第35話 帰城





朝食を終えて



ウォリウォール領の館に

皇太子殿下のお迎えが到着した。



女官達も数名到着し

テキパキと手際よく殿下の世話をした。


我が家のメイド達もよく世話をしたが

その、統制された動きは流石に女官達だ。


まあ、殿下個人の世話はクラウド様と執事の爺やがしていたけどね………

 


「世話になった、感謝する」



外に出たら

皇太子殿下専用の馬車と数十人の護衛騎士達が

膝を付いてズラリと整列していた。

女官達の乗ってきた馬車も2台あった。




殿下は1人ずつに礼を述べ

最後に私の前に来ると



「レティ、悩みがあるなら相談にのるよ」

そう言って、私の手を取りその甲に軽く口付けをした。




私は5年後に死ぬみたいなので、助けてくださいとは言えないわ………


真っ赤になりながらも瞳を伏せた。



そうこうしてるうちに

皇太子殿下御一行様は旅立って行った。



「うちも大概金持ちだが、皇族となると規模が違うよな」

………と兄が言った。



ホントにね。



小さい頃から宮殿に出入りしていた兄でさえ、そんな風に思うのだから、皇子から皇太子殿下になったと言う事が、いかに重要な事だと言う事がわかる。



アルベルトはただの皇子では無いのだ。

この国の皇太子殿下なのである。




程無く兄とカイルが帰る事になり、交代で父が来る事になっている。


当主様ご帰還で

館の慌ただしさはまだまだ続くのであった。






********





行きはクラウドと護衛騎士3人だけを連れて、一昼夜馬に乗って駆け付けると言う強硬な旅だったが

帰りはクラウドが手配し

高級宿屋で1泊しながらのゆっくりとした帰城となった。



この時の、アルベルトの無茶苦茶な思い付き公務が、後々大きな意味を持つ事になる。

それはもう少し先のお話。




「 殿下、ご自重を 」

クラウドが宿屋の部屋で言った。



「 毎日好きな女が同じ屋根の下にいるのに、無理な話だ 」



湯浴みの後なんか

ほんのり桜色で、凄く良い匂いがするんだ。

むしろ押し倒さなかった事を誉めるべきだ!

………と17歳の我が国最強のオスが荒ぶる。



「 リティエラ嬢は真っ赤になっていたではありませんか 」

「 可愛いよね、だからついついからかいたくなる 」

「 まだ15歳なのですよ 」




そう、まだ15歳の少女なのだ。

なのに彼女の醸し出す雰囲気は一体何なんだろうか?


執事のセバスチャンが

一昨年まで領地に居た頃とは違う雰囲気だと言っていた。

何か大きなものを心の中に秘めてる様だ。



それでいて底抜けに明るく、度胸もある。

何より、頭脳が天才的なのである。

殿下とも自然に堂々と渡りあえている所をみても

他の令嬢達とは全然違う。



しかし、不思議なのは

誰もが婚姻を望んでいるこの殿下が

これだけの好意を寄せているにも関わらず

殿下のちょっかいに、恥ずかしくて真っ赤になってるにも関わらず

何処か冷めてる感が否めない。


まあ、まだ15歳なのだからと言えばそうなのだろう。



不思議な少女だ。



まあ、殿下に好きな女性が出来た事は喜ばしい事である。

そして、その女性が

婚姻に何の障害も無い女性だと言う事が、実に素晴らしい。



平民の女性なんかを見初めて来ようものなら

それこそ国が衰退する。

皇族の婚姻はそれ程甘くはないのだ。


殿下のこの恋は何としても成就させなければならない。




クラウドがそんな事を考えていると



「 彼女は俺の名前を呼んで魘されてたんだよね 」


殿下がポツリと呟いた。



魘される?

やはり………原因はお前か!

………と………クラウドは心の中で叫んだ。







明日には宮殿に着く。

レティは休暇中いっぱいは領地にいるらしい。

暫くレティに会えない。



「 あっ、殿下、公務がたんまり溜まってますから

暫くは公務中心でお願いします 」



はあ、

レティに会いたいな………

あんなに側に居たのに………

もう既にレティが恋しくなるアルベルトであった。








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