頑張れ、和也! 悲惨な目に遭う中学生が、異世界の魔法使いだった前世の記憶を取り戻し、世の中にリベンジする話

アンジェリカ

第1話 プロローグ、異世界サマルシア

 異世界のサマルシア。

 その世界では魔法が存在し、科学技術よりも魔法術が発展していた。

 一般の人間たちでも普通に魔法を使うのだが、複雑だったり大規模なものは高度な魔力とその制御が必要となる。それができるのは長年の経験と魔法術を習得した魔法使いに限られていた。


 ダニエル・ヴァリアンテはガルメシアン王国の若き魔法使い。この王国は、その世界の中でも大国であり、魔法使いの数もたくさんいたが、ダニエルは魔力に恵まれ、特に医療系、攻撃系の高度な魔法術を習得したことで、次第に頭角を現していった。

 

 王国が隣国と戦争になった時、ダニエルは医療系魔法で傷ついた兵士たちを治療したり、死にかかったものを蘇生させて、その多くの命を救った。さらに攻撃系の大掛かりな魔法で敵の大群を撃破するなど目覚ましい活躍をした。

 このことから、功績を買われてダニエルは宮廷仕えの魔法使いに採用されたのである。


 また、ダニエルは驚くほどの美貌の持ち主であり、彼が歩くと誰もが必ず振り向く。しかも、彼の微笑みを一目見た女性は恋に堕ちてしまうと噂されていた。


 王国の宮殿では、国王が高齢に達し、それに連れて王妃が次第に権力を振るい始める。

 ダニエルは王妃の持病を魔法で完治させたことが切っ掛けで、王妃のお気に入りとなっていく。さらにその美貌と陽気な性格で、王妃からの寵愛を獲得して行き、他の宮廷魔法使いを追い抜いて筆頭魔法使いの座に登り詰めた。


 彼が王妃の権力を傘に宮廷の官僚たちも押さえつけるようになった時、慢心している自分には気が付かなかった。確かに、それは多くの者たちが陥るもの。油断していたと言えばそうなのだろう。


 こうしてガルメシアンの宮廷では、ダニエルの好き放題な振舞いが繰り返される。彼に逆らう者があると、王妃によって厳罰が下されるのだから、周りはたまったものではない。

 そんな勝手気ままな者を見て羨み、妬むのは、どこの世界も同じで、宮廷内の者たちはダニエルに憎悪の感情を抱くようになっていく。


 王妃の寵愛を受ける一方、ダニエルにはディアナという最愛の恋人がいた。

 彼女も魔法使いで、物質を複製したり改良する魔法を駆使できることから、王国内の人々は皆、彼女を重宝がっていた。

 2人の仲は王妃の目もあり、秘密にしていたのだが、ある日、二人が密会しているところを目撃した者がいた。その者もダニエルの所業に腹を立てていたので、さっそく王妃のもとへ密告しに行く。


 王妃は、ダニエルの恋人、ディアナの存在を知って嫉妬に狂った。

 密偵に命じてディアナを殺害し、さらにダニエルを捉えさせて尋問する。

 素直に謝り、ディアナを忘れるなら許してやろう。

 ダニエルは王妃からそう告げられるが、彼はディアナを失ったことで、すっかり自暴自棄になってしまった。彼にとって、ディアナがいないのなら、今の人生など無意味だったのである。

 「殺すなら殺せ!」そう喚きたてた。


 王妃は激怒し、ダニエルは死罪、しかもその魂は、サマルシアの世界から追放されるというものだった。これは彼にとって予想外のことである。つまり、この世界で二度と転生できないのなら、ディアナとは永遠に巡り合うことはできなくなってしまう。 


 こうしてダニエルは、魂だけの存在となり、サマルシアの世界を追放されて、異世界間を彷徨うこととなる。こうしてたどり着いたのはガイアの世界。今までサマルシアからこの世界に転生するものはいなかった。ここはサマルシアとは縁もゆかりもない世界だったからである。


 ダニエルの魂は、物質界の人間として転生する機会をひたすら待ち続けた、ようやくその機会が訪れた時、物質界への転生を司る存在から一つのことを告げられる。


 それは、物質界の人間に転生するなら、前世の記憶を全て忘れなければならない、ということ。

 つまり、ダニエルは魔法使いの技術や経験も捨てなければならないことを意味する。

 しかし、ダニエルは、ディアナがいない苦しみを味わい続けるのなら、前世の記憶など無いほうが良い。魔法には何の未練もない。

 もう、魔法使いダニエルは存在しないのだ。ただの人間としてやり直そう。そう決心したのである。

 こうしてダニエルは、その転生を受け入れ、新しい人生を歩むこととなった。

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