第3話
「なんで急にそんなこというんだよ。」
僕はしばらく黙った後、ようやく彼女に返事をした。彼女に、僕を助ける義務も義理もないはずだ。いくら友人として長い時間接していたとしても、助けようとは思わない人もいる。
彼女は僕の質問に、一瞬悩んだ素振りを見せた…が、すぐ元の柔らかい表情に戻った。
「私は、自分の人生に後悔はしたくないんだ。だから、黒川くんを助けたいと思ったなら、”私が後悔しないためにも”、助けたいと思ったの。」
「白井自身のため…?」
「うん、私自身のために。もちろん、ずっと友達として一緒にいた黒川くんがいなくなるのは辛いし、できればいなくなって欲しくないよ。」
「本当に?」
「うん、本当に!」
僕は、彼女の嬉しそうな顔を見て、小さな衝撃を受けた。僕は、今までの人生の中で、誰かに「いなくなって欲しくない」という言葉を掛けられたことがなかった。別に、自分がいなくなりかけたような事件はなかったし、誰かに必要とされることもなかったからだ。
”誰かが、僕を必要としてくれている”…その事実が、少なからず僕を元気づけた。
「そうか。ありがとう。」
「いえいえだよ、黒川くん。」
彼女はそう言うと、「さて!」とより僕の方に近寄って聞いてきた。「黒川くん、まず最初に、君は何がしたい?」
「急に言われたって、思い浮かばないけど。」
「まぁ…確かにそうだね。」
彼女は僕から少し距離を取った。「じゃあ、また二日後に来るから、それまでに一つでも二つでも百個でも考えておいてね。」
「二つからのふり幅がありすぎだろ。」
「それじゃ!」
彼女は、僕のツッコミに何も反応せず、荷物を持って颯爽と病室を抜け出していった。その後ろ姿は、「これから面白いことが始まりそうだ」という、どこか嬉し気な感情を読み取ることができた。
僕は、ふぅ、と息をついて、話しやすいよう斜めになったベッドに寄り掛かった。急に一人になった病室は、どこか寂し気だ。
「…自分のやりたいこと、か。」
僕は、さっきまで操作していたパソコンをもう一度立ち上げた。そして、検索欄の文字を全て消した。まだ、僕は自分から消えることを選択できないかもしれない。いや、きっと白井と接するうちは消えないだろう。パソコンで色々と調べるのは、後にしよう。
「消えるまでに、何をしたいか考えておくか。」
僕の独り言は、真っ白な病室に吸い込まれるようにして、消えていった。
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