第36話
カウントがゼロになった。
獣が山上を喰らい始める。
山上に意識はない。
心臓停止したかのように動かない。
ただ食われるだけ。
形が無くなる。
「僕は……人を……」
何もなくなった。
山上は肉片一つ残らずに獣に喰われて死んだ。
「初めて殺めてしまった 僕は殺人犯だ」
雨狩はデスバインドの効果で山上を殺した。
残ったのは出石眞の死体と消えた山上を除く三名だけだった。
※
その後にしばらくして、警察が来た。
「あたしが言い訳を考えておくから」
「僕は人を……」」
「雨狩君! しっかりして!」
「は、はい!」
「雨狩君、無事! ひ、人が死んでる」
「ケイちゃん!」
北井たちも集まる。
「雨狩がデスバインドで……」
井田が事情を説明する。
雨狩はショックで言葉が出ない。
とても弱々しい姿。
「ではこの死体が山上と……」
「ええ、俺そこで捕まってて……最後はその急に息を引き取りました」
「ご協力感謝します。こちらの頭を打ち抜かれた女性は?」
「山上に頭部を撃ち抜かれて、殺されました」
「……」
井田が苦し紛れの半分嘘をついている間。
雨狩は弱々しく言葉が出ない
「こちらの少年は?」
「殺人が起きてしばらく話せないみたいです」
「聴取は無理か」
警察はそう言って離れる。
「雨狩。人が死ぬの見たのは、これが初めてじゃねーだろ?」
警察の捜査の中で、そう言った井田が雨狩に肩を手に添える。
「でも人を殺すってことは……」
ようやく言葉が出た雨狩は、とても小さな小声だった。
「沢城の事がある。お前はあいつと同じか? 違うだろ?」
「でも今回は僕が殺めて……」
「あのままだったら、もっとあいつは殺してたぜ。おめーは殺される人を守ったんだ。詭弁じゃねぇよ」
井田はそう言って、手を離す。
「それに俺の命を、二回救ってくれた ありがとう雨狩」
井田が頭を下げる。
雨狩はそんな井田を見て、震えが止まる。
安堵だった。
「しばらく学校休んどけ。ノートは白本たちに取らせっから……この事件の後だから警察と学校側も理解してくれるよ」
「……大丈夫です。学校来れますから……」
「そっか。ほれ、声が出たんなら、警察の事情聴取もあるだろ? 前よりマシに話せるようになったんだ、行って来いよ」
嘘の事情聴取。
能力を見せる訳にも行かずに、警察に落ち着いたっと言う。
井田達の言葉が気になる警官が、何故か聞いていない光景に雨狩は不思議がる。
雨狩また疑う。
(今回も捜査が妙におざなりだ。それに警察も疑うことも無く、このおかしな事件に妙に素直だ 身体検査もないか怪しいな? 何かある。アレは確信になりつつあるな)
緊張の糸と死体があることの恐怖で、那内が北井たちに抱き合う。
那内が泣いている時に、雨狩は考える。
(来るべき時が来るだろう肌身離さずにアレを持とう)
※
「ニュースをお伝えします。昨夜、拳銃を所持した女性の山上華也が出石眞鱗衣さん(24)を物流センターにて銃殺しました。撃たれた弾丸は床にも発見され、高校生の男女が狙われており、男子高校生が通報し、犯人は銃の使用後に証拠不十分の死亡。警察は高校生の事情聴取から自殺とみています。銃の入手先の詳しい捜査を進めています……」
朝のニュースがテレビに流れる中で、雨狩は食欲がわかないまま無糖のブラックコーヒー飲む。
自宅にて小食で朝食を済ます。
あの後に警察の事情聴取と死体として搬送された出石眞。
泣き崩れる那内。
エクソシストと自分達の能力を隠し通して、それらの事実を夜に親に聞かれても隠し通して布団に潜った自分。
梅貫の母親のことがやはり能力で自殺扱いになったこと。
それらを考えて一睡も出来なかった。
規則正しい生活を送る雨狩には初めての徹夜。
(あまり頭が回らないな。学校行こう。ここにいても両親に問われるだけだ)
雨狩は教材を入れて、家に居ながら安心できない家を出て登校する。
(結局梅貫さんの事件は母親の殺害は公表されなかった。出石眞さんも死んでしまった。これからどうなるのだろう? こんなこと誰も相談できない)
雨狩は酷く疲れた顔で、朝日の眩しい午前の人ごみのなか孤独を感じる。
「雨狩君っ! おはよう!」
那内の声が聞こえて、雨狩はコンビニ前で止まる。
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