第83話 君に届け、クリスマスの夜に



ジラルド学園のクリスマスパーティーは、全校生徒が参加するので庶民棟の生徒達も一緒だ。


学園はこの日は休日で、夜にドレスアップして講堂に集まるが、貴族の1年生は16歳のデビュタント前だから、ダンスは出来ない決まりになっているのである。



今年はなんといっても皇子様がいる。

それだけで華やかさが増すクリスマスパーティーとなった。



案の定、アルベルト皇子の周りには頬を染め、ドレスアップした女生徒達がいっぱいだ。

勿論、ラウルやエドガーやレオナルド達も女生徒達に囲まれている。


「 皆、モテモテね 」

殿下がモテモテなのは仕方ないけど……だって皇子様なんだから………

お兄様が言い寄られているのは、ちょっと見たく無いと思ってしまう。

あら………私って案外ブラコンなのかも………



そんな事をぼんやり考えているレティも、男子生徒達から囲まれていて、ユリベラやマリアンナ達と一緒に男子生徒達と楽しくお喋りしていた。



ダンスの音楽が流れ、カップル達が会場の真ん中に次々に手を取り合って集まる。

ドレスがふんわりと揺れ、ダンスが始まった。



さあ、私はリサーチ開始だ。

1年生はダンスが出来ないのでやる事が無いのよね。

皆がダンスに気を取られている間がチャンスだ。

「 ちょっと失礼しますね 」

そう言って輪から離れる。


私は、街のとある洋裁店にデザイン画を提供してるので、常に新しい情報が必要なのだ。


こっそりとドレスを見てまわる。

私のデザインしたドレスは………

数えてみると結構多い、これは、かなりの報酬が貰えるとほくそ笑む。




「 また、変な動きをしてる……… 」

不意に手を取られた。

見るとアルベルト殿下だった。

「 おいで 」

と、レティの手を掴んで歩き出す。


いや、まだ仕事の途中なんだから止めて欲しい。




殿下は私の手を引き歩いて行く。


「 殿下は踊らないのですか? 」

「 踊らない、公務では無いからね 」

「 皆、踊って欲しいと思ってるのに……… 」

「 踊りたい人とは踊れないのに、他の人と踊る必要がある? 」

ちょっと拗ねた様に言う今日の殿下は、何だか可愛い。




講堂から出て、並木道に進んで行く。

正門の前を横切ると、門番さんが私達を見て嬉しそうに深々と頭を下げた。

あっ、あの時の門番さんだ………

良かったちゃんと働いている。


殿下を見上げると殿下も門番さんに気が付いていたみたいだ。

二人で微笑み合う。




料理クラブの後に、何時も二人で歩く道を、反対に歩いていくのはちょっと新鮮だった。



殿下は、何時も私を待っているベンチに座ると、横をポンポンと叩いて、私に座る様に促した。


このベンチは学生達の間で

『 皇子様のベンチ』として周知されていたので、アルベルト皇子以外には誰も座る事は無いのであった。




二人で並んで座るのは初めてだ。

私はある事を予感していて、さっきからドキドキが止まらない…………



並木道の木々にも灯りがキラキラと灯り、ライトアップされている。

綺麗………

この灯りも魔道具なのかも………

『虎の穴』の一員になった今ならそう思える。

今度シエルさんに聞いてみよう…………




講堂から音楽が微かに聞こえる。

外は、冷たい風が微かに流れてはいたが、さっきまで人熱れの中にいたからか、火照った身体に冷たい風が心地よかった。



どうしょう…………

殿下はまた告るつもりかも知れない…………

どうすれば良いの………

また、口を塞ぐか………でもあれは失敗だったわ。

殿下を喜ばせただけだったのよね。

耳を塞いで聞こえない振りをするか………



すると………

殿下は、夜会服のポケットからおもむろに箱を取り出した。

皇族の紋章の入ったロイヤルブルーの箱に金のリボンがかけられていた。


無言で私に差し出す。

「 開けても………? 」

殿下はうんと頷いた。


金のリボンをほどき開けてみると、ネックレスだった。

ダイヤモンドの装飾の真ん中にある大きなアイスブルーのダイヤモンドは、殿下の瞳と同じ色。

15歳の誕生日にプレゼントされたバレッタと同じ色だった。



有り難うございますとお礼を言うと、

殿下は、ちょっとあっちを向いて、と言ってネックレスを私に着けてくれた。

ドキドキして心臓が飛び出そうだ………



「 似合ってる 」

殿下は私の頭にあるバレッタにも目をやり、嬉しそうにしている。





「レティ、」



暫く沈黙が続く………



「 僕の気持ち、ちゃんと伝わってる? 」



殿下は静かに言葉を発した…………





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