鮮血のパラドックス
白雪凛(一般用)/風凛蘭(BL用)
第1話 魔法が使えない
はぁはぁ
肩で息をしながら、目の前の敵と対峙する。
それとも血のせいなのか相手の表情がよく見えない。
切り落とされた右腕。もはや痛みの感覚すらない。
このままじゃ、負ける。
どうにか……どうにか……この盤上をひっくり返す方法はないだろうか……。
辺りに視線を巡らすも、そこには目の前の男にやられ、倒れているものだけだ。
この暗闇の中で、唯一彼の瞳だけが、血のように真っ赤に輝きを放っている。
――――――――――――
「ぬるい」
隙を突かれていとも簡単に木刀が目前で止められた。
「参りました」
師匠との稽古でいとも簡単にねじ伏せられてしまう。
「お前は目の前しか見えていないからいけんのじゃ。視野を広くしておかないと死角からの攻撃でやられてしまうぞ」
「散々言われてるので気を張っているつもりなんですが……」
「次に儂とあやつがやるからよく見ておくと良い」
「はい……」
あいつとは最近師匠の元にやってきた、私より2つ年上のロウと呼ばれる少年だ。
身長は僕と大して変わらないのに、彼の攻撃は早くて重い。
師匠と彼の手合わせが始まる。静まり返った道場には師匠と少年が対峙しながら移動する音、呼吸そして木刀がぶつかるゴォンと重い音。
彼は積極的に師匠に攻撃していく、師匠は軽く躱しながらガラ空きの左脇腹目がけて反撃をする。
しかし彼はあえて誘ったのですと言わんばかりのスピードで木刀を捌き、押し返す。
早くて激しい戦いが眼前で繰り広げられ、何が起こっているのかを把握するだけで精一杯である。
しばらく膠着状態が続いたが、カーンと一際大きな音が響き、床に膝をついたロウ眼前に師匠の木刀があった。
「ありがとうございました」
ロウは師匠にお辞儀をする。
「今日の稽古は以上」
師匠の号令があり各自解散していく。
僕もいつものように片付けをし、道場を後にする。
帰り道。
どこからか視線を感じ、周囲に気を配りながら歩く。
そこだと思い、手に持っていた刀を振り下ろすもそこには何もなかった。
近くにいた年の近い子供たちから声が聞こえてきた。
「おぉ怖い怖い」
「魔力見えないからって、刀振り回すとかこわっ」
この程度の悪口はもはやいつも通りすぎて反論する気も起きない。
僕は見た目も能力もこの村の人とは違う。この村の人は皆魔法が使える。だから僕はとてつもなく浮いている。
昔は違うところで暮らしていたという師匠は、この村が異常なのだと言っていた。
以前は国民の3割程度しか魔法を使えなかったという。師匠も元は使えなかったという。だから魔法が使えなくても困らないように剣術をおしえているらしい。
「シロ〜」
ふとどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ロウくん……どこにいるの?」
辺りを見回すが声の主は見つけられない。
すると屋根の上からくるくると回転しながら人が飛び降りてきた。
「何してるの?ロウくん」
僕はびっくりして声をあげた。
「ん?なんのこと?」
「なんのことじゃないよ。最近毎日僕のことつけてるでしょ?」
「えぇそれ俺じゃないよ〜俺そんなに暇じゃないし」
そう言って彼は頭の後ろで手を組んだ。
「最近ずーっと視線を感じてるんだから」
「ふ〜ん。まぁ気をつけてね。大人達が最近夜の見回りをしてるみたいだし」
「えっ?何かあったの?」
この小さな村で、見回りなんて今までにあっただろうか?気づかなかっただけだろうか。真剣に考え事をしているとロウくんの笑い声が聞こえた。
「シロは本当に何にも知らないんだな」
僕だけが知らないみたいで少しイラッとして少し語気が強くなった。
「知らない。ロウくんは何か知ってるの?最近村に来たばかりなのに」
ロウはこの村の子ではない。年齢は僕の2つか3つ上なだけなのに、いろんな場所を旅しているそうだ。たまたま2週間前くらいにこの村に来たばかりである。なのに村に打ち解けるのが早く僕よりも友達が多い。
「まぁそんな怒らないでよ。俺もたまたま見ただけだから」
そうなんだという言葉を飲み込み。そのまま無言を貫いた。
「まぁ警戒しとくに越したことないしね。ここ老人と子供が多いし」
「ロウくんも気をつけてね」
気づくと家に着いたので、ロウくんに別れを告げる。
「しっかり鍵閉めておけよー」
そう言ってロウくんは去っていった。
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