第8話 処刑忍アシュラ・リッキー

「イヤーッ!!」


 牽制がてら、真っ先に放たれたのはソニック・アーツの基本技、真空正拳突き。

 風の弾丸が真っすぐにアシュラ・リッキー目掛け飛んでいき――――


「――――甘いわ」


 ……軽く腕を振るわれただけで、容易に風弾が弾かれる。


「マジかよっ!?」

「馬鹿め、喰らえェいッ!!!!」


 硬いだろうとは思っていたが、こうまで効かないものか。

 リッキーは重戦車の如き巨体を揺らしながら疾駆、距離を詰めて大戦斧を振りかぶる。


 ――――ごう、と響く轟音。


 振るう大戦斧が、風を切る――否。風を抉り切る。

 隆々と盛り上がった筋肉を漆黒の外骨格で塗り固めた怪人の一撃は、それそのものがギロチンにも似て振るわれた。

 肉厚の刃を振るうという点では、紅葉にも似るか。

 しかしその威力はケタ違い。紅葉の一撃は手甲ブレーサーで受けることもできたが、これを相手に同じことをしようと思えば待ち受けているのは真っ二つになる未来ぐらいのものだろう。

 根本的な膂力パワー重量ウェイトが違う。

 無論、他の点を比べれば必ずしも紅葉が劣っているというわけでもないが――――閑話休題。問題は今迫りくる死の化身であり、刃である。

 求められるのは一瞬の判断。

 アシュラ・リッキーの斧は、草也の首を狙っている。

 ならばと上体を反らしブリッジ回避!

 そのままバック転で距離を、否。


「うおおおお!?」


 ――――回避したはずの戦斧の余波・・が生み出す暴風が、草也の身体を易々と吹き飛ばす。

 草也のように能力で風を操っている訳ではない。

 純粋な膂力と技量が、当たらずとも敵を吹き飛ばす暴風を実現させている!

 マズい。

 草也は空中に浮いている。

 それを見逃すリッキーではない。当然。

 踏み込み、二撃目が来る。

 かわせない。

 足場が無い。

 防御も不可能。

 死。


「K様っ!!」


 その瞬間に草也の腕を糸が縛り、ぐいと引っ張る。

 鼻先を斧が掠め、再び暴風に晒された身体が激しく揺さぶられるが……生きてはいる。十分だ。

 糸の主――――船守の手元まで引き寄せられた草也は、そのまま糸から解放されて着地する。


「……ごめん、助かった」

「お気をつけて。あまり特殊な術は使わない手合いですが、純粋な身体能力の格がひとつふたつは違います。攻め手にせよ受け手にせよ、安易なそれは死に直結致しますよ」


 返す言葉も無い。

 なるほどこれは、船守も苦戦するはずだ。

 頑健で、怪力で、果敢である。

 あまりにもシンプル過ぎる強さは、それだけに彼に隙が無いことを雄弁に物語る。

 なにせただの剛力ひとつで、草也のソニック・アーツに等しい現象を引き起こすほどなのだから。


「…………恐らく今の貴方なら、回避に専念すればしばらくは持ちこたえることができます。事実上の初陣でこのようなことをお願いするのは、心苦しくはあるのですが……」

「OKわかった」


 視線はリッキーに向けたまま、返事は即座に。

 続く言葉は、聞くまでも無かった。


「僕がだ。自分で言い出した参戦だぜ。……やってみるさ」

「――……ありがとうございます。では」


 一歩、草也が前に出る。

 長柄の相手は紅葉でやった。

 怪力の相手はヒールターンでやった。

 要は合わせ技だ。経験値の。


 やれるだろう、と船守は言った。

 ならば草也は、それを信じるのみ。


 拳を構え――先ほどの一撃を想う。死の具現が如き一撃を。

 やれるのか。

 正直に言えば恐ろしくはある。

 この短期間に二度も死ぬのは御免だし、危ない橋を渡るのが好きなわけではない。


 ……それでも、まぁ。

 草也自身が言い出したことだ。

 彼女の誠実さに応えるために、今ここに立っているのだ。


 だから、やれるのか、ではない。

 やるのだ。

 やるしかないのだ。


 どうせ遅かれ早かれ、ニンジャイーターの一党と戦う時は来る。

 それがたまたま今だったというだけのこと。腹をくくれ。


「ふん、話し合いは終わったか?」

「少々愛の言葉を囁いていました。詮索は野暮ですよ?」

「このタイミングで愛の言葉囁く奴ら、かなり死にそうだな……」

「くだらん減らず口を……往くぞッ!」


 再度、突進が始まる。

 ずん、ずん、ずん。

 リッキーが大地を踏みしめる度に、腹の底まで響くような衝撃が伝わってくる。

 列車か戦車かトラックか、ともかく全てを轢き潰す大質量の突撃。


 受ければ死ぬぞ。過たず。

 避け損なえば、それこそ死ぬぞ。過たず。


 踏み鳴らす死神の足音は、一歩一歩が濃密な死を想起させる。

 船守は既に待避している。

 待ち構えるは草成のみ。

 リッキーはそれでも構わないらしい。順に倒せばいいと思っているのか。合理的だ。


「ぬぅん!!!」


 大上段の振り下ろし。

 普通に考えれば隙だらけのそれは――――しかし振り上げた時点で暴風を巻き起こし、重心を保つ力を奪う。

 迂闊に動こうとすれば、体ごと風に持っていかれるだろう。

 しっかと両足で大地を踏みしめる。根を張るように。意識して。

 その瞬間には、リッキーの攻撃態勢が完了している。


「やべっ」

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 問答無用の唐竹割り。

 空を引き千切る轟音。

 収束し、解放され、大戦斧に追従する暴風。

 まさしく必殺の断頭台。処刑忍の面目躍如。

 振るわれる死の化身。

 暴力という死神の姿。

 咄嗟にどうにか、後方へと跳ねる。

 すんでのところで回避が間に合い、眼前を斧が通過して、一撃が大地を砕く――――さぁ。


 本番はここだ。

 再び、荒れ狂う暴風が草也を襲う。

 これに対処しなければ、体の自由を奪われたところに必殺の一撃を受けて屍を晒すのみ。


 これぞ処刑忍アシュラ・リッキー、必殺のギロチン殺法。

 数多の敵を葬って来た、怒涛にして果断なる剛力任せの忍法である。


 恐るべき忍法だと評さざるを得まい。

 斧と暴風の連撃は繰り返すほどに相手から回避の余地を奪い、やがては死をもたらす。

 シンプル故に対処困難。

 たいていの忍者であれば、これで決着はつくのだろう。


 だが――――この技は、二度目・・・である。


 忍者の戦いは秘密を奪い合うものだと、五右衛門は言う。

 ならば敵の忍法のからくりを知るこの状況、先んじて秘密を奪ったのは草也である。

 対策は、既に考えてある。

 なにも難しいことはない。

 相手の忍法が、暴風による行動の阻害を要訣とするのなら!


「イヤーッ!!」


 迫る暴風を――――逆方向からの暴風で相殺する!

 後ろへの跳躍と共に繰り出した真空廻し蹴りの生み出す衝撃波が、リッキーの暴風と衝突して対消滅。

 当然草也は風に体勢を崩されることなく、そのまま距離を取る。


「ぬぅっ……小癪!!」


 構わずリッキーが連続して戦斧を振るう。

 ギロチン、暴風、その嵐。

 それを再び、回避運動と連動したソニック・アーツで打ち消しかわしていく。

 三度繰り返せど、四度繰り返せど、結果は同じこと。


 わかってきた。

 相性がいい・・・・・のだ。草也とリッキーは。

 だから船守は囮役を任せたのだ。

 持ちこたえるだけならば、確かに草也は適任であろう。


 されどそれも、薄氷の上の紙一重。

 いつ崩れるとも知れぬ均衡。死と隣り合わせの綱渡り。

 大戦斧の一撃を、かわせなければ待つのは死。

 荒れ狂う暴風を、打ち消せなければ待つのは死。

 一瞬の油断、一手の不手際、一度の過ち。

 それら全てが意味するところは死。

 一度攻撃をかわす度、神経が削られていくような錯覚。


 ――――長くは保つまい。

 草也の中の冷静な部分がそう告げている。

 その通告に異論はなかった。

 船守とて、“しばらくは持ちこたえられるだろう”と言っていたに過ぎない。

 草也からリッキーを傷付けることはできず、ただ一方的に攻撃をかわすのみ。

 それだけでも至難であるというのに、かわすだけでは果てが無い。

 いずれは捕まり死に至る。

 それがわかりきっているから、余計に神経を削る。


「どうした、避けるだけではなぁ!!!」


 無論リッキーも理解しているから、攻め手を緩めない。

 攻防の度、公園の地面や遊具、ベンチだの鉄柵だのが次々と破壊されていく。

 まるで巨大な熊が暴れたような惨状。暴れているのは熊ではなくカブトムシであり、忍者だが。

 いつまでこんなことを続ければいいのか。

 船守を信じる他はない。

 船守を信じて、かわしつづけるのだ。

 草也が選んだ選択肢は、そのようなものであるのだから。


「ははっ……どうかな。案外、そっちがバテるまで、避けてるかもだ、ぜ!」

「息も絶え絶えに言うことか? ……だが、埒が明かんのも事実――――いいだろう」


 ひときわ大きく、大戦斧が振るわれる。

 合わせる回避動作も大きく、ここで一度距離を取る。

 一瞬の空白。

 ここで息を整えろ。

 全身から汗が吹き出し、けれど背筋は冷たい。

 肩で息をしているけれど、視線だけはブレずにリッキーを見据えている。

 次の瞬間には、リッキーが再び踏み出している。

 息をつく暇も無いとはこのことか。

 ひきつったような苦笑が零れた。

 戦斧の一撃。

 これをかわす。

 続く暴風。

 これを相殺する。

 そして次の一撃も――――



「この俺に奥の手・・・を使わせたこと……ニンジャイーター様の腹の中で誇るがいい、小僧!」



 ――――当然のことであった。

 ずっと彼が、胸の前で組んでいたものは、両腕・・だ。

 二対の腕と両の脚を合わせ、六つ脚・・・であるが故に冠するアシュラの名。

 昆虫として当たり前に持つ、腕が多い・・・・という特性。


 それが今、解き放たれる。


 マズい。

 ダメだ。

 これは。間に合わない。

 次の回避に移るより早く、増えた二本の腕の打撃が迫る。

 これはかわせない。

 これは防げない。

 見せすぎたのだ。暴風を打ち消す草也の技を。


 忍者の戦いは秘密の奪い合い――――なれば奥の手を隠し通したものが、勝利を掴むが道理。


 迫る拳。

 死。

 想起。

 走馬灯。

 死。

 終わり――――――――




「――――――――――――よくぞ、持ちこたえてくださいました」




 ――――その両拳が、ぴたりと止まる。


 拘束されている。

 無数に張り巡らされた、細く黒い糸に。

 それは気付けば蜘蛛の巣にも似て、公園中のいたるところからリッキーへと伸び、幾重にも巻き付いて拘束している。


「ぐぬっ、これは……!」

「我が秘伝の忍法、『六道縄りくどうじょう』――――これがどういったものかは、既にご存じのはずですね」


 下手人は、無論船守。

 草也が稼いだ時を利用し、仕掛けを施したのだ。 

 糸を張り巡らし、敵を繋ぎとめるための仕掛けを。


「出家僧が切り落とした髪を結わえ、女の経血と死蝋と鯨油を混ぜ合わせた特別な油で固めた細縄でございます。その気になれば鉄であれ豆腐のように切り裂く代物なのですが……」


 ぎち、と音が響く。

 ぎぎ、と音が響く。

 リッキーは糸で縛られている。

 ……けれどそれは外骨格に食い込むことすらなく、それどころか徐々にリッキーの万力が拘束を崩し始めている。

 恐るべきは処刑忍の剛力と、常軌を逸したその硬さ。

 鉄をも切り裂くという船守の攻撃を、恐らくは“頑丈な糸で縛られた”という程度にしか考えていないだろう。


「これは、少々自信を失くしてしまいそうです……!!」

「くだらん小細工を……こんなものでこの俺が、止められると思ったか……ッ!!」


 少しずつ、少しずつ。

 その身を幾重にも縛り付ける糸を、力任せに解いていく。押し返していく。

 その度に、ぎち、ぎち、と音がする。


 どうする。

 動きを止めている。隙だらけだ。

 けれど闇雲に攻撃して、効果があるとは思えない。なにかプラスアルファが必要だ。

 迂闊に手を出せば均衡が崩れ、窮地を招きかねない。

 どうする。

 船守は歯を食いしばり、必死に拘束を強めている。さながら綱引きのように。

 彼女の細い指に繋がる糸は、複雑な軌道を辿ってリッキーを拘束しているらしい。

 それでも結局は――――綱引きである以上、圧倒的な膂力を誇るリッキーに有利な勝負だ。

 天秤が徐々に傾いていく。

 無論、リッキーの側にだ。


 ぎち、ぎち。

 ぎぎ、ぎぎ。

 みしみし。ぎち。


「くだらん、くだらん、くだらん! まったくもってくだらん忍法だ! ニンジャイーター様も、なぜこのような小娘に執着するのか!」

「だまりな、さい……!!」

「始末せよと仰せになれば、この場で首を刎ねたものを――――やはりあの御方にも、親子の情・・・・というものがあるのか?」

「っ、黙れッ!!!!」


 ――――――――。

 今。

 親子・・と、言ったか。

 誰と誰が……問う必要は、感じられなかった。

 船守は、深い憎悪と怒りの表情を見せた。


「あのような外道、父と思ったことなど一度としてあるものか!! 私の親は母上ただひとり!! あんなものを私の親と呼ぶな、下郎ッ!!」

「ふん、貴様の母体は随分と優秀だったとは聞いているがな……哀れな女よ。貴様も、貴様の母親もなァ!!!」


 ――咆哮と同時に、ついに崩れる均衡。

 リッキーは四本の腕を大きく開き、糸の拘束を振り払う。

 これで晴れて自由の身、蹂躙処刑の再開だ――――そう思われた瞬間、四方八方から飛び出すは無数の手裏剣。


「なにっ!?」

「……かかりましたね。母への侮辱、この仕掛けにて代価を支払いなさい」


 罠だ。

 最初から船守は、拘束を破られる前提で彼を縛っていたのだ。

 リッキーが糸を振り払うと同時に、連鎖して手裏剣が飛ぶような仕掛けを施していたのだ。

 雨霰の如く手裏剣が飛び交う。

 外骨格がそのこと如くを弾く――――否、時折関節部に刃が突き刺さり、苦悶の呻きを零す。

 あまりに浅い傷だ。

 けれど、決して無意味ではない。


「K様、こちらへ!」

「わ、わかった!」


 その小さな苦痛にリッキーが気を取られた瞬間――――船守が地面に叩き付けたのは、煙玉・・

 噴出する白煙が周囲に広がり、視界を奪う。

 瞬く間に公園が煙に包まれ、一寸先も見通せぬほどになった。


「こ、しゃ、く、なァァァァァーーーーーーッ!!!!」


 その煙を、振り回す大戦斧の旋風が振り払う。

 ぶおん、ぶおんと頭の上で大戦斧を振るう度、煙が吹き飛び晴れていく。


「味な真似をしてくれたな……! だがこの俺に効くものか! この程度の攻撃が! 貴様らに勝ち目などひとつもありはしないのだ!!」


 最後にひと振り斧を横に薙げば、全ての煙が消え失せる。

 二重三重に仕掛けを施してはいたが、それもアシュラ・リッキーの圧倒的な身体能力スペックにかかればさしたる意味も無い。

 再び、いや三度、リッキーによる蹂躙処刑が再開せんとして――――



「――――――――小娘が……っ!!」



 ……どこにも、船守と草也の姿が無いことを知る。

 逃げられた。この僅かな一瞬で。

 ぎり、と乱杭歯を噛み締める。

 怒りの感情が、胸の奥から沸き上がる。



「許さん……この俺をおちょくりおって……許さん……許さんぞぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」



 ビリビリと空気を震わせる咆哮が、破壊し尽くされた公園に虚しく響きわたった。




   ◆   ◆   ◆




「……ここまでくれば一旦大丈夫でしょう。ひと休みされますか?」

「ああ、いや……大丈夫。先に根城まで戻っちゃおう。その方が逆に楽だと思う」


 そして肝心の二人は今、下水道を駆けていた。

 あの一瞬、マンホールを開けて地下下水道へと逃れていたのだ。

 複雑に入り組んだ下水道は、退路として用いれば易々とは追い付かれることはない。

 ある程度距離を取ったところで速度を落とし、一応の警戒を行いながら拠点を目指す。


「……………………………」

「……………………………」


 …………自然と、沈黙が続いた。


 理由はなんとなく、わかっている。

 話すべきことがあるからだ。

 それが切り出しづらいから、草也も船守も黙りこくっている。


 数秒か数分か、沈黙を続けたまま歩いていく。

 足元では、人間という巨大な客人の登場に怯えたドブネズミが駆けまわっていた。


「…………なぁ」


 ……切り出したのは、草也だ。

 そうするべきだと思って、意を決した。

 びくりと船守の肩が跳ね、けれどそれも一瞬のこと。

 先行していた彼女は足を止め、くるりと振り返った。


「……はい。なんでございましょうか」

「…………秘密なら秘密で、まぁいいんだけどさ」


 答えたくないのならそれでもいい、とは思っていた。

 それはきっと、彼女自身が許さないだろうけれど。

 だから草也から、疑問と確認を口にするのだ。


「さっきあいつ……君が、ニンジャイーターの娘だって」


 ニンジャイーター。

 この世界を作り、全ての忍者を喰らわんとする、悪なる神。

 そのように彼女は語っていた。彼女以外も。

 そして、船守は――――その悪鬼の、娘なのだと。あの怪人は、そう口にしていた。

 船守が見せた憎悪を想えば、良好な親子仲ではあるまい。

 まず間違いなく、何かしらの事情があるのだろう。 

 わざわざ詮索すべきことかは、わからなかったが――――けれど、聞くべきだと思った。だから聞いた。


 船守は嘆息し、目を伏せ……そのまま、ぽつりと。




「……ええ、はい。血縁上は、そうです。私はあの男の種によって生まれた女。ニンジャイーターの娘ということになります」




 ひどく悔しそうに、肯定した。


「これは……秘密というよりは、単に私が認めたくなかったのです。私があの男の子であると思うと、臓腑が煮えくり返って頭が真っ白になってしまう……ですから、あまり人には話さないでいました。申し訳ありません」

「いや、その……いいよ。なんだか、複雑みたいだし。細かいところまでは聞かない。……紅葉ちゃんやヒールターンさんは、このことは?」

「恐らくは知りません。少なくとも私からは話していませんので。……誓って言いますが、私がニンジャイーターと戦う意思は本物です。私はあの男を、殺さなければならないのです。そのために、あの醜悪な悪鬼の手元から逃げ出してきたのです」


 実の父を悪鬼と呼び、嫌悪を隠しもせずに。

 ぎり、と奥歯を噛み、美しいかんばせを憎悪に歪ませながら。

 船守は、冷たく燃える瞳を草也に向けた。

 そしてまるで呪詛を紡ぐように、口を開いた。




「あの男は――――――――――――私の母を殺した、仇なのですから」



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