最期に出会ったのは、人生を楽しむ人間だった。
キコリ
プロローグ
第1話
『人生は、上手くいかない。』
僕は小さい頃から、親にそう言われてきた。
よく、一般家庭で言われるような「やればできる!」・「もう○○なんだから、しっかりしなさい!」みたいな言葉は、全く掛けられなかった。両親はとにかく僕に「人生は上手くいかない。」ということを伝えてきた。
今思えば、少し変わった家庭だったかもしれない。それでも当時の僕は、その言葉の意味なんて深く理解せずに、ただ「分かった。」と言っていた。自分の人生が上手くいっているとか、いっていないとか、僕は全く考えていなかった。きっと大人になっていけば、分かることだ…と、自分の人生について考えるのを、後回しにしていた。
ただ、後回しにしていても「人生、上手く送るにはどうしたらいいのだろう。」とは考えた。そして、「平凡なら人生が上手くいく。」という一つの結論に至った。それから僕は、とにかく平凡でいることにこだわった。学校では目立たない性格を貫き、程よく友達がいるポジションに付き、程よく学校生活を送った。家でも課題を普通にこなし、テストで平均点を目標に勉強し、特技や趣味を構築することのない生き方をした。僕は、その生活を送りながら「人生を上手く送る人間になっている」と思っていた。
そして気づけば、高校3年生の1月。
僕は彼女に浮気され、大学の第一志望に合格せず、病院で半年の余命宣告を受けた。
え?
いやいや、急に情報量多いだろ。
…そう思った人へ。「僕も同じことを思った。」
とりあえず僕は、いきなり「平凡」というレールから外れた。突然「浮気」というエピソードと、「不合格」というエピソード、また「余命宣告」というエピソードまで得てしまい、今は病院で入院している。
平凡で生きることで、僕は今まで安心しきっていた。自分は、こういう経験はしないだろうと思い続けていた。それでも僕は、自分が経験しないと思っていた三要素を経験してしまったのだ。
『人生は、上手くいかない。』
当時、両親が言っていた言葉の意味を、僕は初めて理解できたような気がした。人生は、上手くいかないのだ。
ここまで不幸が重なると、人間は一度思考が止まるらしい。僕もそうだ。もう何も考えられない。やる気も起きない。もう、どうしようもない。お先真っ暗だ。
僕は病室に持ってきた自分のパソコンを取り出して、検索欄に「どうしたら死ねるのか」というワードを打ち込んだ。
どうせ半年で人生が終わるのなら、自分から終わりたい。最期にやり残したことを悔やまずに、今失望している状態のままいなくなりたい。
……そう思いパソコンを操作し始めた途端、病室のドアが勢いよく開いた。そして、真っ白な病室に似合わない程明るいパーカーを羽織った女子が、一歩…また一歩と、僕の方に近づいてきた。
「こんにちは、黒川くん。人生楽しんでる?」
僕は、その明るい表情と彼女の言葉にあっけにとられ、何も言えなかった。
―――あぁ、神様。
僕の人生は、どんどん「平凡」じゃなくなっていくかもしれません。
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