【完結】JuveniLOiD -ジュブナイロイド-

羅田 灯油

Disc.A(物語前半)

◆intro.


 音羽カナヱ(おとわ カナエ、Otowa Kanae)は、アルスノヴァ・テクノロジーから発売されている歌唱合成・デスクトップミュージック (DTM) 用のソフトウェア製品、およびそのキャラクターの名称である。

 年齢17歳、身長158cm、体重45kgの設定。音声データの提供者は声優の御園みそのちえみ。


 同社の開発した歌唱合成システム「AMADEUSアマデウス」に対応した清楚で可愛らしいボーカル音源で、メロディや歌詞を入力することでメインボーカルやバックコーラスを音楽ジャンル問わず作成でき、パラメータを調節すれば囁き声やがなり声といった歌唱表現もできる。

 また声に身体というリアリティを付与してキャラクターに厚みを出す試みから、バーチャルアイドルのキャラクターがパッケージにデザインされている。逆にイメージを狭めないようキャラクターを色付けしすぎないことも考慮されており、性格や背景設定などはあえて付与されていない。


 公式より制定されているライセンスの範囲内に限るものの二次利用が推奨されており、ファンによって歌声やキャラクターを用いた創作活動が盛んに行われている。

 ボーカルソフトウェア(略称ボカソ)の代表格として、その人気は海外にも波及しており、日本に留まらない活躍を展開している。


 名前の由来は、「私の音は(音羽)、夢を叶える(カナヱ)もの」。


 (※某有名ウェブ百科事典より抜粋)


  ◇


 ――主人公はそんな情報など、露ほども知らなかった。

 年齢も身長も体重の設定も、中の人と呼ばれる音声データの提供者も、名前の由来も。漂白されたかのように、綺麗サッパリと。

 だが感覚的に、同じ人間ではないのだと思い知らされる。


 背中を覆い隠して尚も余りあるロングヘアや、夕焼けの世界にあっても白く澄んだ美しい存在感を見て、本来であれば現れるはずのない、非実在の少女なのだと強く印象づけられる。


『――――っ』


 非実在の彼女バーチャルシンガーが、非日常の凶刃を退ける。夢のような光景に、主人公は地を這っていることなど忘れて、息を呑んで釘付けになった。

 合成音声特有の、無機質なこわばりを含んだ響きが、言葉を紡ぐ。


「ハロー、ワールド」


 プログラミングの第一歩を象徴する一文、ひいてはそれが彼女の第一声であり、産声だった。

 傍観者の白んだ満月を背に掲げ、音羽カナヱが凛と立っている。


「デイジー、デイジー、心に花が咲いたことを、確認」


 それが、主人公と音羽カナヱの――だった。

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