第36話

 カウントがゼロになった。


 獣が山上を喰らい始める。


 山上に意識はない。


 心臓停止したかのように動かない。


 ただ食われるだけ。


 形が無くなる。


「僕は……人を……」


 何もなくなった。


 山上は肉片一つ残らずに獣に喰われて死んだ。


「初めて殺めてしまった 僕は殺人犯だ」


 雨狩はデスバインドの効果で山上を殺した。


 残ったのは出石眞の死体と消えた山上を除く三名だけだった。







 その後にしばらくして、警察が来た。


「あたしが言い訳を考えておくから」


「僕は人を……」」


「雨狩君! しっかりして!」


「は、はい!」


「雨狩君、無事! ひ、人が死んでる」


「ケイちゃん!」


 北井たちも集まる。


「雨狩がデスバインドで……」


 井田が事情を説明する。


 雨狩はショックで言葉が出ない。


 とても弱々しい姿。


「ではこの死体が山上と……」


「ええ、俺そこで捕まってて……最後はその急に息を引き取りました」


「ご協力感謝します。こちらの頭を打ち抜かれた女性は?」


「山上に頭部を撃ち抜かれて、殺されました」


「……」


 井田が苦し紛れの半分嘘をついている間。


 雨狩は弱々しく言葉が出ない


「こちらの少年は?」


「殺人が起きてしばらく話せないみたいです」


「聴取は無理か」


 警察はそう言って離れる。


「雨狩。人が死ぬの見たのは、これが初めてじゃねーだろ?」


 警察の捜査の中で、そう言った井田が雨狩に肩を手に添える。


「でも人を殺すってことは……」


 ようやく言葉が出た雨狩は、とても小さな小声だった。


「沢城の事がある。お前はあいつと同じか? 違うだろ?」


「でも今回は僕が殺めて……」


「あのままだったら、もっとあいつは殺してたぜ。おめーは殺される人を守ったんだ。詭弁じゃねぇよ」


 井田はそう言って、手を離す。


「それに俺の命を、二回救ってくれた ありがとう雨狩」


 井田が頭を下げる。


 雨狩はそんな井田を見て、震えが止まる。


 安堵だった。


「しばらく学校休んどけ。ノートは白本たちに取らせっから……この事件の後だから警察と学校側も理解してくれるよ」


「……大丈夫です。学校来れますから……」


「そっか。ほれ、声が出たんなら、警察の事情聴取もあるだろ? 前よりマシに話せるようになったんだ、行って来いよ」


 嘘の事情聴取。


 能力を見せる訳にも行かずに、警察に落ち着いたっと言う。


 井田達の言葉が気になる警官が、何故か聞いていない光景に雨狩は不思議がる。


 雨狩また疑う。


(今回も捜査が妙におざなりだ。それに警察も疑うことも無く、このおかしな事件に妙に素直だ 身体検査もないか怪しいな? 何かある。アレは確信になりつつあるな) 


 緊張の糸と死体があることの恐怖で、那内が北井たちに抱き合う。


 那内が泣いている時に、雨狩は考える。


(来るべき時が来るだろう肌身離さずにアレを持とう)







「ニュースをお伝えします。昨夜、拳銃を所持した女性の山上華也が出石眞鱗衣さん(24)を物流センターにて銃殺しました。撃たれた弾丸は床にも発見され、高校生の男女が狙われており、男子高校生が通報し、犯人は銃の使用後に証拠不十分の死亡。警察は高校生の事情聴取から自殺とみています。銃の入手先の詳しい捜査を進めています……」


 朝のニュースがテレビに流れる中で、雨狩は食欲がわかないまま無糖のブラックコーヒー飲む。


 自宅にて小食で朝食を済ます。


 あの後に警察の事情聴取と死体として搬送された出石眞。


 泣き崩れる那内。


 エクソシストと自分達の能力を隠し通して、それらの事実を夜に親に聞かれても隠し通して布団に潜った自分。


 梅貫の母親のことがやはり能力で自殺扱いになったこと。


 それらを考えて一睡も出来なかった。


 規則正しい生活を送る雨狩には初めての徹夜。


(あまり頭が回らないな。学校行こう。ここにいても両親に問われるだけだ)


 雨狩は教材を入れて、家に居ながら安心できない家を出て登校する。


(結局梅貫さんの事件は母親の殺害は公表されなかった。出石眞さんも死んでしまった。これからどうなるのだろう? こんなこと誰も相談できない)


 雨狩は酷く疲れた顔で、朝日の眩しい午前の人ごみのなか孤独を感じる。


「雨狩君っ! おはよう!」


 那内の声が聞こえて、雨狩はコンビニ前で止まる。


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