第35話
「拳銃を持っているんなんて! 一体どこから?」
「あら? 女っていろんな所に道具を入れられるって知らないの?」
出石眞は倒れ込んだまま声を出さない。
「もしもし! もしもし!」
落としたスマートフォンから警察の声が虚しく聞こえる。
「覚えておきなさい。世の中は奪い合いなの! 奪う側の選ばれたあたしだけが万物を奪い続けるのよ!」
山上は倒れ込んだ出石眞の頭をそう言ってブーツで踏んづける。
雨狩はデスバインドを出そうとするが、異常な山上の殺気じみた視線に怯える。
山上は言葉を続ける。
「奪われるクズは所詮クズなんだよ! 騙されてんじゃねーよ! クソ女ぁ!」
山上は笑いながらコルトパイソンを出石眞の頭に打ち込んだ。
出石眞はビクンと小さく痙攣して、もう動かなくなった。
「そ、そんな……い、出石眞さんが……嘘だ。さっきまで、うぐッ! ヴォエ!」
頭を打ち抜かれ動かなかくなった出石眞に雨狩は嘔吐して座り込んだ。
初めて見る死。
人は未知の事態に的確に対処が出来ない。
ましてや人の死に関しては、高校生の雨狩には即座に割り切れるはずがない。
足は異常なほどに恐怖で震えて力が出ない。
「さ~てと……鎖の坊やも……後々考えたら厄介だから、ここで死んじゃおうかぁ?」
雨狩が視線を上げると、コルトパイソンを構えた山上が歩いていく。
「ばいば~い♪ インテリ気取りのイキリクソメガネ高校生君♪」
山上が引き金を引く瞬間にそれは起きた。
軌道を描くような強く回転するツイストサーブの硬球が銃を持つ山上の腕に当たる。
「いだぁ!」
バンッと腕にテニスボールがぶつけた衝撃でコルトパイソンの銃弾が、雨狩の狙った頭から大きくずれ誤射する。
必然的に刻まれる旋条痕のある銃弾は床のコンクリートにねじり込む。
同じく床に転がるのは硬式のテニスボールだった。
「雨狩君っ! デスバインドを早く!」
テニスラケットを持った那内が倉庫の入り口から入ったのか、そこにいた。
「ってぇな~。いきなりビックリするじゃない。このクソメガネ殺したら、あんたを……」
その時だった。
雨狩はデスバインドをうなだれた手から鎖を生み出し、磁石のように山上の全身を巻き付ける。
「このっ!? 離しなさい! く、苦しい!」
「間に合って良かった! 出石眞さんから連絡あってここに来るまで走ってきたら、大変なことにって……出石眞さん!?」
那内はおっかぱ気味のショートヘアーの跳ね髪がさらに長く走ったせいなのか、いつもより跳ねていた。
「こいつ離しなさいよ!」
山上の頭の上にデスバインドのカウントが表示される。
二十。
その数字に雨狩は疑問を覚える。
「やけに短い……どうなっているんだ滅茶苦茶じゃないか?」
思わず口に出る。
カウントの数字が十九に変わる。
「エクソシストハンターとしてエクソシストのあのクソ女殺したのよ。今外せば見逃してあげてもいいけど?」
山上が焦りだし、鎖に縛られた体を動かす。
「雨狩っ、そいつを話しちゃダメだ。こいつはまた人を殺すだろう!」
井田が叫ぶ。
「ですが、解除しないと……このままでは……」
デスバインドの効果の即死が待っている。
(どうすればいい……離せばマリオネット・フォビアで殺されるだろう)
ただただ重い沈黙と山上の悪態の声と残酷な時間だけが過ぎていく。
カウントは十三になる。
「くそっ! 骨が痛いわ! 離しなさい。命令よ! あなた人殺したくないでしょう? ねぇ?」
山上の顔が歪に笑む。
「……」
「聞こえているんでしょう! はっきりしないさいよ」
那内は雨狩の近くに走る。
「雨狩君、口を止めて呼吸を止めて気絶とか出来ないの?」
カウント、八。
「……デスバインドは能力者自身にのみなら呼吸が止まれば、解除できます。ですが他の相手は……」
「そう、なら決意した方が良いよ」
那内はしっかりとした目でそう言う。
「決意ってそんな、僕には出来ない……」
「解除すれば私たちは殺されちゃうよ! そしたら出石眞さんが浮かばれないよ!」
「くっ……何か、方法はないのか? 早く警察が来れば……でも、すぐに警察も殺される。やるしかないのか?」
カウント、三。
「あっ……ああ、あ……胸が、痛い。あぐっ……!」
そう言い、山上は意識を失う。
倒れ込む。
カウント、一。
拘束していた鎖の周りに、黒いオーラが出る。
それらが獣のように牙を作り、黒いオーラが赤い目を作り、具現化される。
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