第5話


白井と僕は、小学生一年生の時に出会った。


元々、僕は違う県にいたのだが、親の出張が決まって引っ越したのが最初だった。たまたま引っ越し先が白井の家に近く、近所付き合いが自然と始まったのだ。



『れいくんっ! ゆいだよ~、よろしくね?』

彼女は、会った時からずっとハイテンションだった。今とあまり変わらない。唯一変わったことと言えば、僕に対する呼び方が「玲くん」から「黒川くん」になったことぐらいだ。


『中学生にもなったんだし、そろそろ呼び方も変えなきゃね。玲くんのことを狙う女子がいたら、嫉妬されちゃいそうだもん。』

彼女は、よく分からないような、分かるような理由を付けて呼び方を変えた。僕はそれに対して興味もなかったので、特に何も言わなかった。


 別に名前の呼び方が変わったぐらいで、彼女との仲が悪くなることはなかった。お互いに困ったことがあると連絡をして、長時間電話をすることもあったし、課題が終わらなかった時は、お互いの家で課題撲滅運動を行ったこともあった。家族ぐるみで仲がいい僕達は、お互いの家を行ったり来たりしても、誰にも何も言われなかったからだ。



『高校は、黒川くんと同じ所に行こうかな。』

中学3年の夏、彼女は当たり前のようにそう言った。

「え?…白井は地元でも違う高校の方がいいと思うけど。」

彼女は、僕よりもずっと頭がよかった。テストは決まってトップクラスだったし、全国模試でもそこそこの順位を取っていた。対して僕は、勉強のやる気が出ずに、高校も偏差値が普通で、通いやすい場所しか選んでいなかった。

『いいのいいの。だって、黒川くんがいない高校生活は考えられないし。』

彼女は、当たり前のようにそう言った。僕はギリギリまで「やめた方がいい」と言ったが、気づいた時には、彼女は地元で偏差値の高い高校の推薦入試を断り、僕と同じ高校と受験していた。


変な奴だ、と、僕はその時初めて思った。彼女は人生を棒に振ったのではないかと、自分のことのように不安がった。ただ、入学式の日に彼女と会うと、彼女はとても嬉しそうな表情で「また同じだね! よろしく!」と、後悔も不安も吹き飛んでいる、屈託のない笑顔で僕にそう言った。だから僕も、それ以上彼女の人生の選択に口を出すことをやめた。



—――そして、今がある。



彼女と僕は、そんな不思議な縁で繋がれて、今を生きている。それは運命の赤い糸とか、そんなドラマチックなものではない。どちらかと言えば腐れ縁だ。全く性格も口調も性別も(最後のは別に書かなくてもいいか)、僕達は違う。それでも、ここまでお互いに素を出して関われるのは、どこか特別なものを感じる。


それでも僕達の腐れ縁は、いつか切れる。僕はこの世から消える。


彼女は、そんな僕に同情したのだろうか…それは分からない。ただ、僕はあまり複雑な考えを張り巡らすことをやめた。きっと、僕の残り半年は、きっと彼女と過ごせば楽しものになる。そう信じよう。



僕は、彼女とまた会う日を確認し、眠りについた。

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