第8話 国王の部屋の盗聴
「はぁぁ、ナターシャを追い出せば解決なんだけどなぁー」
研究室に戻って、寝室に移動するとボフゥとベッドに倒れ込んだ。
食堂での情報収集の結果、ナターシャの存在がこの国の邪魔になっているのは明らかだ。
毒入りの自白剤で、毒殺でもいいから排除したい国王の気持ちはよく分かる。
このままだと戦争どころか、国王と王子の陣営に分かれて、国内で内戦が始まる可能性もある。
……拾った猫は最後まで面倒を見るタイプなのかも。
王子にナターシャを城から追い出せと言っても、多分、今までに何度も言われているはずだ。
その結果が結婚したいなら、これ以上は何を言っても無駄なのだろう。
……だとしたら、仕方ない。
ベッドから起き上がると研究室から紙とペンを持ってきた。
自白剤も使わずに、ナターシャも殺さない方法を考えるしかない。
つまりは自主的にナターシャに城から出て行ってもらえばいいのだ。
「あんた、死ぬよ。悪い事は言わないから逃げた方がいいよ」と直接言うのが、一番良さそうだ。
自白剤で殺そうとする国王の計画を話せば、怖くなって逃げるはずだ。
でも、自殺する覚悟がある人が簡単に逃げるとは思えない。
逆に毒入り自白剤の計画を話せば、自白剤を飲むのを拒否できる。
そして、他言無用と警告された話を教えた私は殺される。
……ナターシャに教えるのは駄目なのか。
説得が成功した時はいいけど、失敗した時は私が危ない。危険を教えるのはやめた方がよさそうだ。
だとしたら、やっぱり毒入り自白剤じゃなくて、睡眠薬入り自白剤の方がいいかも。
飲めば身体が硬直して、死んだように見える薬を作ればいい。それなら国王の筋書き通りになる。
あとは死体を処分するとか言って、城の外に一緒に出て行って、国王から貰った報酬を渡せば完璧だ。
この国から出て、別の国で暮らせば、何不自由のない生活が送れる。
元々、ナターシャは亡命が目的で、王子と結婚するのが目的じゃない。
希望とは違う国でも文句はないでしょう。
「うん、これで行こう!」
ノートに書いた計画書を何回も見直したけど、これなら上手くいくはずだ。
でも、一応は国王にも仮死状態のナターシャの死体を貰っていいか聞いてみよう。
これで死体は火あぶりにすると言われたら、計画変更しないといけない。
その時は計画を国王に話して、ナターシャを城から生きたまま追放するのに協力してもらおう。
「とりあえず今日は遅いから、国王に会うのは明日にしますか」
仮死状態になれる薬を作れないという問題はあるけど、それは作り方を調べてもらうしかない。
難しい事は明日考える事にして、今日はもう寝よう。
♢
翌日の朝、食堂で朝食を食べた後、自室に一回戻ってから、昨日の国王の部屋に行った。
兵士に国王に内密の話があると伝えると、コンコンと扉を叩いて、私が来た事を知らせてくれた。
「入れ」と部屋の中から声が返ってくると、昨日のように兵士二人が扉を開けてくれた。
「国王様、おはようございます。ご相談があります」
「何だ? こう見えても忙しいんだ。二分だけ時間をやる。早く言ってみろ」
……短い。五分は欲しい。
赤いソファーに座る国王はビシッと服を着て、眼鏡をかけて、渋い表情で書類を見ている。
仕事の出来る国王をアピールしたいみたいだけど、私にアピールされても反応に困る。
王妃のようにボッーとした気怠い表情で聞いてくれた方が気が楽だ。
「自白剤なんですけど、睡眠薬に変更してくれませんか? ナターシャが邪魔なら死んだ事にして、国外に追放すればいいですよね? 私が国外に責任を持って連れて行きますから」
「ああ、それでいい。話はそれだけか?」
「えっ? え、ええ、はい、そうです」
まさかの即答にちょっと動揺してしまう。
ナターシャが王子の前からいなくなれば、方法は大して問題ないようだ。
「だったら、話は終わりだな。お前は余計な事を考えずに自白剤を作っているフリをしていればいい。三週間と言わずに、二週間で作っても問題ないんだ。部屋に閉じこもって、寝ずに作っていると言え。それなら、二週間で作れるはずだ。いいな?」
「はい、そうします。失礼しました……」
ナターシャ追放のお願いは受け入れられたけど、逆に二週間の自室待機を命令されてしまった。
まあ、食って寝るだけの退屈な城生活が短くなったと思えば、私にとっても良い話である。
国王と王妃に頭を下げると部屋から退室した。
……ふぅー、緊張したけど本当の仕事はここからと。
部屋から出ると廊下を早足で進んでいく。廊下の分かれ道を右に曲がる。
そして、ロングスカートのポケットから聴能力と盗聴器を取り出して、薬をゴクンと飲んだ。
……多分、この辺ですね。
ワイングラスの形の盗聴器を壁に当てる。
耳の大きさに合わせた小さなワイングラスなので、ポケットに入れても目立たない。
壁の向こう側にある国王の部屋の位置を予想して、盗聴器を当てる場所を変えて、声が聞こえる場所を探す。
国王が本当の事を話していたのか確認したい。
「……フン。馬鹿な女だ。あの女、本当に金を貰って自由の身になれると信じている」
……この声は国王ですね。でも、馬鹿女ですか。
盗聴器はキチンと機能しているようだけど、聞こえてきた内容は嫌な感じがする。
「まったく、秘密を知っている人間を生かしておくはずがないだろう。他人の心配よりも自分の心配をするんだな」
「あなた、そんな事よりもあの女にはどういう役割を与えるつもりなんですか? あれはエースが連れて来たから、敵国のスパイとして殺すのは苦しいですよ」
今のは王妃の声ですね。二人で私を殺す話をしています。
道理で即答で返事したはずです。最初から私も殺すつもりだったんですね。
「そうだな。城を出た事にして行方不明になってもらおうか。若い女だ。貴族の誰かが欲しがるだろう」
「それでいいですけど、絶対に逃げられたら駄目ですよ。後始末がキチンと出来る相手に任せないと」
「ああ、分かっている。そんなに心配ならば自白剤でも飲ませればいい。廃人にすれば問題ないだろう。どうせ、必要なのは身体だけだろうからな」
「確かにそれなら安心ですね。あのメイドが死んだ理由を自白させる為と言えば、自白剤を使用したのも不自然には見えませんからね」
……これ以上は聞かなくていいですね。
盗聴器を壁からソッと離すとポケットに仕舞った。
このままだと、廃人人形として変態貴族の屋敷に私は嫁ぐ事になりそうだ。
……どうにかしないと私も殺される。
国王と王妃の会話を盗み聴きしたけど、聞かない方がマシだった。
聞かない方が良かったとは言わないけど、聞きたくなかった内容だ。
今すぐに大声で「助けてぇ!」と叫びながら城から逃げたいけど、冷静に自室に向かって歩いていく。
逃げたら逃げたらで、偽惚れ薬を売った偽錬金術師として処刑されるだけだ。
多分、あの国王ならば、逃げ出したら別の場所に閉じ込めてから、自白剤を作っている事にされてしまう。
「誰かに……」
私が助かる方法は誰かに助けてもらうしかない。
でも、パッと頭に浮かんだ王子も信用できるか分からない。
今、国王と王妃に騙されていると分かったばかりだ。
キチンと信用できる人なのか調べないと、利用されて殺されるだけだ。
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