第14話
「雨狩君。落ち着いてほしい。君まで早退を決め込んでも警察が理解はして学校側から出来るかもしれないが、説明したその異形に殺されるだけだろう。那内の家に向かうのは危険だ。仮に家に那内が居なくて、当てもなく探せば自分からエサにされるだけだ」
殺されるという言葉に、また那内の姿が浮かぶ。
「ですけどっ!」
雨狩の声が無意識だが、強く大きめの声にこの時ばかりはなった。
「三加からメールが来ないし、家に帰ったのかもわからないわ。家まで確か遅くても歩いて三十分かかるのに……」
「っ!?」
北井の言葉を聞いて、不安が跳ね上がる。
雨狩は初めて高校に入り、人のために自分以上に悩んだ。
那内を心配しつつも、両親に学校を早退すること。
それは重度の病気でもない限り、家庭内では許さない。
ましてやあの事件の後に、親の指示でタクシー通学と寄り道をせずに帰宅。
そして家から出ないと言われた雨狩は、今激しく葛藤していた。
那内のために自分があらゆるものよりも優先して、彼女のためにこれから何かしてやりたい。
そんな葛藤。
「早退とかどうとか聞こえたけど、雨狩フケんの?」
「……柳沢君」
話をどこまでか聞いていたのかは分からないが、後ろの声で柳沢と白本がいた。
「雨狩君のクラスメイトかね?」
「はい。彼らは同じクラスメイトです。すいません柳沢君に白本君。今は話せる気分じゃなくて……」
「雨狩のダチだけど、話だいたい聞いてたわ。五限と六限のノート明日貸してやっから行ってくればいいじゃん」
白本がそう言って雨狩の肩に手を置く。
「ですが、僕は」
「何? 皆勤賞蹴るのがそんな怖いわけ? 大丈夫だって、安心しろよ。お前どうせ成績良いし、俺らと一緒に付属大学進学確定っしょ?」
「そういうわけではありませんが、僕は心配なだけです。ですが、こういう時にどうすればいいか……行ったところで僕に何が出来るのか分からないです」
柳沢がスマートフォンで、メールをしながら話す。
「一回欠席でも、ほぼどうにかなるだろ。その那内ちゃんだっけ? 彼女のために一度くらいはいいんじゃないかな?」
「校内の警備が厳重なんですよ。無理だと思います」
「今解除してやる。ああ、返信来たか」
「えっ? 柳沢君、何言っているんですか?」
柳沢が雨狩の横に立つ。
「俺らが緊急の時に使う抜け道まで案内してやる。行くの? 行かないの? 急がないとその道はあと三十分で使えなくなるけど?」
そう言った柳沢は、どこか楽しそうな顔をしている。
まさか雨狩が自分達の使う抜け道を利用するとは思わなかったので、新鮮に思っていたのだろう。
「緊急の抜け道? 何よそれ? あたし学校にそんなのあること今まで知らないんだけど?」
「教えて欲しいなら、マックで手に入れた清楚系ゆるふわビッチの為に学校休んで来てないメールバカの馬チンポ一万田とパコパコデートしなきゃその情報手に入らないけど?」
「……」
北井と飯田は、不快で嫌悪感のある表情でそう言った白本を見る。
「うわっ! 見た目どうせ腰しか振ってない種付け女っぽいのにその反応っすか? 笑えるわ! 大笑いだわ!」
険悪な雰囲気になりそうなときに、雨狩の中で親への命令などが離れていく。
「雨狩君の友人にしては下品で……」
「柳沢さん案内してください」
北井が言い終える前に、雨狩は葛藤を超えて答えを出す。
両親は怒るだろう。
だが彼女の命を思えば、不思議と怖くもない。
「雨狩君。私からも君が出て行ったら、本川先生に事情をしっかり話す。今後那内君にも出来るだけ行きと帰りは、私たちが送るよ」
飯田がそう言って、雨狩の手を握る。
「ありがとう。飯田さん」
「盛り上がってるとこ悪いけど、那内ちゃんの住所解るの? まさか知らねぇとか?」
柳沢がそう言うと、北井が答える。
「それは大丈夫。雨狩君のスマホに道案内機能のアプリ入れるから、あたしがアプリに三加の住所入力すればここから現在位置付きで家まで案内できるわ。ごめん、雨狩君のスマホ貸してくれないかな? すぐに返すよ」
「そのアプリは入れてありますから、住所入力だけでいいですよ」
「わかったわ」
白本は北井がスマホで入力している間に、柳沢達は話を進める。
「一万田と井田には俺から適当に言っておくから、ヤナと一緒に行って来いよ。本川には那内ちゃんが心配で出て行ったって、伝えとく。明日お前色々怒られて、優等生は今日で終了だけど。大学には行けるから巻き返せば問題ないだろ。停学処分になっても終わったら昼休み中にノート貸してやるから、それで追いつけばいいだけ、な?」
「うちの校則、結構緩い所もあるし、退学にはならねぇよ。ほら、行けって」
「はい、急ぎましょう」
「ヤナ頼むわ。じゃあ、雨狩脱獄させたらメール送れ。教師共が気づいたら、俺が言っとくから、じゃあの」
そう言って白本は購買部に向かう。
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