第7話 妹なんていたことない③

 金髪カールに金色ネックレス、スモーキーピンクのファーコートにグレーのひざ丈タイトスカート、思わず「セレブかっ」とか突っ込んでしまいそうなくらい、セレブなお姉さんがハレオ宅の玄関に立っていた。


 「あのう、うちのモモカは?」

 「はい、ここに居ますよ」

 ハレオがリビングの方に目をやると、さっきまでソファーに座っていたモモカの姿は消えていた。

 「あいつ逃げやがったな」

 「?」

 モモカの母親は首を傾げる。


 「いや、さっきまでそこに居たんですけどね、ちょっと待っててくださいね、探してきますので、どうぞ上がって下さい」

 「いえ、お構いなく、ここで待ちます」

 「いや、探すといっても、なにぶん広い家なので、時間が掛かってしまいます。どうかお上がり下さい」

 「そうですか、ご丁寧にありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 そう言って、ハイヒールを脱ぎ揃え、ハレオの横を通り過ぎるモモカの母親、その残り香たるやセレブのそれ、男を惑わす魅惑の香り。

 だが、ハレオは一切動じない、小学生時代にハーレムで過ごしたハレオには通じない。

 

 「暑かったらコートはここに掛けて下さいね」

 「色々とありがとうございます」

 親切のつもりだったが、ハレオは少し後悔した。

 その理由はコートの下がペラッペラのキャミソールだったから。そして飛び込んでくる美乳、巨乳ではないが、その存在を如実に示す美乳。

 これにはハーレム慣れしている流石のハレオも目のやり場に困った。


 「あのう、そういえば何で、ここにお子さんが居るって分かったんですか?」

 「GPSですよ、その位置情報を晴間の奥方様に相談したら、たぶんこの部屋だろうって」

 「ちっ」

 晴間の奥方様、その気になり過ぎるワードと、全然服がしまわれていないウォークインクローゼットから聞こえた舌打ち。


 「晴間の奥方様って、もしかして」

 ハレオは、モモカの舌打ちをスルーした。

 「はい、あなたのお母様です」

 「……俺の母親は1人ですよ、その人じゃない」

 ハレオは、低い声で、そう返した。


 「すみません、少し配慮が足りていませんでした」

 「いえ、いいんです、あなたの所為じゃない、全部あの親父が悪いんです。あ、そうだ、トウカ……じゃないモモカさんが、俺の妹とか嘘ついてたんで、帰ったら叱っといて下さい、もう二度と俺の生活の邪魔をしない様にお願いします。親父の関係者とは一切の関りを持ちたくありませんので」

 配慮を欠いたハレオの言葉に、モモカの母親は、こう切り返す。


 「モモカは、あなたの妹で間違いありませんよ」


 「あーあーあーあーあーあーあーあー」

 ハレオは耳をパンパン叩きながら聞こえない振りをした。

 「小学生かっ」

 ウォークインクローゼットから突っ込みが入る。


 「うふふふ、面白い人ですね、まるでダテオさんみたい」

 「笑えないのですけど、親父の名前出さないで下さい、だいたい、歳が近過ぎます。ありえないです、俺が小さい頃の親父は朝から晩まで一生懸命働いてました。不倫なんてできるはずないっ」

 「不倫……ダテオさん、いえ、あなたのお父様は、そんな事をする人じゃありませんよ」

 「じゃあ、なんだっていうんですか、なんでモモカが俺の妹になるんですか」

 「養子縁組です」

 「養子?」

 「はい、このことはダテオさんから口止めされていましたが、もうダテオさんは……」

 シルクのハンカチを取り出し、目頭を押さえるモモカの母親。


 「いやいやいや、泣いても騙されませんよ俺は、なんなんですか、急に現れて、妹だとか、養子だとか、訳が分からない……いいかげんに……」

 声を荒げた、ハレオの脳裏に、良くない考えが浮かんだ。


 「まさか、あんた達、俺のカネ……」

 「もういいよ、母さん、私帰る」

 「モモカっ」

 ハレオの最低最悪な発言は、モモカと母親の抱擁で掻き消された。

 帰り際に「また必ず来るからな、お兄ちゃん」と、小さな声でハレオに耳打ちするモモカの背を見送りながら「また引っ越すか」と虚無の小声を漏らすハレオであった。

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