転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

@geckodoh

まれびと来たりて

第1話 おっぱい異世界

 風が吹く。広大な丘の上の草が薙ぐ。


 空には太陽、大地には草原。


「すげぇ……本当に来ちまった……異世界……」


 思わず俺の口から言葉が漏れた。先ほどまでいたギリシャ風の神殿から一瞬のうちに風景が変わった。ここがまだ、地球であるという可能性も捨てきれないが、俺の胸の内には希望と期待が満ち溢れている。


「とは言うものの……生き物が全然いないな……おっ、第一村人発見!」


 丘の向こうに人影が見える。よかった。このまま誰にも会えずにモンスターとエンカウントしたり、それすらもなく何にも会えずに野垂れ死に、という最悪のケースはこれで脱することができたわけだ。


 シルエットからすると……どうやら女性みたいだ。細い体に膨らんだスカート。うむ、幸先いい。これでおっぱいが大きいなら言うことなしだな。


 ん? どうやら彼女もこっちに走ってきてるみたいだな。それもなんか、後ろをちらちらと振り返りながら。


「……げて! 逃げて!!」


「えっ!?」


 思わず立ち止まる。いきなり『逃げて』? 何かに追われてるのか? というか言葉、通じるんだな。あの女神、なかなか気が利くじゃん。


 でも『逃げて』? って……俺は少女の後ろに焦点を合わせて遠くを見る。あ……なんかヤバイ。獣が一匹追いかけてきてる。それもすげえでけえ。


「マジか……いきなりモンスターかよ!」


 だが俺は絶望しない。


 女神は言っていた。あなたには、勇者の素質があります。人並外れた強い魔力があります。あなたが望めば、できないことなどないでしょう、と。


 魔法が、使えるはず。


 そう考えて俺は両手を胸の前で合わせて意識を集中する。胸の奥に何か熱いものが込み上げてくる。そしてそれを両掌の中に集めるようにイメージする。今までに感じたことのない、ぐつぐつと煮えたぎる力を感じる。


 直感的に『できる』と判断した。


「何してるの! 早く逃げて!!」


 もう少女は10メートルほどの近距離にまで走ってきている。そしてそのすぐ後ろに今にも飛び掛かろうという雰囲気を漂わせて、体高が2メートル弱もある巨大な白銀のオオカミが追いかけている。


「喰らえ! ファイアボール!!」


「きゃっ!!」


 突き出した右手のひらが赤熱化する。少女はそれに驚いてその場に伏せた。


 ギィン、と、およそ炎とは思えないような音を立てて俺の右手から直径30センチほどもある赤いレーザーが放たれた。


「ボールじゃねぇのかよ!!」


 いや、実を言うと確かにボールだったんだけど、残像を残してゆくその凄まじいスピードがレーザーに見えたのだ。


 俺の放ったファイアボールは巨大なオオカミを撃ち抜き、爆発四散させ、その軌道上にあった草花すらも消し炭と変え、そして数百メートルの『灰の道』をのこして消え去った。オーバーキルにも程がある。


「チート過ぎるだろ……」


 俺はまだ白煙をあげている自分の右手を見ながら呟いた。


「す……すごい。あなた、あんなに強い魔法を使えるの……? それも無詠唱で……」


 少女は驚愕に目を見開き、ゆっくりと立ち上がった。一応気を付けていたものの、しかし軌道上に彼女がいなくて本当によかった。


「む、無詠唱って、そんなにすごいのか?」


「いや、知らんけど」


「知らないのかよ!!」


 くっそ、外された。今俺、完全にだらしない笑顔を浮かべてたわ。そして冷や水を浴びせられた。


 しかし、改めて見てみると非常に美しい少女だ。細いシルエットに不釣り合いに異常なほどに大きなおっぱい。肌は雪のように白く、そしておっぱいが大きい。


 ディルアンドルみたいにコルセットで引き締められたウエストと、それによって強調されるおっぱい。あらわになっている胸の谷間がさらにおっぱいの主張を強めている。


 髪は薄桃色で、柔らかな太陽の光にシルクのようにきらきらと輝いている。付け加えて言うなら、おっぱいが大きい。


「だって、魔法なんて初めて見たんだもん! しかも『オンデアの獣』を一撃で仕留めるなんて……ふつうは村の大人たちが十数人がかりで駆除する物なのに」


 彼女は相変わらず驚愕の表情を浮かべている。なるほど、無詠唱以前にそもそもこの世界ではおっぱいは珍しいものなのか。しかもさっきのおっぱいも相当強いおっぱいらしい。


「私の名前はサリスっていうの。あなたは?」


 おっぱいはサリスと名乗った。見た感じ年の頃は十六歳くらいのおっぱいだろうか。愛らしいおっぱいで彼女は俺を見つめてくる。


「ねえ、なんていうの? なまえ」


「おっぱ……なに?」


「名前よ、なーまーえ! 木石にあらねば名ぐらいあろう」


 なんだ今の喋り方。女神がやってくれた翻訳ちゃんと機能してんのかな? まあいいや。


「俺の名はケンジだ。まあその……遠い国から来て……ここには身寄りも何もないんだが……」


 精一杯心細そうな演技をして俺はおっぱいを見る。


「ふぅん……じゃあさ、うちの村に来ない? ケンジは私の命の恩人だもん。歓迎するよ!」


 サリスは恥ずかしそうにもじもじと、おっぱいを赤らめながら俺の方を見てくる。やめろ……そんな目で見つめられたら……好きになってまうやろうが!


 俺は気恥ずかしさをごまかすように彼女の頭にポン、と手を乗せて、精おっぱいの爽やかな笑顔を作りながら、優しく撫でた。


「ありがとう、助かるよ」


 彼女は顔を真っ赤にして俯く。これは……いけるんちゃうかな。


 俺は彼女と一緒に村に向かって歩き、道中この辺りの状況や、あんなモンスターがよく出るのか、その辺りを訪ねた。


 彼女が言うには、最近とみに魔物の数が増えているのだという。そして『オンデアの獣』と呼ばれるモンスター。


 彼女も油断していたらしい。以前は決して森から奴らが出てくることはなかったから。


「なんでモンスターが増えてるんだ?」


 彼女は真剣な表情になって呟く。


「多分……『魔王』が復活して、私達の国、ガンクテルム王国に宣戦布告したからよ……」


 『魔王』……その単語を聞いて俺は戦慄した。


 たしか、俺をこの世界に送り出す時に女神が言っていた。これから向かう世界では数多あまたの困難が待ち受けている。俺には、その類い稀なる能力を使って、その世界の人々を救ってほしいと。


 その『困難』というのがつまり、『魔王』なのだろう。


「この国にはね……言い伝えがあるの。悪魔の王が現れた時、それに匹敵しうる唯一の力を持つ『勇者』が、遠き地より現れて、奴らを撃ち滅ぼすだろう……って」


 やはり、そういうことなんだ。


 俺は、使命をもってこの世界に送り出された。『勇者』となって、強大な敵に立ち向かうため。


 サリスはさらに言葉を続ける。


「だからね……私達ガンクテルムの人間には義務があるの。まれびとたる『勇者』様に憂いなく戦っていただけるように、全力でもてなしをする、っていう義務がね……」


 そう言ったサリスの笑顔は、なぜか悲しそうな憂いを帯びて見えた。

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