第13話 聖女事件の結末
「俺達の子供が国王になるかもしれないな!」
「馬鹿なの! 子供は結婚した後よ!」
「こ、これは……!」
神殿の扉を守っていた兵士四人を王命だと言って、神殿の右角にある聖女の部屋の壁に連れて来ると、聖女の本性を順番に聞かせていく。
「騎士団長の子供が王様になるらしいですよ? 知ってましたか?」
「そんなわけない。国王、いや、王子、どちらに報告を……」
「まさか、団長がこんな大それた事を考えたいたなんて……」
「聖女様が団長と……嘘だ……」
驚いている四人に聞いてみた。当然、知らないから四人は驚いている。
聖女は王子が結婚したら、王子の子供だと言って、騎士団長の子供を産むらしい。
用済みになったら私を殺そうとする国王もヤバイけど、こっちの聖女もヤバイ。
「とりあえず現場に乗り込んで縛り上げましょう。終わった後だと言い逃れされてしまいます」
「了解です。分かりました」
どうしようかと考えている兵士四人に任せていると、全部終わってしまう。
ここは私が指示するしかない。神殿の扉を開けさせると、一直線に聖女の部屋を目指す。
鍵がかかっている扉は兵士四人の体当たりで、ドガァンと破壊してもらった。
「きゃあ!」「な、何事だ!」
……何事? それはこちらの台詞です!
ベッドの上で裸で抱き合っていた聖女と騎士団長が、突然の乱入者に取り乱している。
「フッ。シーツで身体は隠せても、お前達がやった悪事は隠せませんよ!」
「なっ! お前達、ここを何処だと思っている! この無礼者どもめ、叩き切ってやる!」
ビシッと指を指して、シーツに包まっている聖女と騎士団長に言った。
すると、逆上した騎士団長がベッドから飛び降りて、壁に立て掛けている剣を取ろうとした。
確かに私も含めてた全員を口封じに殺せば、問題解決。何とか誤魔化せると思う。
力にものを言わせた凄く賢いやり方です。でも、そんな事をさせるつもりはない。
「わ、私達を殺すつもりです! 袋叩きにしてください!」
「ハッ!」と私の緊急命令に兵士四人が一斉に騎士団長に襲い掛かった。
「「オラッッ‼︎」」
「ぐはぁっ! このぉ……」
兵士二人掛かりの体当たりで、剣を抜こうとした騎士団長は壁に突き飛ばされた。
さらに反撃する隙も与えずに、次の兵士が顔面に右拳をバキィと打ち込んだ。
「ハァッ!」
「ごばぁ!」
派手に殴り飛ばされた騎士団長の上半身が大きく揺れている。
「まだです! どんどんやっちゃってください!」と兵士に攻撃続行命令を出した。
この程度で騎士団長が倒れるはずがない。足腰立たないように殴って蹴って、ボコボコにする。
とりあえず騎士団長が袋叩きに遭っているので、私は聖女様の相手をしよう。
「おやめなさい! あなた達は誤解しているだけです!」
「そうですね、誤解してました。これが聖女の力ですか? まさか、お尻に栓をして、オムツを履いていたなんて……騎士団長のでいつも訓練しているんですか?」
「なっ! 違います! そんな物知りません!」
床の上に無造作に置かれていた桶の蓋を取って、中身を確認した。
金具とベルトが取り付けられた太い金属の棒とオムツがあった。
これを下着のように装着して、外に漏れないように我慢していたようだ。
私を貶める為にここまでするとは、これはこれで凄い。
「そうですか、知りませんか……でも、私は知っているんですよ。二人が男女の仲なのも、聖女が偽者で元娼婦なのも、宝物庫の宝をあなた達二人が盗んでいた事も知っています。知らないと言うのならば、自白剤を飲ませるので無実を証明してください。聖女の力が本物ならば、問題ないですよね?」
「あっ、ああっ、あああっ!」
聖女が顔面真っ青で口元を左手で隠しているけど、左手がブルブルと高速で震えている。
明らかに、自分が終わりだと自覚しているようだ。死刑はほぼ確実。良くても一生監禁ですね。
これ以上は弱い者イジメになるので、牢屋に入れた後の事は国王に任せよう。
「あぐっ、あががっ、うがぁ……」
「もういいでしょう。牢屋に連れて行きなさい。それと二人には下着だけは着せてあげなさい。まだ夜は寒いですからね」
「ハッ! 了解です!」
兵士達に聖女と騎士団長の牢屋送りを命令した。
騎士団長の方は袋叩きにされて、床で呻き声を上げて、ピクピク痙攣している。
自力でパンツを履くのは無理そうだ。
兵士に履かせてもらうと、ロープで身体を縛られて引き摺られていった。
「ふぅー、良い事したから気分が良いですね」
偽聖女の正体を暴いて、仕返しも出来たので気分爽快だ。
これで明日、城を追い出されても後悔はないです。あとの事は王子に頑張ってもらう。
♢
「やっぱり、誰も来ない……」
最後の朝食を食堂で食べたけど、何も起こらなかった。いや、起こった事は起こった。
偽聖女を捕まえる為に私が下剤スープを使って、偽聖女を罠に嵌めた事になっていた。
自分達の父親と母親を失ったように、食堂にいた兵士達は元気を失っていた。
聖女と騎士団長の強力な後ろ盾が無くなったので、これからは王子の婚約者候補である公爵家を先頭に、貴族が戦争と国を引っ張って行く事になる。
これで戦争の目的が、貴族が唱える繁栄と金に完全に切り替わてしまった。
……まあ、私にはどうでもいい話ですね。
ベッドから起き上がると国王の部屋を目指した。これだけの騒ぎを起こしたのだから、当然クビだ。
王子に偽惚れ薬を売った時に手に入れた百万ギルは、偽聖女を捕まえた報酬として、このまま貰っておく。
そのぐらいの権利はあると思う。
「すみません、国王様に聖女様の事でお話があります」
「あぁ、少し待っていろ……」
国王の部屋を守る兵士に用件を伝えた。兵士の男は元気がない。
偽聖女は顔と雰囲気だけは良かったから、男兵士には人気があった。
密かに想っていた相手が騎士団長とにゃんにゃんしていた事がショックなのだろう。
それでも仕事はしてくれるみたいだ。
しっかりと扉をコンコンと叩いて、私が来た事を国王に伝えてくれる。
いつものように「入れ」と短い返事が返ってきた。
話に制限時間はあるけど、追い返さないだけマシかもしれない。
兵士二人が扉を開けたので、出来るだけ上品に歩いて、中に入った。
「昨日の今日でどうした? もう自白剤が完成した事にしたいのか?」
今日は国王一人のようだ。王妃の姿が見えない。
国王はのんびりと自分で淹れた紅茶を飲んでいた。
「いえ、聖女様の件です」
「聖女……ああ、あの偽者の泥棒の事か。それがどうした?」
国王はどうでもよさそうに、顎髭を触りながら聞いてきた。
王子の婚約者の一人が牢屋にいるのに興味がなさそうだ。
「このような事件を起こしてしまったので、私が責任を取って、城を出ようと思います」
「何? どうして、お前が城を出る必要がある? 意味が分からん」
「ですから、失敗した薬をスープに入れて、城の使用人に飲ませて被害を出したり、聖女と騎士団長を牢屋送りにしたりして、城に混乱を招いたので責任を取りたいのです。そうしないと城の人達と国民が納得しないはずです」
国王がどうも私を追い出す気配がないので、追い出さないといけない理由を話していく。
これで少しは私が物凄い悪い事をしたと伝わるはずだ。逆に伝わり過ぎて、牢屋に入れられるかもしれない。
「別に出なくていい。偽聖女と宝物庫を荒らしていた泥棒を捕まえたのだ。むしろ、報酬をくれてやる。それに薬作りも失敗するという事実がある方がいい。その方が三本の自白剤の一本だけが質が悪くて、それをメイドが飲んで死んでも怪しまれないからな」
「なっ!」
国王は最後にニヤリと笑って言った。
毒入り自白剤によるナターシャ殺害計画に変更はないようだ。
それどころか、聖女がいなくなった事で国王の計画がより強固なものに変わってしまったようだ。
「実を言うと、お前のお陰で余計な選択肢が消えて助かった。国民の支持よりも貴族の支持の方が金になるからな。これで公爵家のララとエースの結婚を進める事が出来る。そうすれば貴族からの戦争資金が一気に増える。あとはその金で周辺の国から兵士を借りて、一気に戦況をひっくり返す。逆転劇だよ」
……まさか、そんな事を考えていたなんて。
今日は機嫌が良いのか、聞いてもいないのにペラペラと喋ってくれる。
王妃がいないから代わりに私に話したいのかもしれない。
こっちはナターシャが死んだ後に、私に責任を取らせて殺すのを知っている。全然笑えない。
「クックックッ。話は終わりだ。お前は城を出なくていい。残り二週間をゆっくりと城の中で過ごしていろ。分かったな?」
「うっ、はい、分かりました。国王様のご厚意に感謝します。ありがとうございます」
どうやっても城から逃げられないようだ。
こうなったら最初の計画通りに爆弾を作って、国王を人質にするよりも殺害した方がいい。
邪魔な国王さえいなくなれば、公爵家のララならば、ナターシャと王子の結婚に賛成してくれるはずだ。
王子もナターシャと結婚できるなら、父親を殺した私を許して感謝するだろう。
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