第16話 美少女になんて挟まれない④

 「なんですか金田先輩、イジメですか、ハレオのことイジメたらわたしが承知しませんから」

 スミレは、ハレオと、ぶつかってきた男子生徒の間に割って入り、間髪入れず捲し立てた。


 スミレが金田と呼んだ男子生徒は、金田成幸(カネダ・ナリユキ)W高3年、ツーブロックの金髪頭に、耳にピアス、背丈はハレオより少し高く筋肉質、目鼻立ちがくっきりしているハーフ顔、悪くない顔立ちだが、ガムを噛みながら喋るあたり優良な生徒とは言い難い。


 「だめだよスミレちゃん、生徒会長には逆らわない方がいいって」

 だが、ボタンの言う通り、金田はこのキャンパスの生徒会長を務めている。

 「なにが生徒会長よ、自分で勝手に名乗ってるだけでしょ」

 スミレは核心を突く。


 スミレの言う通り、自由な校風を主とするW高には、生徒会などという煩わしい組織は存在しない。存在はしないが、自由な校風故、何を名乗るのも自由。やりたい人がやりたい事をやればいい、ただし責任をもって勤めよ、それが校則でもある。

 もちろん行き過ぎた行為は罰せられ、W高本部による裏付け審査で、一発退学もありえる。


 「お前だって勝手に放送委員名乗ってんじゃねぇかよ」

 「そ、それは……」

 金田に、核心を突かれ怯むスミレ。


 「あのう、俺に何か用ですか?なんか失礼な事してたら、先に謝りますけど」

 登校初日のハレオ。宝くじの当選金の事もあるし、あまり目立つ行為や面倒事は避けたい、それにこのままでは、熱くなっているスミレが暴走しかねない、熱血漢なスミレの悪い癖はハレオも良く知っている。そんなスミレを宥めるようにソファーに座らせ、指をクイクイとこっちに来るように促す金田に付いて、少し離れた場所に向かった。



 「晴間だっけ?お前さぁ何なの」

 「何がですか?」

 「何がですかじゃねぇよ」

 「だから失礼な事してたら謝りますって」

 トウカの母娘喧嘩の際もそうだったが、ハレオはすぐに謝りたがる、めんどくさいことが嫌いなのだ、自分を卑下すれば回避できるなら、それに越したことはないと思っている。


 「もういい、晴間、明日から登校するな」

 「はぁ、意味が分かりませんよ」

 「そう、お前は分かっていないんだよ何も、ナジミ・スミレとオサナ・ボタン、お前が同伴登校したあの2人が、このキャンパスで、どれだけアイドル的な存在かを」

 「アイドル?」

 「そうだ、登校した新学期初日から放たれる、あの2人の圧倒的なオーラ、かたや童顔で巨乳な甘え上手、かたやスレンダーで姉御肌で太陽の様な笑顔。男ならず、女までも、あの2人の虜になった、いや成らざるを得なかった。逸材だよ、間違いない、あれは大成する」

 その見た目とは裏腹に、スミレとボタンを熱く語り始める金田。ハレオは、その場を無言で離れたくなった。


 「あの2人がフリーなうちは、このキャンパスの均衡が保たれるんだ。それが崩壊すれば、失意の末、不登校になる生徒も多いだろう、オンライン授業があるから登校しなくてもいいのだが、それはそれで、このキャンパスの運営に関わるのだ」

 運営?ハレオは、なんで一生徒がキャンパスの運営を気にしているのだろうと疑問に思った。


 「だから、お前は登校するな、お前が犠牲になって、オンライン授業で居てくれれば、全て丸く収まる」

 「いやいやいや、全然意味が分かりませんって、あの2人が人気者ってのは分かりましたが、それと俺の登校に何の関係があるって言うんですか?」

 「き、貴様、わざと言っているのか?」

 「ちゃんと言わないと、ホント分からないんですって」

 しらばっくれるわけでもない、それが演技だとしたら、どれだけ千両役者なのだ、そう思った金田は、真実を口にする。


 「キャンパスのアイドルを侍らせたハーレム状態。お前に向けられた殺意に気付かんのか」

 「ハーレム……」


 その言葉に、悪寒が走った。

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