第90話 忍者が恋なんてするわけない⑨
「待っていたアルよ、お松」
「くっ、その名で呼ぶな、お梅」
ハレオとセバスチャンが約束の場所に着くと、パイプイスに座らされ後ろ手に縛られたモッカと、腰辺りまでの深いスリットにドラゴンの刺繍が入った青いチャイナ服に身を包んだ女の子が立っている。
身長は150㎝くらい、露出の多いチャイナ服の所為で胸の小ささが強調され体の線は細い。赤い口紅と赤いアイシャドウは自身の幼さを隠す様に厚く塗られ、ピンク色の髪は2つのお団子に纏められている。
到着した2人を確認したその子は、セバスチャンをお松と呼び、セバスチャンはその子をお梅と呼んだ。
「お梅じゃないアル、夜に来る香り、夜来香と書いてイエライシャンだっ」
「私にだってデセンデント・ブラッドライン・オービディエス・バトラーニンジャ・セバスチャンという立派な名がある」
「長っダサっ、なんだバトラーニンジャって、高3のくせに中二かよ」
「黙れっお前こそなんだ、当て字か、大好きな梅干しでも食ってろ」
「はぁ?梅干しとか食わんアル」
「大好きだったろ、だから高3にもなってそんな貧相な体なんじゃないのか?」
「だまれっこの体は梅干しの所為じゃないアル。お前こそなんだ、まだ男のフリして遊んでいるのかレズビアンめ」
「誰の所為でこうなったと思っているんだ。露出狂のお前が悪いんだからな」
「はぁ、人の所為にするんじゃない、我にそんな趣味ないアル、それにコスプレイヤーを露出狂と呼ぶのも止めるアル」
「ふんっ同じ様なもんだろ、だいたいなんで今頃現れた。里を追放されて男漁りしてたんじゃないのか淫乱め」
「カメコに囲まれるのを男漁りと揶揄して、里から追い出される原因を作ったのはお前じゃないか、必死に探し回って、やっと見つけたんだからな、我と同じ屈辱をお前にも味わってもらうアル」
「それでモッカお嬢様を攫ったのか」
「ああ、御屋形様とやらに工面してもらった金を今ここで焼き払い、お前に対する信用を地に落とす。今度はお前が路頭に迷うアル」
「バカめ、お前の考えなぞお見通しだ」
「なんだと、まさか、それは偽札アルか」
「本物だ。だが御屋形様の金ではない」
「じゃあどこからそんな大金を……」
お梅(イエライシャン)はハレオの存在に気付いた。
お松(セバスチャン)も自信有り気にハレオの背中を押した。
「お、俺の金です」
お梅とお松の言い争いで、なんとなく2人の関係が分かり呆れ顔のハレオは、自分の金を持って一刻も早くこの場から立ち去る方法を模索する。
「ハレオさん、すごい、ハレオさんってお金持ちだったんですね」
縛られているモッカが満面の笑みで発言した。
「ああ、まぁ」
モッカの笑顔に普通に照れるハレオ。
「勝手に盛り上がるんじゃないアルよ、人質は黙ってろアル」
「黙って聞いてましたが、お金を燃やすのは聞き捨てなりません、話が違います。お金は大切に扱ってこそですよ、もう人質ごっこも飽きたので縄を解いて下さい」
お金の出どころと、お松(セバスチャン)との関係を理解したモッカも呆れ顔でお梅(イエラシシャン)を見る。
「ふんっ金がダメなら、お前を使ってお松の信用を失わせるまでアル。執事の所為で大事な娘の顔に傷が付いたら、奴もお終いアルねぇ」
「貴様っお嬢様に指一本触れてみろ、即座に首を撥ねるぞ」
「おうおう、望むところアル」
お梅とお松は臨戦態勢に入った。
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