第5話 妹なんていたことない①

 一週間後。


 「複雑なインテリア、掃除し難そうな構造の部屋部屋、だが俺は屈しまない!」

 訳の分からない独り言を発したハレオが立っていたのは、お相撲さんもビックリの広さを有するダイニング、シェフを3人は雇えそうなキッチン、100インチ高性能プロジェクター完備のミニシアター型リビング。

 それに、加えて居室8、トイレ3、フロ2の最早住居と呼べるのか分からなくなる程の高級マンション。


 15歳、高校一年生が果たしてマンションを契約出来るのかという問題。ハレオはまずその壁にぶち当たった。

 しかし、既にマンションに居るということは、その問題はクリアしていることになる。

 種を明かせば単純で、父親のハレマ・ダテオは、ハレオの母親と既に離婚しており、世間体を気にしたダテオは、再婚済みだったという事。ダテオが死んだ現在、親権はその再婚相手が持っている状態だったという事。

 それを知ったハレオは、すぐに再婚相手を探し出し、親権者の同意を得て契約に至ったのだった。このご時世、大枚を払えば探偵、弁護士、選びたい放題、己の生活を守るためなら、宝くじの当選金を惜しみなく使用した。

 

 己の身に合わぬ住居を手に入れたハレオの金銭感覚は崩壊しているかに見えたが、引っ越し後、すぐに近所の最安スーパーを探し出し、チラシと睨めっこしながら自炊に勤しみ、スマホはシムフリー、日用品は業務スーパーやネットでのまとめ買いに徹し、不要な場所の水道は閉じ、未使用部屋のブレーカーは落とし質素倹約に務めた。購入してしまったものはどうしようもないし、資産としてみれば、優良物件。一瞬で億が消費されたが、それはそれで良しとしたハレオは、そのまま住むことを決意したのだった。


 それはさておき、この高校入学間もないド平日の昼間に、何故ハレオは、登校もせず、家の掃除に勤しんでいるのか?

 

 ハレオの進学した高校は学校法人ワクワク学園設立の私立通信制高等学校で、通称W高と呼ばれており、コースによっては年数回の登校で高校卒業の資格を得ることが可能。だからといって遊び惚ける事を目的としている訳ではなく、最近流行のVRオンライン授業やプログラミング教育、その他エンターテインメント業界に関する授業に特化しており、自由な時間を増やしワールドワイドに展開する教育を前面に押し出した先進的で画期的な高校だった。

 

 事実、地方にキャンパスが多い事も起因するが、設立5年目にして、生徒の在籍数全国1位の5万人超え、名門大学への進学率を大幅に増加させ、プロスポーツ選手を輩出するだけでなく、e-スポーツ大会の優勝校筆頭、アニメーター、声優業界への就職率99%、起業家やトレーダー等をも育成輩出している。

 

 W高のWは、WorldWideWEB、Wish(希望)Winner(勝利者)Wisdom(智慧)Wholeness(一体性)Whimsical(風変わりな)の意味を持っているらしい……後半のWとかは、カッコ良さ優先で付けたとしか思えないくらい、カッコいい高校だった。しかし、ハレオはカッコ良さで選んだ訳ではなく、単に学費が最安だっという理由からだった、父親が亡くなり財産も無い、母親も行方不明、それしか選択肢がなかったのだ。


 「さてと、やりがいのある8LDKの掃除も一段落したし、オンライン授業でも受けるか」

 ハレオがVRヘッドセットを装着しようと机に向かった直後。


 ピンポーン。

 高級マンションになっても相変わらずのチャイム音に何の違和感も覚えないハレオは、インターホンカメラを覗いた。


 「えーと、どなたですか?」

 モニターに映るのは、お団子頭で、白いワンピースの上から品の良い紺のジャケットを羽織った少女。小学校高学年くらいだろうか。その対応通り、ハレオには見覚えのない子。


 「早く中に入れろよ、全部バラすゾ」

 「あの~なんか人違いしてないですか?」

 初対面で浴びせられるハズも無い言葉と、可愛らしい顔や服装からは想像も出来ない口調に、少し戸惑い敬語になるハレオ。


 「だまれ、早くしないと、ロリコン罪ではしゅちゅじょに駆け込むゾ」

 「はしゅちゅじょって何だよ、言えないなら交番って言え、それにロリコン罪とか無いからな、悪戯してないで帰りなさい」

 「うっっさーーーーい、じゃあバラす、宝くじのこと全部そこら辺にいる奴らに言いふらしてくるからなー」

 「ちょ、ちょっと待て頂けますでしょうか」

 ハレオは、慌ててマンションの入口のドアロックを解除し、少女を迎え入れた。


 玄関を空けて入ってきた少女は、モニター越しで見るよりも小さいが、少し化粧をしているのか、顔は整っていて大人っぽい。


 「あの、どなたなのでしょうか?なぜ宝くじの事をご存じで?」

 ハレオは、すぐさま、お茶菓子を用意し、リビングのソファーに案内する。


 「ほれ」

 少女は不愛想にそう言うと、右手の甲をハレオに差し出した。


 「これは?」

 「分からんのか?紳士がレディにするアレだ」

 「いや~ホントに分からないのですが」

 「キ、キスだよバカ、手の甲にキスしろって事」

 「え、ええええーーーーなんで俺がそんな恥ずかしい事」

 「じゃあバラす、ここの窓から大声で叫んでやる、宝くじ当てた億万長者の若造が、一人で暮らしてますーって」

 「ちょっ、分かったよ、こ、こうか?」

 ハレオは、少女の小さな手を取り、上下の唇を噛みながらキスをする振りをした。


 カシャ。


 それは紛れもないシャッター音。

 「はい、撮ったーロリコン罪撮ったったー」

 「……」

 ドヤ顔の少女に怒る気も失うハレオ。


 「刑務所入りたくなかったら、言う事聞くんだな」

 「なんだよ言う事って」

 「わたしは、今日からお前の妹だ」

 「は?」


 「よろしくな、お兄ちゃん」

 「はぁーーーーーー?」

 一人っ子のハレオに妹が出来た。

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