第78話 黒の魔法使いと青の錬金術師
虎の穴の応接ルームで
弓矢を挟んでアルベルトとレティが睨み合っていた。
「 レティ、駄目だって言わなかった? 」
「 それに、もう少し待つ様に言ったよね? 」
「 ご免なさい 」
「 何で待てないの? 」
「 待つって何時まで? 」
待ってたって、結局却下されたら、待ってる時間が無駄になるじゃない。
「 大体、何故弓矢の強度が必要なのかの、明確な理由も聞いて無いよね? 」
「 それは、未来に備える為としか言えない 」
「 レティ、従わないなら、ここに来れない様にするしか無いんだよ? それだけ軍事関係は繊細なんだ 」
また、権力を翳すのね。
ここで権力を出されたら、もう何も出来ない………
レティは目にいっぱい涙を浮かべて唇をきつく噛んだ。
まただ………
レティがこんなに弓に拘る理由は何なんだ?
アルベルトは困惑した。
ある時、グレイに弓を習ったことがあるかと聞いたら
「 無いことも無いですが………弓は攻撃力としては弱いですから、やはり私は剣ですね 」
………と言っていた。
弓に深い関心も思い入れも何も無いようだったから、彼女に弓を教えたのはグレイでは無い事は確かだ。
全くレティが分からない………
だけど………
涙を浮かべているレティをこれ以上責める事はもう出来なかった。
「 分かった、じゃあ、弓の話をする時は僕も同席させる事、勝手に話を進めない事、これは皇太子命令 」
レティの目が輝いた。
ああ、弱い、弱すぎる、レティのお願いは何でも叶えてあげたい………
「 ご免、キツイ言い方をしたね 」
レティの頭を撫でながらギュッと抱き締めた。
弓矢を持って錬金術の部屋へ行く。
青いローブを着た錬金術師のシエルがやって来た。
「殿下、歓迎します、リティエラ嬢、殿下に了承して頂けたのですか? 」
はい、と嬉しそうに尻尾を振るレティを、彼はなんと優しげに見ているのか………
灰色の髪に深いエメラルドの瞳、丸い眼鏡を掛けた細身で長身の錬金術師だ。
歳は30歳で、研究ばかりしていて婚期を逃したらしい。
32歳のルーピンよりは少し若いが、爽やかさからか、もっと若く見える。
これは、アウト。
自分が一緒に入る事にして正解だったと、胸を撫で下ろすアルベルトであった。
飛距離を飛ばすには、風の魔力があれば出来るかも知れない事と、威力を増すには雷の魔力で何とかなるらしいが、
2つの魔力の融合は、まだ研究の段階である事を言われた。
「 雷は殿下の魔力ですよね 」
レティがウフフと上目遣いで見上げてくる。
うわっ、可愛い………思わず頭にキスをしたら
「 殿下!!止めてよ!!」………と、怒鳴られたが……
シエルにレティは自分の物だと見せつけたかった。
女性にはソフトで優しく、微笑みを絶やさない素敵な皇子様だが、オスには腹黒だった。
他の魔道具の説明をシエルにして貰う事にした。
「 こちらは蛇口を捻れば水が出て来ると言う研究で、ルーピン所長が積極的に指揮を取ってます 」
「 あら、ルーピン所長は街の消防団で火消しをするべきよ 」
「 成る程……それもありですね 」
シエルのレティを見詰める目は優しい。
シエル自身は、炎の魔力でのオーブンの研究をしてると言う。
成功したら箱の中でお菓子とかが焼けるらしい。
お菓子作りをするレティは興味深々で話に食い付いていた。
キラキラの瞳でシエルを見つめ、コクコクと頷いたり、質問したりしてる。
それにシエルが嬉しそうに目を細め答えている。
面白くない。
全く不愉快だ。
レティを後ろからハグしようとした瞬間、20本の手が伸びてきて
「 殿下、発情してはなりません 」
「 オスとオスのメスを巡る戦いは、古代から……」
「 ワシの手管を是非殿下に………」
………と、いつの間にか錬金術の部屋に入ってきていた10人の赤のマントの爺達が、アルベルトを取り囲んだ。
そしてレティとシエルを見て
「 なんと、妃様は殿下より熟したオスがお好みか………」
「 妃様、より強い子種を貰うのはメスの………」
「 シエル殿、是非ワシの手管を………」
爺達は論ずるのを止めない。
「 もう、卑猥な話ばかりするのは止めてよ! 」
爺達が凄い剣幕のレティに追い出されているのを、シエルが笑いながら見ていた。
グレイにシエル…………
レティはかなりの歳上好きなのかと
アルベルトは不安になった………
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