いつかの故人

@yamatsuki_you

第1話 15歳 12月

 死にたい、と思ったことはなかった。でも、はじめて、今死んだらちょうどいいな、と思った。中学3年、塾の帰り、自転車を漕いでいた。


 何かに絶望したわけではない。模試の成績が悪かったわけでも、いじめられているわけでも、彼氏に振られたわけでもない。ただ、死が目の前にあった。



 私はごく普通の一般家庭で育った。どちらかというと、少し貧しかったかもしれない。でも、今まで死にたくなるようなできごとは何もなかった。父がいて、母がいて、私より少し運動ができる兄がいる。特に比較もされずに生きてきた。幸せだと思う。

 幸せだったけど、周りの友人を見るときは少し劣等感があった。友達の家は、家族で水族館に行っていた。遊園地に行っていた。旅行に行っていた。私の夏は、電波も入らない離島の祖父母に会いに行くだけ。たかが3日間の夏休みの薄っぺらい思い出だけが、私の劣等感なんだと思う。


 死を考えた理由は、たぶん受験が近くて不安だったとか、ただそれだけ。まだ12月なのに。あと3か月、どうやって生きていくの。

 でも、それだけで人間って死にたいかも、なんて考える。今、車に轢かれたら、通り魔に刺されたら、うっかり重い病気で倒れたら、と、つらつらと考えが浮かんできた。

 すごく頑張ってたから、頑張らなくていい理由を探してた。きっとそう。


 結局、自分では死なないから、いつか、誰かに巻き込まれたら。そしたら、私はもう頑張らなくていいんだ。そう考えているうちに、クリスマスも、大晦日も終わった。


 1月が来る。私はまだ、生きている。


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