第51話 シャークトパス
「これは魔族の召喚魔法よ!!」
なんだって!?
「召喚……」
俺は人間の召喚魔法でこの世界に招かれてきたが、魔族はこんなものを召喚したっていうのか……っていうかどっからこんなもんを召喚するんだ?
俺達の目の前に現れた巨大な化け物。
ホオジロザメの上半身に、タコの触手を下半身に持つ化け物。シャークトパス。
その米国産日本向けB級映画みたいなモンスターにエイヤレーレ陛下が捕まっている。
「イヤーッ!!」
「キャアッ!」
俺のファイアボールでエイヤレーレの捕まっていた触手を焼き切った。しかしそれと同時にシャークトパスは夜の闇の中に消える。
なんて速さだ。しかも前方にしか進めない普通のサメとは違う。どの方向にでも素早く動ける。これはタコの特性か。
「陛下、大丈夫!?」
「大丈夫か、エイヤレーレ!」
地面に落ちたエイヤレーレの身体を抱きかかえて触手をはがそうとするが、切断した後でも凄い吸着力だ。
「魔族はあんなわけのわからん召喚魔法を使うのか?」
吸盤をはがしながら俺はエイヤレーレに問いかける。
「知っての通り、魔法には属性があるわ……火、土、水、風、サメの5属性よ」
知らない。
「魔族は特にサメ魔法を得意としているものが多いわ。さっきのトリプルヘッドシャークも、このシャークトパスも、おそらく魔族がこの森を守るために召喚した使い魔よ……きっと私達が事前に遣わした使者も……あのサメに」
ちょっと情報が突拍子もなくて処理しきれなくなってきたが、この森にはあんな化け物がうようよしてるってことか。もはや従者も全員食われてしまって残るは俺達三人だけ。魔王城までたどり着けるのか?
「二人とも、気を抜かないで!」
いつの間にかペカが腰に差してた剣を抜いて二人を守る様に立っていた。そう言えばこいつも勇者だから、戦えるんだろうか。煽るだけじゃなく。
だが、シャークトパスは闇に紛れたまま襲い掛かってこない。満腹になって満足したのか? だがそれはそれで困る。あんな化け物に監視されたまま道を進むなんてできない。何とかしておびき出して始末しときたいが。
「どうしたのぉ♡ ペカ達が怖くて隠れてるのぉ?」
ペカが暗闇に対して煽りだす。そうだった。コイツのメスガキ
「ざこ召喚獣♡ 軟骨魚と軟体動物でお似合いじゃん♡ 前と後ろどっちに口があんのか分かんなぁい♡」
「ペカは、この年にしてメスガキ術十段の使い手です……」
術? 段位制なの?
「っていうか『この年にして』って、メスガキ術ってガキの内にしか使えないもんじゃないの?」
「良く知っていますね」
大体わかるよ。
しかし二人が会話をしている隙をついてシャークトパスは襲い掛かって来た。
「キャアッ!?」
闇の中から触手が伸びる。ペカは一本を切り落としたが、次の触手に巻き取られる。メスガキに触手だと!? これは危険だ。
触手がペカの両脚にそれぞれ絡みついて強制的に足を開かせる。おいおいこれ本当にまずいぞ。
「イヤーッ!!」
俺のファイアボールがシャークトパスを襲うが、触手の近くにある漏斗から墨が吐き出されてなんと相殺されてしまった。マジか。カルアミルクより強いぞコイツ。今度はもっと強い魔力で消し飛ばしてやる!
「ペカみたいな子供相手に触手プレイなんてとんだ変態ね♡ このざこ触手♡」
しめた。シャークトパスの動きが止まった。俺はその隙に魔力を高める。
ペカはぎりぎりと触手に締め上げられながらも、しかし煽りを止めることは決してしない。
「ざこサメ♡ 軟体動物と合体なんて退化じゃん♡ そんなんで私ら哺乳類に勝つつもり? せめて脊索動物と合体しろ♡ そんなんじゃ何億光年経ってもペカには追いつけないし♡」
「いや『光年』は距離の単位だから」
「あっ♡ そうか♡」
「いけませんケンジ!」
いけない? なにが?
「キャァッ!!」
途端にペカが苦しそうに呻きだす。
「メスガキに『わからせる』と、スキルの効力が失われます!!」
なんだと。
しかし考えてる暇はない。あの巨体に十分効かせられる魔力はまだ溜まってないが、早く魔法を撃たなきゃ!
「ざ、ざ~こ♡ ざこモンスター♡」
聞こえてきたのはペカの声ではない。ペカはぎりぎりと胴を触手で締め付けられて声が出せない。その若干ハスキーな声は俺の隣、エイヤレーレから聞こえてきた。
「シャチどころかバンドウイルカにすら負ける♡ しかも肝臓だけ食べられて後は捨てられる♡」
やはり食われるネタは相当頭にくるらしく、怒り狂ったシャークトパスはペカを放り投げてエイヤレーレに襲い掛かって来た。
しかしこれでいい。これで十分だ。エイヤレーレが十分に煽ってくれたおかげで俺は魔力を溜めることができた。
「ファイアボール!!」
命中だ。シャークトパスはごうごうを音を立てて燃え始める。
「ペカ! 大丈夫か!?」
大分痛めつけられたペカはゴホゴホと咳き込んでいる。俺は回復魔法をかけながらエイヤレーレに話しかけた。
「エイヤレーレ、君もメスガキ術を……?」
「ええ……実は、ペカにメスガキ術を伝授したのは、私なのです。こんな小さな子が勇者などという危険な職業に就けられたのが見ていられなくって……せめて身を守る
逆効果だと思うぞ。
「自分でメスガキ術を使うのは10年以上振り……やはり全盛期のようにはいきませんが……」
相当痛々しかったぞ。
しかしそのおかげでなんとか命拾いできたのも事実。従者も荷物も失ってしまった俺達はシャークトパスの足を食って飢えを凌いだ。調味料全く無しでもうめぇ。
「とはいうものの……こっからどうするのよぉ?」
ペカがまだタコの足に食いつきながら俺に尋ねてくる。まあ正直『詰み』だ。
何しろまだ魔王城がどの辺りにあるのかすら分からない。その上であんな化け物が闊歩している森の中を歩けと言われれば引き返す方がはるかに現実味があるだろう。
但し、それは「普通の奴なら」の話だ。俺は違う。
「サーチ!」
「またその魔法なの……?」
エイヤレーレが不安そうな顔でそう呟くが、しかし今は使えるものは何でも使わないとな。俺はさらにサーチの効果範囲を拡大していく。タコに多く含まれるタウリンはMP回復作用があるからできる芸当だ。
魔王『城』と言うからには魔族がたくさんいるはず。それならば赤い光点のある場所を訪ねていけば、と思ったのだが……
見えた物は、信じられないような超高速で渦を巻いて移動している無数の赤い光点だった。
「見て、ケンジ!」
エイヤレーレが遠くを指さす。
いつの間にか轟音を立てて渦上に雲を巻き上げる竜巻。しかも、その竜巻と、サーチ画面の光点の渦がどうやら一致しているようだ。
「あれは……まさか……」
エイヤレーレの顔が恐怖に歪む。
「シャークネード!!」
なんだと。
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