、手の肉刺(まめ)には気が付いていたんだ、もっと早く渡したかったな 」


殿下の手は、もうカチカチの剣士の手だった。

二人で手を見せ合う。



私は………

弓の練習のし過ぎで、手のひらが裂けて血だらけになった時の事を思い出した。


それは3度目の人生での事だった。

グレイ班長が血だらけの私の手に包帯を巻いてくれたのだった………




すると………

殿下が私の手を持ち………私の掌にキスをした。

「 早く、治ります様に………」

赤くなり、固まる私に悪戯っぽく笑った。



そして………

「 レティ、着替えておいで、公爵家まで送ろう 」

殿下が照れ隠しの様に言った………




もう直ぐ来る別れが、私にとってどんなに辛いものになるのか………


殿下は残酷だわ………



もし、未来を知らないでいたなら

この殿下の愛を受け入れていたのかな………


だけど

結局は殿下は王女様を選ぶのだ。


未来を知ってるか知らないか………

どちらの方が残酷なのかと考えたら

少し笑えてしまった…………














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