第10話 罪悪感検査薬入りスープ
「あれは別れそうにないですね」
王子の部屋から自分の部屋に戻ると、次の計画を考える事にした。
王子とナターシャのどちらか片方が浮気しない限り、別れないと思う。
何とかして、国王の考えた計画を壊さないと私も殺されてしまう。
残りの自由時間は二週間か三週間しかない。それに城の中を動き回っていたら怪しまれる。
今は素材待ちで暇だからという理由で誤魔化せるけど、錬金術師の仕事のイメージは部屋に閉じ籠る感じだ。
仕事していないという噂が流れて、それが国王と王子の耳に入ったら大変だ。
部屋の中か外に兵士の見張り付きで監禁されてしまう。そうなったら逃げるのも難しくなる。
「んっ、待てよ? むしろ、評判を悪くすればいいんじゃない?」
兵士やメイドに薬の人体実験に協力してもらって、食当たりにすれば、無能錬金術になれる。
食堂のスープに自白剤の試作品を投入して、それを無理矢理に食べされる。
それを毎日続けていれば、お城の中での私の評判はガタ落ちだ。
そんな相手が作った偽自白剤を王妃も大臣も飲みたくないだろう。死んでしまうかもしれない。
……そうです。これなら行けそうです。
国王は自白剤を飲むのは三人だと言っていた。
ナターシャが自白剤を飲む前に決着を付ければ何も問題ない。我ながら素晴らしいアイデアです。
早速、昼ご飯が始まる前に『強力下剤』を作りましょう。適当に素材を混ぜれば簡単に作れます。
「ムカデの足は駄目ですね。意外と昆虫系は食べても平気なんですよね。植物系にしましょう」
素材が並べられた棚から、植物のエキスが抽出された液体を取り出していく。
この液体を混ぜ合わせて、特注の激ヤバ下剤を作る。スープを飲んだ人全員がトイレに一直線です。
でも、即効性の薬だと、全員がスープを飲まないので、食後一時間後ぐらいに効いてくる方がいいですね。
「よし! 完成です!」
制作時間はたったの二十五分。透明な瓶の中に黄色い液体の強力下剤が完成した。
まだ昼ご飯の時間までは数十分はあるけど、早めに食堂に行って待ちますか。
♢
……さて、普通に自白剤入りのスープだと言っても、誰もスープは飲みませんよね。
ガヤガヤ、ザワザワと扉のない食堂の入り口から兵士、メイド、使用人と呼ばれる人達が入ってくる。
普通に「自白剤入りスープ、飲んでください」とお願いしても誰も飲まない。
でも、何も言わずにスープを飲ませたら、ただの食中毒や無差別犯行になってしまう。
飲ませる正当な理由が必要だ。
……自白剤じゃなくて、浮気しているとか、悪い事をしたと思っている人が腹痛を起こす薬にしますか。
とりあえず罪悪感がある人に反応する薬だと言う事にした。
腹痛の症状が酷い人程、悪い人間にしましょう。
「『罪悪感検査薬入りスープ』? 何だ、これは?」
「はい。そのスープを飲むと浮気とか悪い事をした人は腹痛の症状が出ます。症状が重い人程、悪い事をしています」
微塵切りされた野菜やベーコンが入っている大鍋には『罪悪感検査薬入りスープ』と書かれた札がある。
その札を読んだ兵士が大鍋の後ろにいる私に聞いてきた。それに簡潔に答える。
私は薬無しスープを先に飲んでいるので、遠慮せずに飲んで欲しい。
「何だ、それは? 普通のスープはないのか? そんな薬が入っているスープが飲めるか」
「別に飲まなくていいですよ。名前を教えてください。報告しないといけないですか」
「報告? 一体誰にだ?」
もう何人目だろうか。やっぱり飲まない人が多い。
ちょっと脅して、それでも飲まない人は名前を書いてもらう。
もちろん名前を書いてもらうだけで、何も意味はない。
相手が勝手に飲まないと、誰かに呼び出されて、悪い事が起きると勘違いしてくれるだけだ。
「それは言えませんけど、あなたのお母さんと神様じゃないのは分かりますよね? そうですね……上の上の上の人にです。これ以上は言えないので察してください。さて、スープを飲みますか? それとも名前を書きますか?」
「ス、スープを貰おうか……」
「はい。大盛りに入れて置きますね」
ブルブルと木のお碗を震わせて兵士が頼んできたので、お碗を受け取って、スープを注いであげた。
すでにテーブルに座って、スープを恐る恐る飲んでいる人はいるけど、味は問題なさそうだ。
お碗の中は空になっている。我慢して飲んでいる可能性もあるけど、顔を見れば不味そうな顔はしてない。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、何ともない」
「俺もだ。あの薬、全然効かないみたいだぞ」
「ああ、ビビって損したぜ」
……あの二人、絶対に悪い事してますね。
兵士二人が腹痛が現れないので、余裕の表情をしている。
テーブルに座って、スープを飲んでいる人達は安堵の表情と、私を侮辱するような表情を見せている。
時限式だと知らないから、私が失敗したと思っているようです。
だけど、一時間後には後悔と苦痛の表情に変わり、トイレが地獄に変わります。
「うぐっ、ううっ……」
「ぐうううっ……」
……さてと、そろそろ撤収しますか。
もう部屋に帰らないといけない。昼ご飯が始まって直ぐにスープを飲んだ人達が症状を起こしている。
どう見ても顔色がヤバくて、お腹もヤバそうだ。下剤薬の効果は確認できたので、もうここにいる必要はない。
早く部屋に戻って、扉に『危険、作業中』の札をぶら下げて、閉じ篭りましょう。
……おっと、夕食は食べられそうにないですね。
部屋に逃げようとしたけど、念の為にパンの山から、晩ご飯用にパンを八個取った。
今日の夕食に食堂に現れるのは、多分危険だと思う。
次の下剤入りスープは明日の朝に提供しましょう。
♢
昨日の昼食後、城は地獄に変わったそうだ。城の業務が完成にストップしたそうだ。
私の部屋の扉を叩く音が何度も聞こえたけど、扉の隙間から謎の青い煙を出して、追い払った。
「さてと、今日も頑張らないと」
予定通りに強力下剤を持って部屋を出た。
腹痛の症状が消えて、朝食を食べにきた兵士とメイドがいるはずだ。
二度目の下剤投入で心も身体もへし折れるでしょう。
「さあ、症状が出なかった人は遠慮せずに飲んでください。症状が現れた人は悪い事を話して懺悔してください。そうすれば症状は現れませんよ」
スープを貰いに並んでいる、げっそりとした顔の人達にそう言った。もちろん、そんなわけない。
飲めば、また腹痛を起こすだけだ。悪い事を洗いざらい吐かせたいだけだ。
もしかすると、凶悪犯が名乗り出てくれるかもしれない。
城の安全を守る為にも、やる意味はあると言える。
「申し訳ありませんでした。お城の花瓶を街で見つけた似たような花瓶と交換してしまいました」
「そうでしたか。花瓶を売っていないなら、返した方が良いですよ」
「同僚の金を盗んだのを、別の同僚の所為にしてしまった。そいつは今、牢獄の中にいるんだ」
「二人にお金を用意して、さっさと名乗り出た方がいいですよ。きっと許してくれます」
「任務中、盗賊のアジトを襲ったんだが、その時に盗品の高価な指輪を盗んでしまったんだ。その時の指輪で貴族の娘と結婚してしまったんだ」
「大丈夫ですよ。指輪一つで結婚を決めたりしません。偽りの指輪でも、愛は偽りじゃないと思います」
……城の中は盗っ人だらけ!
罪を懺悔する人達は、他人の物を盗んでいる人達ばかりだ。
今のところは殺人犯はいないけど、そのうちに出てきそうな勢いだ。
「ちょっとよろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
スープの列に割り込むように、白い薄布を頭から被った長い金髪の女が現れた。
「お、おい、聖女様と騎士団長様だ」
「本当よ。私達を救いに来てくれたのよ」
……聖女? 騎士団長? この二人が?
言われてみれば、緑色の瞳の金髪の女は神秘的な雰囲気がある。
肌を隠すように着ている真っ白な神官服も特注なのか、素材は安物の布じゃないようだ。
それに、側に控えている純銀の鎧を身に纏っている三十五歳ぐらいの短い赤髪の男も、何だか気品がある。
私に用があるみたいだけど、何だろう。
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