羅生門のその後 模‐iの場合

模-i

下人の行方は、誰も知らない。改め

 下人は、老婆から剝いだ服を抱えながら、暗闇を駆けていった。

 老婆から服を奪い、下人に変化が起きたのは心境においてであって、生活においてではない。第一、古着など死人からいくらでも剝ぎ取れたではないか。その日暮らしを脱するためならば、かつらの素も奪うべきだったではないか。

 しかし今、もはやLimiteurは外れたのだ。下人の勇気は、彼を盗人に昇華させたのだ。

 したがって、盗人は嘲る様に下人自身に言い聞かせた。

「次は金目のものを奪わねばならん。餓死を免れるために」


 その時、遥か彼方に――川の向こうだろうか――眩い光が見えた。この世に存在するのか疑わしいほどの、引力を持った閃光であった。


 盗人は雨を冒して、その光に向かって走る。

 その光が、浄玻璃からであると知らずに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羅生門のその後 模‐iの場合 模-i @moaiofmoai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ