第4話 幼馴染は気が付かない④
「スミレちゃん、これはね、その、なんというか、ハレオくんが……」
突然の親友に、涙を拭い、衣服を整えるボタン。
「ハレオ、お前ぇ、ボタンちゃんに何をしたぁー」
泣いている女の親友と、その傍に居る男の幼馴染、正義感の強いスミレがハレオを責める選択したのは必然。
「なんだよスミレ、お前もなんか食いにきたのか?しょうがないな、2人共プッタネスカでいいよな」
「ぷ、ぷったねすか?」
悪びれる様子を見せない何時ものハレオに、スミレは冷静さを取り戻す。
「スミレちゃん、早いんだね、今日は部活無かったの?」
「あ、ああ、ちょっと足を痛めちゃって、久しぶりにハレオの顔でも見ようかと思ってさ、それよりも大丈夫?ボタンちゃん泣いてた気がするけど」
「ああ、大丈夫、ちょっと嬉しくって」
「嬉しい?ハレオと何かあったの?」
スポーツ推薦で入学したスミレは、部活に専念し、ハレオの家で遊ぶことも少なくなっていた。
そんな折、足のケガで久しぶり訪れたハレオ宅で目撃した2人のあられもない姿に興味津々なスミレは小声でボタンに詰め寄る。
「なんでもないよぅ、ただ……」
「ただ?」
「わたし、ハレオくんの事、好きかもしれない」
「えええええ?」
「なんだ?どうした?」
プッタネスカを調理中のハレオは、大声で叫んだスミレに反応する。
「いや、なんでもないから、ハレオは頑張って美味しいプッタなんとか作っててよ」
「なんだよ、仲間外れかよ、近所迷惑だから、あんま叫ぶなよーもう俺たち高校生なんだぞ」
「ちょっとボタンちゃん、なんで急にそんなこと言っちゃってるの?」
「え?急にじゃないよ、前からちょっと、そうかもって思ってたから」
「そ、そうなのか、そうか、それはそれは、応援しないとな……」
「応援?スミレちゃんは、それでいいの?」
急に突っかかる口調のボタン。
「な、なにがさ、友達を応援するのは当たり前だろ、ただなぁ相手がハレオじゃなー、ほら、あいつさ、料理オタクじゃん、掃除好きで掃除ばっかりやってるじゃん、中学卒業間近にはゲーム付き合いも悪くなったし、趣味と言ったらジョギングぐらいじゃん、一緒に並走しながら喋るしか楽しみないよ……」
自分で言っておいて何だが、最高じゃん。と思ったスミレ。
「ふ~ん、じゃあ応援してね」
スミレ本人よりも、ボタンの方がスミレの気持ちを理解していた。だからこそ、そこを強調した。これはボタンの生存本能、スミレの事を最大のライバルとして認めた上で選択した発言だった。
「ああ、うん、けどさ、わたしも偶にはこうやってハレオのご飯食べに来てもいいよね」
「もちろんだよ」
「そっか、ありがとうね」
スミレが掴んだ僅かな光、その感謝の言葉は本心から出ていた。なぜ、ハレオの家に遊びに来るのに、ボタンの許可を貰う必要があるのか問うこともせずに。
「ほら、出来たぞ、食べたら暗くなる前に帰れよ」
「「ギャーハレオさまー大好きー」」
思わず本心で叫ぶ2人。
「ハレオさぁ、わたしも怪我の間は、ちょくちょく顔出していいかな?」
「なんだよスミレ、らしくないな、そんなしおらしかったっけ?」
スミレの顔をまじまじと眺めるハレオ。
「な、なんだよハレオ、ジロジロ見んなよ、ほら、お父さん亡くなって落ち込んでるんじゃないかと思ってさ」
顔を赤らめるスミレ。
「まぁな、思うことはあるけど、大丈夫だよ、ありがとな、こんな家で良かったら気兼ねなく遊びに来てくれ……って、なんでこんな事言わせるんだよ、俺達、そんな畏まった仲じゃないだろ、勝手に入って勝手に食って、勝手に遊んでけ」
「おお、そうだよな」
「そうだよ、スミレちゃん、今日のスミレちゃんなんかおかしいよ?」
「そういうボタンもおかしかったけどな、なんか2人とも高校生になって変わり過ぎ……って、まさかスミレ、お前も……」
スミレの畏まった態度、ボタンのあの妖艶さ……。
ハレオの脳裏に再び宝くじの当選金が過った。
「お前たち、俺のハーレ……」
この2人の女は、俺のカネが目当てで、俺に取り入り、ハーレムを形成しようと言うのか、親父を取り巻いた、女達の様に……友達だと、親友だと思っていたのに、カネの力はそれさえも奪っていくというのか……などと訳の分からない答えに至ったハレオの口から最低最悪の言葉が出そうになった。その時。
ピンポーン。
三度目のチャイムが鳴る。
「夜分にすみません、保険のご相談に参りました」
丁重に断りを入れるハレオ。
ピンポーン。
「新聞取ってくれませんかービール券付けますのでー」
キレ気味に断るハレオ。
ピンポーン。
「回覧板ですー」
笑顔で対応するハレオ。
ピンポーン。
「肉じゃが作り過ぎたので、お裾分けを」
お隣さんのおじさんとは、料理好きで気が合い、偶にお裾分けし合う仲のハレオ。
その後も、ウォーターサーバーやら光回線やら、宗教団体やら、次から次へ現れる来客、こんな偶然があるのだろうか、ボタンもスミレもハレオ自身も、それまでの気持ちがどこかへ飛んで行ってしまうほどの事象。
「ハレオくん、また明日ね」
「ちょっと待ってボタン、私も一緒に帰るよ」
夜も更け、さすがに気持ちも白けた2人は帰路に就く。
残されたハレオは、それらの事象を整理し、一つの結論に至った。
「バレてる、完全に俺が大金を手に入れている事が世間に知られているからこその謎の来客数、これはマズイぞ、そして、友達だったボタンもスミレまでも、俺に擦り寄ってきている。カネの力というものは、これほどまでに残酷で強力なのか……」
悪い方の想像力を爆発させるハレオだが、宝くじの当選金の事は、今はまだ、銀行員しかしらない。
「どうすればいいんだ俺は、このままでは親父の二の舞、ハーレムが作られてしまう」
ハーレムというものは、お金がある場所で自然的に発生する現象だと勘違いしているハレオ。
「俺は絶対にハーレまない、それだけはなんとしても回避する。でも、どうすればいい、この家に擦り寄ってくるカネの亡者を退けるには、何が有効なんだ……。そうだ、今の俺にはカネがある、有り余る資金がある、これ以上俺のこの居場所が暴露される前に、ここから離れよう、この部屋から引っ越すのだ。身を隠せる所、もっとセキュリティーのしっかりした場所へ」
ハーレムを回避できるなら、金に糸目は付けない、その思いだけで行動したハレオが碌に確認せず、勢いだけで契約したマンションは、シェアハウスもビックリの8LDK超高級マンションだった。
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あとがき
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