第28話

 雨狩もデスバインドを出す指先が、空気に応えて震えている。


 瞬間、沢城の周りに強風が生まれる。


 風はビル内で激しく吹く。


「魔炎スカルフレイム発動!」


 出石眞が小手から炎を出す。


「その炎。私のウインド・ザ・キラークリエイトで弱まらせてあげますよ」


「なら正面に突っ込むまで!」


 出石眞が三本の爪の先端に炎を風に消されながらも、集まり沢城の胸に向かって突っ込む。


(今だっ!)


「デスバインド!」


 雨狩が叫び、指先から黒い鎖が生まれて伸びる。


「一般人? なんでこんなところに! しまっ……!」


 声の方向を見た出石眞が、沢城相手によそ見をする。


 沢城はそれを見逃さなかった。


 沢城の指先から風の切っ先が、出石眞の太ももを切り裂いた。


 鋭利な風の刃だった。


「あぐっ! しまっ……足がやられて動きが……」


 沢城は出石眞の突進を避けて、風の力で出来た不可視の刃を出石眞の腕に切りつける。


「あっがあ!」


「おやおや、予定より早い到着ですね。サンプルよ」


 その間に一万田を拘束したデスバインドの鎖は、雨狩の近くに引っ張らる。


 無事に雨狩の足元に一万田が回収される。


「ふむ、また人間相手に能力を使えるとは、今後のいいサンプルですねぇ ほほぅ、俄然殺る気が出てきましたよ」


「雨狩っ!」


 那内と井田達が沢城の前に駆け付ける。


 沢城の予定より早い時間で、駆け付ける。


「井田君、早く一万田君を……」


「お、おお。これが雨狩が説明していた鎖。デスバインドか……すげぇ……今、向かうぜ!」


 そう言って井田達が走る。


 一万田は井田に抱きこまれて、意識を徐々に取り戻していく。


 白本と柳沢が沢城を見て、身構える。


「雨狩。逃げるチャンスを作ろうぜ。ヤナと俺で何とかすっからさ」


「フフフ……人質を取り返したとお思いですが、逃げられませんよ」


「沢城、あんたはなんでこんな殺戮をするの?」


 井田達の聞こえるやり取りの中で、出石眞は沢城に問う。


「自分がこんな出来事に巻き込まれたことが、度し難いのですよ」


「何言ってるの。世の中こんなはずじゃないってこと一杯あるじゃない!」


「それが腹が立つのですよ」


「だからって……」


「だいたい、警察が掌握できないエクソシストを殺す。そういう趣味と実験を兼ねた鬱憤を晴らすだけの殺人鬼になったのはむしろ謙虚な方では?」


「狂ってる……正気じゃないわ」


「能力を使えば使うほど、快楽に満たされるのですよ。だからこそ歪の中の正気ですよ。正常に殺しているのだから」


「ひどい……」


 その場に居た那内が、思わず声をあげる。


 出石眞が小手から炎を出す。


「話し合いの余地は元からないみたいね。貴方達、私が何とかするから真っ直ぐに走りなさい」


「そうはいっていられませんよ。那内さん、井田君、屋上での話し合いの通りにしてください。白本君も柳沢君もお願いします」


「わかってるぜ、雨狩。こっちは逃げる気なんてさらさらないぜ」


「魔炎スカルフレイム!」


 出石眞がそんなやり取りの中で、沢城に骸の小手から炎の塊を放つ。


 思わず鼻を塞ぎたくなるような焦げ臭い匂い。


「フフフ……ウインド・ザ・キラークリエイト。炎を風により方向を捻じ曲げろ」


 沢城が指先で放った風の切っ先が、出石眞の炎を真っ二つに割る。


 真ん中に沢城がいて左右に炎が燃えている状態になる。


「私の能力は風を操る力。デメリットは嗅覚を一時的に麻痺するくらいですよ」


「なぜデメリットを言うの?」


「勝てるからです。そしてあなた方は逃げられもしないので、慈悲と言う名の殺される能力の紹介ですよ」


 その時だった。


「白本君、柳沢君。今です!」


「「おうっ!」」


 雨狩の声と同時に、白本と柳沢が左右に分かれて走り出す。


 雨狩は土の地面に指を差し込む。


「どんな手を使おうが、私のウインド・ザ・キラークリエイトの前では意味を成さない」


 沢城が両手を白本と柳沢に向けて、風を集める。


「んっ? これは!」


 沢城が風を集めるのを中断する。


 地面から、雨狩のデスバインドの鎖が沢城の足を拘束していた。


「陽動させて、デスバインドを地面から潜り込ませたんですよ。土の中なら風は意味を成しませんよね?」


 走り出した柳沢と白本が足を止める。


「俺らは気を引かすための陽動よ。甘かったな」


「フフフ……成程。してやられたということですか、ですが貴方の能力では死にません」


「逃げる気?」


 出石眞が足の止血を抑えながら、フラフラと那内に抱えられて立ちあがる。


「いえ、召されるのです。天へ……」


 そう言って、沢城は拳銃を取り出し頭に向ける。


 その動作が余りにも自然な動きで、誰も拳銃を出したことに恐怖を感じなかった。


「貴方の能力では死にません。私自身の選択で死ぬのです」


 バンッ!


 音が聞こえた時には、沢城は拳銃で自害していた。


 瞬間、雨狩のデスバインドは解除される。


 それは死人は拘束できないと言う能力の強制力を意味する。


 拳銃は地面に落ち、決着はつく。

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