第8話 悪いのはあの女
和泉が、私を怖がってる?
和泉は、私のことを好きじゃない?
どうして?
私が悪かったの? そんなわけない!
でも、それならさっきの和泉の、あの表情は何?
なんであんな目で私を見たの?
なんで?
なんで?
なんで?
ねぇ、なんで?
あの休み時間の出来事からずっと、私はなにも考えられなかった。
結局、あの時はすぐに始業のチャイムが鳴り、やってきた先生に教室に戻るように指示された私は、渋々と和泉の教室を後にした。
それからのことはなにも頭に入ってこない。ただひたすらに和泉のことしか考えられなかった。
気がつけばとっくに放課後で、周りではすでに帰りはじめている生徒もいた。
そんな光景を見て我に返る。
こんなことをしている場合ではなかった。早く和泉のところに行かないといけないのに。
和泉を連れて先生に和泉は生徒会を辞める訳がないと懇切丁寧に説明しなければならない。
そう思って立ち上がったところで、和泉のあの表情を思い出して足が止まる。
怯えたような表情に明確にでていた拒絶の色。
今までの和泉なら私を見た途端に嬉しそうに笑って駆け寄ってきていた。
私から見ても、周りから見ても和泉が私に好意を持っていることがはっきりと分かるくらいには和泉の態度ははっきりしていた。
それが一転してあの表情だ。
いきなり生徒会を辞めることといい、正直訳が分からない。
もしまた和泉からあんな表情をされるかと思うと怖くて仕方ない。
気が付くと私の身体は震えていた。
何かがおかしい。私が和泉に嫌われるなんてあり得ない。
けれど和泉の態度が変わったのは明らかだった。きっと何かがあったのだろう。
そうだとしても、和泉に何もしていない私に、その原因があるとは思えなかった。
だとすると和泉がああなってしまった原因は他にあると考える方が自然だ。
そこまで無理やりに思考をまとめ、何気なく窓の外を見た時、窓の向こうに和泉が歩いているのが見えた。
思わず追いかけようとして、私は次の瞬間にはまた固まってしまった。
見えたのは和泉だけではなかったからだ。
和泉の横には、さっき私たちの仲を邪魔してきた女生徒がいた。
確か名前は梓沢、だっただろうか。
窓の向こうで和泉と梓沢は楽しそうに談笑しながら歩いている。
男女が二人で歩いていること自体は珍しいことでもないけれど、私には梓沢が和泉に近づきすぎているように見えた。
和泉は梓沢に向かって微笑んでいる。
あの優しそうな、見ていると安心する笑顔は常に私に向けられていた。
それが今や、本来私がいるべき位置にはどこの馬の骨とも知れない女がいて、和泉の笑顔を独占している。
とても不快な光景。
その光景を見て私は気がついた。
あいつだ。
あいつがすべての元凶なのだ。
和泉が私を理由もなく嫌いになるわけがない。和泉が私を好きだという事は、周りの人達も認めていた事実だ。
だというのに、急に避けられるのはどう考えてもおかしい。
きっとあの女が和泉を騙しているのだろう。
もしかしたら、和泉は脅されて望まぬままあの女と一緒にいるのかもしれない。
一度そう考えると、もうそれ以外にはあり得ない気がした。
いや、きっとそれが事実なのだろう。和泉はあの女にいいように騙されて、脅されているに違いない。
そうでなければあの和泉が、私を拒絶するなんて考えられなかった。
やっと真実に辿り着いた私は、おかしな事だけど少し安堵していた。
絶対に違うとは思いながらも、もし本当に和泉から嫌われてしまったらと考えるだけでも怖かったのだ。
けれど結局のところ原因はあの女で、和泉が私を嫌いになっていないと分かった事で心に余裕を取り戻す事ができた。
それほど私にとって和泉は大切な存在だったのだと改めて自覚する。
これから私のやるべき事は一つだ。
あの女から和泉を解放してあげないといけない。
もう和泉にあんな目で見られても平気だ。少しくらい我慢して、私が和泉の目を覚ましてあげるんだ。
よかった、私は嫌われてない。
私は、何も悪くない。
悪いのはあの女なのだから……。
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