Memory’s of MinotamaRiku

のたまり

第1話 運命

おかあさんから離れて何年だろう。

ふと考えたがもうそんなのどうでもいい。

ボク達は雌の九尾族を探さなければいけない。

この世界には多分ボク達雄の九尾族しか居ないはずだから。

人の姿に化ける。

九尾族なんだからこれくらいはおちゃのこさいさいだ。それにこの術?魔法かな?どっちでもいいんだけど、これがなければ多分ボク達はもうニンゲンに捕まっている。

メリケット合衆国では、ボク達九尾族に対して高額の報酬がつけられてる。ニンゲンのお金がどれくらいの価値があるのかは分からないけど、5おくえん?はかけられているんだって。

「おく」っていうのは1に0が8個付いてるかちなんだって。よく分からないけど。

「おいりく!聞いてんのか?」

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた…」

「ここもじきにバレちまう。早く新しい「スミカ」を探さねぇと。」

「……そうだね。」

ボク達雄九尾族は、何度も居場所を転々としている。ニンゲン達に位置がバレないように。

でも、ニンゲンの捜査力は思った以上にすごい。場所を変えても直ぐにバレかねない。

次は大陸のどこへスミカを移そうか。そんなことを考えながら身支度を整える。

ボク達雄九尾族はスミカを移動する時に必ずタイチョーを決める。

今日のタイチョーはボクだ。そうなるとボクがどこに行くかを決める。タイチョーケンゲンだ。

「じゃあ……南の方に行こう。暖かい方が気や草花が多いし、人目を避けられるかもしれない。」

「そうだな、オマエにしてはいい案じゃねーか。」

ハルトは偉そうに言う。タイチョーはボクなのに。

「いいかい?タイチョー君に逆らったらニンゲン送りだからね?」

スバルはメガネをクイッとしながら念を押す。

「チッ、わぁってるよ!」

ハルトは不機嫌そうに返事をする。

りくはそれを無視して木の枝を持った右手を掲げる。

「それじゃあ……点呼!!」

「こゃ!」

「こゃ!」

「こゃ!」

「こゃ!」

雄の九尾族は計5匹。全員いる。

「5人いるね。身支度は整えた?」

「カンペキだよ。抜かりがあったら俺がぶっ潰してるぜ!」

ハルトはドヤ顔する。

それを横目にアキラは独り言を言う。

「ハルトもやるよなぁ。アイツに叶うやつァいねぇな。」

スバルは呆れた様子で首を横に振る。

ユウマはりくの目を見たままぼーっとしている。

「南かぁ……美味いもんあるかな……」

「きっと沢山あるよ。ね?スバル。」

「南端の辺りに行くと、パイナップルやマンゴなどのトロピカルフルーツ、珍しい果物グアナバナ、そして質の高いイチゴやメキシコ特有のウチワサボテンの果実トゥナなんかがあるみたいだね。」

「……要するに美味しいものが沢山あるってことだね!」

スバルは九尾族の雄の中でイチバン頭がいい。彼の判断に間違いは絶対にないが、イマイチ何を言ってるのか理解ができないのが現実だ。その度にチリョク2番手のボクがカバーしている。

「そ、そなんだ。」

ユウマは困惑している。が、顔がちょっと嬉しそうだ。素直じゃないヤツめ!

「じゃ、ニンゲン達に見つからないうちに、新しいスミカを探しに行くぞ!!」

「「「「「おーーー!!!」」」」」

そうして、北アメリカ大陸の南側の、メキシコに向かった。

長い長い旅路だがクルマは持ってないし、買うお金もない。ハルトは「誰か1人ニンゲンに捕まってお金を貰う。そしてその金でクルマも家も買って4人で暮らせばいいじゃねぇか」とか言っているのを、スバルは「仲間を裏切り掴み取る勝利なんかより、仲間を守り掴み取る勝利の方が、よっぽど嬉しいものじゃないのかねぇ…」と答える。

「……やっぱ意味わかんね。」

「要するに、やめとけって意味だよ!」

またボクがカバーする。

「チィ…わぁったよ。」

また不機嫌そうだ。

歩いてゆくとどうしても街に出なくてはならないところが現れる。そういう時は子供に化けて歩きで行く。この国なら髪の毛が黄色やオレンジ、茶色でも何ら違和感はない。そういう国だからね。

カリフォルニアに出て、食べ物の店を眺めつつ歩いていると、後ろから声をかけられる。

「あんた達、どうしたんだい?子どもなのにそんな大荷物…」

話しかけてきたのは、大きなクルマに乗ったおじいさんだった。

「……どーするスバル、このままじゃあ

とっ捕まって終わりだぞ……」

焦るハルト。スバルも困惑している。

アキラは食べ物に夢中だし、ユウマはぼーっとしている。

ここはボクの出番だね!

「実はボク達、お父さんとお母さんを殺されちゃって、5人でさまよってるんだ…それで、行きたいところがあるんだけど……」

「そうだったのか…可哀想に。どれ、載せてってやるから、後ろに乗りなさいな。どこまで行きたいんだい?」

「ありがとうございます!メキシコってところの、南側チアパスってところの、たぱちゅら…?までお願いします。」

「随分遠いねぇ、どこから来たんだい。」

「ポートランドから、歩きです。」

「ポートランドからだと!!??

そんな遠いところから、歩きでかい…さぞかし疲れてるだろう?移動には時間がかかるから、宿に泊まろう。食事も出してやる。お代はワシが払うよ。」

「そんな、そこまでして頂かなくても、野宿で大丈夫ですよ…でも食べ物は……」

りくは遠慮するが、おじいさんは自慢げに答えた。

「いいんじゃよ。自慢じゃないけど、ワシゃぁ結構な金持ちなんでねぇ。だっはっは!」

あぁ、なんていい人なんだろう。ニンゲン達はみんな血眼になってボク達を捕まえようとしてくるのに、その中にこんな優しい人がいるなんて……

「あ、ありがとうございます!」

「礼には及ばんよ!困ってる子どもがいたら助けるのが、わしの生きがいなんでねぇ。ほら、詰めて詰めて。子供なら、4人くらい乗れるじゃろう。」

ぎゅうぎゅうに詰めるニンゲンに化けた九尾5匹。

そして全員乗ってドアを閉めると、おじいさんはシフトノブに手を乗っけ、左斜め上に動かした。

すると、クルマは走り出した。ハルトは興奮して飛び跳ねた。

「すげぇ!うごいたぞ!?

どうやってうごいてんだ!?」

スバルは得意げに語り出す

「まずエンジンに燃料が送り込まれて、その燃料と新鮮な空気を混ぜ合わせてシリンダーっていう燃焼室に送られて、スパークという器具でその空気に火をつけて爆発させるんだ、そうすると——」

スバルはクルマのことになると語り出す。正直黙ってて欲しい。

アキラは一緒になって飛び跳ねている。ユウマはぼーっとしながら外を見ている。

止まった。アカシンゴーだ。

さっきのでわかっていると思うが、ボク達はニンゲン語は理解できるし喋れる。ニンゲンの世界の簡単なルールとかは何となくわかっている。アカシンゴーは止まれだ。

すると、おじいさんはとても興味深いことを話し始めた。

「ずっと乗ってると退屈だろう。そうだ、ちょっと小話でもしよう。実は、わしは元々「獣人ベスティアメイト」を研究する研究員だったんじゃ。研究員って言うのは、人々がなぜ?どうして?って思うことを説明できるように調べたり、それを使って新しいベンリなものを作るために調べる人たちの事じゃ。それで、キミたちは知らないだろうが、5年前、獣人たちを対象にした大虐殺、大迫害があったんじゃよ。獣人の数は減ったし、中には絶滅した種族もいるんじゃ。そうじゃのぉ、1つ例をあげるとすれば……「九尾族」…だったかの。本当はワシらが守ってやる存在だったはずなのに…人間達はどこで道を踏み間違えたのかね…」

りくはふと、とある「感覚フィーリング」を覚えた。この人は、ボク達の正体を明かしても、捕まえようとしない。守ってくれるニンゲンだ、ということを。そして、その感覚を信じて勇気をだして喋りかけた。

「その……おじいさんは、その「九尾族」が、もしゼツメツしてなかったら、どうする?」

「?」

「もしも、もう一度守れるなら、守ってあげる?…いや、守ってくれますか?」

「どういうことだい?」

「その……」

後ろの4人の動きがピタッと止まる。何かを感じとったのだろうか。

「ボク達、実は……

きゅ、九尾族の生き残りなんです。」

「!!!」

おじいさんはびっくりして、ブレーキを思い切り踏んでいた。くらくしょんが後ろから聞こえる。

「おいりく!なんで言っちまうんだよ!死にてぇのか!?」

「血迷いましたか……」

「やっぱりくはりくだな。」

「……」

皆からの責めの言葉の嵐を無視して語り続ける。

「さっきは嘘をついてごめんなさい。でも、ボクは……ボク達は後継ぎを見つけるまで生き残らないといけないんです……どうか、許してくれませんか?」

おじいさんは、りくの真っ赤な眼を見つめている。すると、りくは自分の尻尾と耳を出す。九つ。九尾族だ。おじいさんは涙を堪えながら言った。

「今はやめておきなさい。ここは人目も多いし、皆に見られるぞ。」

りくはすぐさま尻尾と耳を引っ込めた。

「そうだったのか…キミたちは、まさか九尾族の、しかも雄だったとは。」

「……捕まえたり…しませんか?」

「しないよ。そしてワシもひとつ、謝りたいことがあるんだ。」

おじいさんはりくの耳元で、とある写真を見せながら話した。

写真に写っているのはボク……いや、ボクの見た目によく似た女の子だった。人前であるにもかかわらず、九つの尻尾と耳を出している。

「実は、ワシもひとつ嘘をついていた。

九尾族の生き残りは、キミたちだけではないんだよ。ほれ、この写真の女の子、九つの尻尾にキツネミミじゃろ。この子も九尾族なんだよ。」

りくは話を聞きながら、その女の子をじっと見ている。身長は、見た感じボクと同じくらいだろう。澄んだ赫色の眼、太眉で、髪の毛が長い。色はきつね色。ほとんどの特徴がボクと一致している。そしてじっと見ているうちに、その子に見惚れてしまった。どこに住んでるのかな?名前はなんて言うんだろう……そう考えていると、おじいさんが教えてくれた。

「この子はメキシコのさらに南の……「ヴィアナ共和国」という国に住んでおる。名前は確か……えっと………なんだったっけか……」

早く……早く教えて!この子の名前はなんて言うの!?ドキドキしながら答えを待つ。その時間は数秒だったかもしれないけど、りくにとっては何分にも…何十分にも長く感じられた。

「そうじゃ!「みのたま りえ」じゃ!みのたま りえって言うんじゃよ。」

「ヴィアナ共和国の…みのたまりえ……苗字がボクと同じだ!」

「どうじゃ?この子のことが気になるかい?なんなら、連れて行ってあげてもいいくらいじゃぞ?」

「ぜひ連れてってください!!お願いします!!!」

思わず大声で言ってしまった。耳を塞ぎながらハルトが罵る。

「うるせぇんだよ!急にでけぇ声出すな!!」

「あ…ごめんなさい。」

口を抑えながら謝る。

「やっぱりりく君は女みが強めですね。さすがは九尾族唯一の癒し枠、と言った所かな。」

褒めたつもりだっただろうが、りくは照れるどころか俯きニヤッとしながらながら答える。

「いや。癒し枠は僕だけじゃないみたいだよ?」

「??」

みんな首を傾げる。やっぱ意味がわからないか!

「それじゃあ、ヴィアナ共和国へ向けて出発じゃ!」

「おー!!!」

「「「お…おー……」」」

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