URABEの太陽

URABE

太陽こそ生命の源


起きがけに、アレクサに気温を尋ねると13度だった。しかし日中の最高気温は20度になると言うので、彼(彼女?)を信じてトレーナー一枚で家を出た。


朝といえど10時にもなれば、震えるほどの寒さのはずがない。目的地の最寄り駅で電車を降りると、大通りを歩きながら周囲の人々の服装をチェックする。



マフラー、マフラー、ジャケット、半袖短パン、ニット、ダウン。



半袖短パンは外国人なので無視するが、ほとんどの人が秋から冬にかけての装いを選択している。…たしかに首元に寒さを感じる。せめてトレーナーではなく、フーディーにすればよかった、と後悔するわたし。

それでも、寒くないフリをしながら胸を張って歩く。



だが寒さにめっぽう弱いわたしは、見栄を張って胸を張って寒くないフリをし続けることができなかった。やはりこの格好では確実に寒いのだ。


とはいえ、すでに家から電車で30分離れた地にいるわけで、今さら上着を取りに戻ることも、温かい服装に着替えることもできない。かといってこのままでは低体温症で死ぬかもしれない――。



とそのとき、冷え切ったわたしの身体に温かな血が流れた。


(なんだこの幸せな感覚は?)



――あぁ、太陽だ。



そう、わたしは暗くジメジメした日陰から、明るく平和な日なたへと出たのだ。大通りに沿ってずらりと並ぶビルの合間から、わずかに差し込む天の恵みを享受したのだ。


今までは太陽など「朝になれば当たり前に現れるもの」と思いこんでいたが、そんな単純で安っぽいものではない。太陽とは、命を吹き込む強大なパワーの源である。



高くのぼりつつある朝の太陽を一身に浴び、なんとも神々しい気分になるわたし。これこそが生きているということだ。そうだ、わたしはいま生きている!



しかし時間とは無情で残酷なもの。ゆったりと日差しを堪能しようとするも、約束の時間が刻一刻と迫る。焦る気持ちはあれど、日陰へ入ればわたしの命が危ない。一体どうすれば――。


(日なたを選んで進めばいい)


どこからともなくお告げが聞こえた。確かにそのとおりだ。日陰がダメなら日なたを進めばいい。もし最短経路が日陰で、遠回りが日なただとしたら、迷わず遠回りの日なたを選べばいい。

たったそれだけのことじゃないか!



そしてわたしは日なたを選んで歩きだした。ビルの形によっては日なたが30センチほどしか確保できないが、つま先立ちになったり斜めによろけたりしながらも、着実に日なたをキープし続けた。


もはやわたしが進むべき道は一つ。お天道様が導いてくださる方向へと歩を進めれいいのだ。なんとありがたいことよ!




しばらくしてふと顔を上げると、見たことのない大通りにぶち当たった。


(どこだここ?)


見たことのない高速道路やラブホテル街が目に入る。これは間違いなく、目的地へ近づいていない。慌ててGoogleマップを開く。


(左行って、二本目を左、すぐ右、そして左の左…か)


どうやら目的地は通り過ぎているようなので、Googleマップの指示に従うしかない。ところが、渋々歩き出そうと前を見ると、なんとそこには大きな日陰があるじゃないか!


(だ、だめだ!ここは通れない。他を探さねば)


慌ててGoogleマップを見直す。戻るのではなく、もう少し先に行って右に曲がれば遠回りだが日なたを確保できそうだ。わたしは早速、そちらへ向かって歩き出す。



――本来の到着予定時刻は過ぎている。だがこればかりはどうしようもないのだ。



こうして目的地の近くまで移動したところ、この角を曲がれば建物が見える!という地点で、突如、日なたが消えた。道路の隅から隅まで日陰しか見当たらないのだ。


(ま、まずい!これ以上進めないじゃないか!)


ここまでの長い道のり、日なただけを求めて無茶苦茶なルートで歩いてきたというのに、あと少しでゴールにもかかわらず、この罠はいただけない。



(やむなし、ここを行くしかない)



わたしは決死の覚悟で、私有地であるマンション敷地内へと足を踏み入れた。そこならば日なたが確保できるのだ。すると運悪く、どこぞのガキが飛び出してきてぶつかりそうになる。その後を追いかけてきた母親と目が合い、不審者と思われたのか憎々しい表情でにらまれる。わたしも負けじとにらみ返す。



ブルブル



一触即発の瞬間、LINEが届く。


「予定時間過ぎてるんで、いそいで!」


あぁ、そうだった。信号渡ったらすぐなんで、もう少々お待ちくださいな。

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