第29話 幼馴染は捧げたくてたまらない③
ボタンは勇気を振り絞り、ハレオに初めての唇を捧げた、ハズだった。
どういうこと?なんでトウカちゃんがハレオくんのベッドの中に?
暗闇に目が慣れ、視界に入ってきたのは、フリフリのネグリジェをはだけさせて幸せそうに眠るトウカ。
そしてボタンは思考を巡らせる。
どういうこと?
なんでトウカちゃんが?
ここはハレオくんのベッドでしょ?
え?もしかしてハレオくんと一緒に寝てたの?
あっ妹だもんね、兄妹だから一緒にも寝るわよね……。
……ないないない、中1の女の子と高1の男の子が同じお布団では寝ない。
ちょっと待って、トウカちゃんの今の寝言「実子と養子は結婚できる」?法律のことなんて良くは分からないけど、そうなの?結婚前提?そういう関係なの?
しかも、ハレオくんのベッドはそんなに大きくなかったから、トウカちゃんの向こう側にハレオくんが寝ているのだとしたら……。
酷い、酷いよハレオくん、スミレちゃんならまだしも、今まで存在すら知らなかった妹とそんなふしだらな関係だったなんて……私のこの気持ちはどうなるの?どこへ向ければいいの?
手を伸ばせば、すぐそこにハレオくんが居るのに、全てを捧げようと決めたのに、妹という憎き強大な敵が邪魔をする……。
確かにトウカちゃんは可愛いけど、唇も柔らかくて甘いけど……。
あれ?どうしてだろう、なんだか眠っているトウカちゃんを見ていると、胸がドキドキしてきた。
え?なんだかもう一度キスしたい、もう一度キスして確かめたい、あの柔らかさ、甘さ、唇と唇が触れるその感触、ハレオくんに捧げようと思っていたのに……。
隣にハレオくんが眠っているのに……。
ハレオくんが……そうだわ、トウカちゃんとキスをして、ハレオくんともキスをすればいいんじゃない?
2人がそういう関係なら、私も加わればいいんじゃない?
ハレオくんがそれでも良いと言うのなら、私は一夫多妻制だって受け入れるつもりだった。だから兄妹だって受け入れれるハズよ……。
嫌、やっぱり嫌よ、そんなの許さない、ハレオくんは誰にも渡さない、例え妹だろうと。
そうよ、兄妹で、こんなふしだらな関係、許されるハズがない、不潔よ、軽蔑するわ。
どうしてやろうかしら、まずは皆に言い触らして、こんな関係終わらせてあげるわ。
……そんなことしたら、ハレオくんもトウカちゃんも傷付いてしまう……。
なんて酷い考え、私は、なんて心が狭いの……。
欲望に身を任せた己の行動、その加速した鼓動に身を任せたボタンの思考は、怒りから絶望へ、そして悲しみへと目まぐるしく移り変わり、そして涙した。
「無理、もう嫌だ、私、帰るっ」
ボタンは、自分の思考を制御できず、その場から逃げた。
ハレオのベッドから飛び起き、ドアへ向かう。
「キャッ」
目が慣れたとはいえ、明かりも無い真っ暗な部屋。
忍び込んだ際に足に触れたお布団の様な物に躓き、体勢を崩したボタンはそのまま倒れてしまう。
ボフッ。
(なにコレ?柔らかい、そして、熱くて甘い、トウカちゃんのよりも甘い)
ボタンの倒れた先。部屋が広すぎて眠れないからと、数日おきにハレオの部屋に寝に来るトウカの為に、床に敷いたハレオの布団だった。
布団の弾力と、自らの胸の弾力で倒れた衝撃を緩め、そしてボタンの顔は、寝ているハレオの顔の直前で止まった。
唇と唇が触れるくらいの直前で。
パチッ。
「どったの?騒がしいな」
ボタンの喚き声と、悲鳴に目が覚め、明かりを付けるトウカ。
ボタンはすぐさま体制を整え、その場で正座する。
「ボタンさん?」
「ん?なんだ、どうした?」
ボタンに気付くトウカと、目を覚ますハレオ。
「なんだボタン、お前も眠れないのか?というか泣くほどかよ」
「えっ、いや、これは……」
必死に涙を拭うボタン。
「しょうがねえな、もう1つ布団持ってくるから待ってろ」
ハレオは、テキパキと寝具一式を準備し、自分の布団とトウカが眠るベッドの間に敷いた。
「えっ、あの……」
それをずっと正座で待っていたボタンは、状況を整理する。
「ほれ、これで静かに寝てくれ、明日も早起きして掃除しまくるからな、手伝ってもらうぞ、おやすみ」
「おやすみー」
そそくさと布団に顔を埋めるハレオと、それに追随するトウカ。
「お、おやすみなさい……」
自分の勘違いと、それにより引き起こされた、ハレオとの初めての口づけ。
眠れる訳がない……そう思っていたボタンだったが、胸の高鳴りと怒りと涙、そして嬉しさ、その感情の荒波は、やがて疲労へと変わり、いつの間にか眠っていた。とてもとても幸せそうな笑顔で。
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