やりたいこと
シヨゥ
第1話
「何も残らないようでいて、何かが残る。会話や音楽。音として届けたものっていうのはそういうもんだと思っている」
壇上でギタリストが弦を爪弾きながらそう語りかける。
「盤にできる曲はそう多くない。盤にできる曲っていうのはつまらない。商業的な成功。それを目指すもんだから、大衆が支持しそうなメロディや言葉で塗り固めた工業製品でしかない」
普段メディアに露出している時のようなぎらついた感じはない。実際年齢よりはすこし若い落ち着いたおっさんといった感じの雰囲気だ。
「普段使いならそんな工業製品で十分だと思う。だけどな。俺がやりたい曲っていうのは芸術作品なんだ。美術館に飾られているあのわけの分からない絵画のような曲を俺はやりたいんだ」
ギタリストは爪弾くのをやめる。
「一目見ただけじゃわからない絵画のような、一聴しただけじゃわからない曲。バックボーンが分かって初めて理解できる曲。そんな大衆に絶対に刺さらない曲。誰かひとりの心にだけ刺されば目的は達成される曲。それをやるために俺はここに立っている」
照明が暗転した。
「まぁとりあえず聴いて行ってくれよ」
演奏が始まり照明がギタリストを照らし出す。始まった曲はどこか古臭さが感じられ、さらになんだかすっきりとしない。しかし、曲が進むごとにギタリストの顔はどんどんと若返っていく。やりたいことをやっている。その思いが若返らせているようだった。
やりたいこと シヨゥ @Shiyoxu
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