第32話

 那内がエクソシストハンターの女性のリストの写真が載っている女性の名前を読み上げる。


「……話を聞く限りでは、それは間違いなく能力者の犯行ね。私の追っている山上華也の能力だわ。包丁に指紋が残らないのは相手を操作する能力よ」


 先ほどの話を簡潔に雨狩が説明すると、出石眞は断定してそう言い放つ。


「詳しい書類はありますか?」


 雨狩がそう質問すると、出石眞は書類を鞄から出して机に置く。


「山上華也、大学生二年生で年齢は20歳。借りた能力はマリオネット・フォビア。それが山上の能力で詳細はエクソシストからデータが書かれているわ」


 出石眞はそう言って、大学生のレポートの様な一枚の紙を見せた。


『能力名、マリオネット・フォビア。自身の付近にいる三メートル以内の相手に三分間のみ動きを操作できる。ただし視界で確認後に相手の肌に触れなければ操作は出来ない。使用代償として、使用した相手から七十時間は最大三キロまでの距離に居続けなければならない(三キロ以内であれば好きな場所に移動可)もし三キロ過ぎた場合は使用した相手の元に戻りそこで三日は動けない。その後にまた五十時間の代償が発動される。能力使用後の追加デメリットは使用後に一時間後に過剰な頭痛』


 雨狩は読み終えて、まだ読み終えない那内を気にせずに出石眞に話す。


「恐らく能力で心臓に刃物を誘導させたのでしょう。この能力なら電車は安易に使えない、三キロでは電車は厳しい。まず、距離を測り間違える可能性がありますしね」


「その通りね。山上がタクシーに乗ったのは、この埼玉の市内で安全な場所に警察の目を逃れるために使用したというのが理由でしょうね。逃れるための場所はネットカフェでも利用するとかかしらね?」


「本人は気づいていないと思いますが、目撃者が梅貫さん以外居ないことも考えての人混みを避けた慎重な行動でしょうね」


 雨狩と出石眞がやり取りしている中で「あっ!」っと梅貫が声を出す。


「梅貫さん、どうしたの~?」


「あいつ、何か持ってた。そうだ、だんだん思い出してきた。小型のビデオカメラを持っていたわ」


「ビデオカメラですか……目的は何かを撮影していた? 自分の能力の証拠を収めるために……っ!?」


 言いながら、言葉の最後に雨狩はゾッとした。


 殺人記録。


 高校生は覚えることの無い、スナッフビデオを連想したのだろう。


 雨狩はその悪魔の所業に近しい物を、会ったことの無い写真だけの山上の想像する笑みを浮かべる。


「出石眞さん。なんでタクシーなんですか? 私には歩けば良いと思うのに」


 出石眞がそんな雨狩の凍り付く表情を見て、察したのか那内の疑問に答えて雨狩をそっとさせる。


「駅から約二キロ先にインターネットカフェがあるのはご存じかしら?」


「えーと、イイちゃんの家に遊びに行った道の途中にあったかな? でも駅前にもインターネットカフェはあるよ? なんで遠くの場所に行くの? 同じ施設だよ?」


 冷静さを取り戻した雨狩が、今度は出石眞の代わりに答える。


「あそこの近くには交番があります。人を殺した状況で、わざわざ交番近くのインターネットカフェを利用しますか? 同じ施設でも駅から離れたあそこは、当然ですが駅前より人が少ないので、空きがあります。だから満室にならずに入りやすいんです」


「あいつの目的はあたしの母さんの殺しと何かの撮影? なんで撮影なのかよくわからないけど」


「撮影ねぇ……目的がそれだけだと断定は出来ないわね。というかただの快楽殺人犯ね。沢城と同じケースよ。エクソシストハンターって言うのはそういう連中が多いのよ」


「みんなっ! 急がないと目的も何も時間が経って能力が解除されちゃうよ! そうしたら三キロ以上の距離を離れて探すのも難しいよ。早く急ごう!」


 話し合いの中で那内がまた立ち上がる。


「そうですね、今は梅貫さんの実家の住所を調べて、その付近三キロ以内の区間を探すしかない」


「えっ? ネットカフェにいるかも知れないのに?」


「念のためです。それでは僕はネットカフェに向かいます。那内さんと出石眞さんは三キロ以内の場所を探してください。梅貫さんは安全のために三キロから離れた場所に居てください。北井さん達も那内さんと同じようにお願いします」


 雨狩達は梅貫の住所を聞いて、そこから三キロ以内の場所をスマートフォンのアプリの一つである地図範囲を使い、登録する。


「じゃあ、あたしらも捜査に加わるわね。人数多い方が効率良いし、見つけたらバレずに連絡すれば良いだけだしね」


 それまで黙っていた北井達もそう言い、立ちあがる。


「よ~しっ! じゃあ探そう!」


 那内はラケットとボールが入ったスポーツバックを軽々と持つ。


「肩痛くなりませんか?」


「一年生の時に部活でいつも持つから慣れちゃったよ。さ、急ごう犯人捕まえなくっちゃ!」


 六人は共通の目的である山上を捕まえるために、スターバックスを後にした。







(まだマリオネット・フォビアのデメリットの効果時間が一日だけ時間が残っている。急がなければいけませんね)


 駅から離れたネットカフェに向かって雨狩は走る。


 人だかりにぶつかることもなく、早めに移動できた。


 ここ最近走ってばかりか、体が慣れたのか走り終えた時の疲労が減っていた。


 息を整え、ネットカフェに辿り着いた雨狩は中に入る。


「いらっしゃいませ~。何時間のご利用ですか~?」


 気さくそうな若い男性の店員がカウンターから声をかける。


「すいません。ここに女性の山上華也という二十歳の大学生の方が利用していませんでしたか?」


「お客様、当店ではそれぞれのお客様の個人情報が保護されているのでそういうのはお答えできないんですよ~。だた女性の方なら現在はいませんよ」


(遅かったか。喫茶店での話し合いに時間を使いすぎた。那内さんのような行動力が僕にあれば……自分が情けない……)


 その時に雨狩のスマートフォンが振動する。


 喫茶店を出る前に交換した出石眞からのメールだった。


 大型倉庫で見かけたっとだけ表記されている。


(急がなくては!)


「すいません、失礼します。今度来た時は利用しますので!」


「えっ? あの、お客様~?」


 困る店員をほっといて雨狩は去っていく。


 三キロ以内の大型倉庫がある場所を雨狩は知っている。


 物流センターの倉庫だった。


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