第29話
雨狩は沢城の近くに歩く。
「雨狩君っ! 危ないよ! もしかしたら生き返るかも!」
「大丈夫ですよ。那内さん、ちょっとアレを借りるだけです」
「アレ?」
雨狩はそう言って沢城からある物を借りる。
※
「あいつはエクソシストハンターの沢城琢磨(さわしろたくま)よ。歳は28歳、職業は警官。裏の顔は殺戮者よ。そんなあいつを追っていた貴方達は何者なの?」
ビルから離れて、神社で出石眞は雨狩達に問う。
どうやら初対面の様な対応でこちらを知らない様子だった。
(那内さんのモータルブレイクザワールドの効果にしても、知らないのは何かが変だ。ここは取り合えず……)
「雨狩、おまえってすげーな。一万田の命まで助けてくれてありがたいいぜ!」
井田が雨狩に抱き着く。
「えっ! い、いや、ちょっと? 抱き着くのはデスバインドの効果での副作用ですかぁ~!?」
「今回のことで俺ら、もう色んな悪い事すんの止めるよ。自首は出来ねーけど、進学してまっとうな大人になるよ。目が覚めたわ」
雨狩がそう考えている時に井田がそう言う。
「あっ、ち、違うんですね。そうか、そんな早く副作用はない……って頬にキスするの止めてくださいよ! やっぱりデメリットが出ているじゃないですか!」
※
あの後、一万田はビルから救急車で運ばれた。
理由は自害した沢城が暴行を加えた、ということになっているがナイフが見つからず警察も捜査中。
柳沢達は警察の質問攻めに会いながらも、井田と雨狩と那内、出石眞はビルに残らずに神社に移動。
警察の捜査の質問を受けているのは柳沢と白本だった。
自害した警官の沢城に困惑する刑事だったが、マスコミに公表するのは避ける様子だった。
柳沢達は軽い事情聴取で済まされたことを電話越しに井田から伝えられる。
(警察がそんな雑な対応はあり得ない。モータルブレイクザワールドからおかしなことだらけだ……)
雨狩は深く考え込む。
出石眞は那内に自分達が異形に襲われたことから説明していた。
「そんなことって……だって貴方達と私は初対面よ。エクソシストの事も知らないのに……それが那内さん、貴方の借りた能力なのね」
出石眞は納得する。
「おいおい、雨狩。俺らにも分かるように説明してくれよ。能力って雨狩のあの地面から出た鎖だろ? 俺らにも使えるのかな?」
井田が愉快気に言うが口を塞ぐ。
「わ、悪い。深刻な話なら俺は黙って帰るから」
「そうですね。井田君には帰ってもらいますよ。関わらせてしまうと危険ですし……」
「わかったよ。雨狩。じゃあ、明日学校来いよ。絶対だかんなっ!」
井田はそう言って神社から立ち去る。
「沢城が異形から助けたという女性能力者が気になるわね。貴方達も何か解れば連絡を頂戴。まず間違いなくエクソシストハンターの女性よ」
去った後で、出石眞は雨狩達にそう言う。
「あっ、はい。わかりました。雨狩君。とりあえず、一件落着だよ。今日は遅いし、もう帰ろう」
気づけば夕日が沈みかけていた。
「出石眞さん。本当に初対面なんですよね?」
「……ええ、那内さんの能力の効果のせいね。その時の私がエクソシストのことまで詳細に説明しているのを那内さんから聞いた限りじゃ、こっちは信じられないけど面識があるみたいね」
「……そうですか、今日は帰ります。もう一人のエクソシストハンターの女性が見つかれば連絡します。外見とかは?」
「明日、説明するわ。関わらせた以上、中途半端に出来ないしね。スターバックスの喫茶店でどう?」
「分かりました。それでは那内さん帰りましょう」
スマートフォンの連絡先を出石眞から交換した那内は、雨狩の言葉に反応して肩を並べて神社から去っていく。
賽銭箱の前に手を置く出石眞だけが夜空を眺めていた。
「セレナード……」
出石眞がぼそりと空に呟き、神社から離れた。
※
次の日の昼休み。
一万田は入院していて、井田達が雨狩と教室で談笑していた。
雨狩と井田達に距離があったのだが、それはもう無くなっていた。
「雨狩っ、ちょっと屋上に来て!」
そんな中、那内が慌てて教室に入る。
「ど、どうしたんですか?」
「雨狩、昼休みまで時間あるから俺らの事は気にせずに行ってきてくれ」
「……分かりました」
「雨狩君っ、早く! 先生呼んでも間に合いそうにないの!」
(また何かあるんだな、デスバインドを使うかも知れない事態にならなければ良いけど……)
雨狩は屋上へと走る。
※
「屋上で何があったですか? はぁ、い、息が、切れ、る」
走る那内の方角へと視線を追う。
屋上のドアが開いているのを確認する。
雨狩は息を切らしながら、屋上に着く。
そこには屋上のフェンスをよじ登るツインテールの少女がいる。
北井と美空木に足を押さえつけられている様子だった。
雨狩はとっさに想像する。
飛び降り自殺。
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