第30話
「止めてよ! 私は死にたいの!」
「あんたね、自殺とか洒落にならないわよ!」
「ち、力がもう持ちそうにないですわ~。飯田さんが先生呼ぶまでもうひと踏ん張りですわ~」
那内がよじ登る少女の足を追いついて掴む。
「ダメだよ! 自殺なんて! 何があったか知らないけど、諦めちゃダメ!」
「離してよ! もうどうにも出来ないの!?」
「ちょっと痛くなるけど、ごめんね! 雨狩君、頭をぶつけない様に彼女のクッションになって!」
「そういうことですか、分かりました」
「ん~! それっ!」
那内はそう言って少女の両足を掴んで、力の限り下に引っ張る。
少女はフェンスを絡める指の力を痛みと共に無くし、手を離す。
「きゃあぁー!」
少女が那内に両手で抑えられた両足を掴んだまま空中で無防備になり叫ぶ。
雨狩が落ちていく少女の頭を両手でキャッチして倒れ込む。
「あいったぁ!」
北井と美空木もコンクリートの地面に背中を叩きつけられる。
五人は他に誰もいない屋上の中で生存する。
「あたたた……一歩間違えば頭を打って脳震盪を起こしていましたよ。あまりスマートなやり方じゃないですね」
雨狩は両手で少女の後頭部を抑えて、倒れ込む。
那内は背中を打ったのか、摩りながら起き上がる。
少女は我に返ったのかブワッと気持ちが爆発したかのように泣き出す。
「う、うぇ~ん。あたし、あだち……!」
「うんうん。怖ったんだね。一人じゃないよ。安心して……」
那内は泣き崩れる少女の手を優しく握る。
(一年生かな? 胸についているのが間違いなく一年生の時に付ける銀色の校章だ)
「おおっ~! 雨狩君、すまない、待たせたな」
飯田が何名かの教師と共に屋上に現れる。
「まったく困ったものです。校内で自殺されては私の査定が……ごほん。何があって自殺したんです? いや自殺をしようとしたのですか?」
本川が少女を抑えて、慇懃無礼な口調で腕を握る。
「お母さんが殺されたの! 昨日からだった! 変な女が近くに居たのよ! お母さんその女と同じ仕草をして包丁で胸を刺されたの! おかしな現象よ!」
少女はわめくように答える。
「あー、貴方一年C組の梅貫(うめぬき)さんでしたっけ? 昨日も聞きましたけど、警察の話じゃ妙な人間なんていないで指紋も無いから、自殺だったんでしょ? あなたには親戚が引き取るからと親族から言われてますよ。死なれちゃ困る」
(殺された? 昨日で近くに妙な人物がいた? 同じ仕草をした?)
雨狩は考え込む。
「すいません。梅貫さん。どういう事情か説明させて下さい。その一部始終が気になります」
雨狩は本川と梅貫と呼ばれたツインテールの少女の会話に入る。
「雨狩、説明を受けるのは先生だぞ。まったく自殺未遂なんて知れたら新年度の入学生に支障が……」
「梅貫さん、誰かに頼りたいなら私たちが何とかするから、喫茶店で話そう。すぐには信用できないかもしれないけど、私達が力になるから……」
「……」
「ほら、職員室に行くぞ、担任の先生と相談して授業に入りなさい。タイムイズマネーですよ」
本川がそう言って、梅貫を引っ張り屋上を後にした。
「雨狩君、私達も戻ろう」
「ええ、出石眞さんを喫茶店に呼びましょう」
「? どうして?」
「梅貫さんの話にあるおかしな現象を起こした女性……能力者かもしれませんから」
北井たちが集まる。
「何かあった訳? 私達にも説明して協力する権利あるわよね」
「うん、ケイちゃん。放課後に喫茶店で梅貫さんと話すよ。いいよね? 雨狩君?」
「ええ……ただ井田君達には内緒にしておきましょう。沢城の後ですしね」
(異形でなければいいが、梅貫さんの前で自殺扱いの殺人か……沢城の事と言い、インプレッサの男と言い、随分物騒になったものですね)
思案する雨狩と那内達は、風の強い屋上を離れる。
無人の屋上の中で、梅貫が細くデリケートな肌で掴んでいたフェンスに数滴の血液が流れる風と共に空へと飛んで行く。
※
放課後。
那内と雨狩が梅貫のいる教室に行く。
そこには夕日の中で、不安そうに今にも崩れそうな表情で座っている梅貫がいた。
梅貫は那内の手を握り、落ち着きを取り戻し藁にもすがる思いで那内を頼る。
梅貫は乱れていた息を整える。
学校では屋上の一件もあり、また自殺しかねないと那内は思い、そのまま梅貫を喫茶店に連れていく。
雨狩達も着いた喫茶店にて、梅貫と話す。
スマホで呼んだ出石眞はまだ来ない。
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