第453話 シルヴェスターの探り

「まぁ、これは最悪の事態を想定したまで。殿下がネトルホールズ女男爵との結婚を認めない陛下に対して逆上して、陛下を弑逆や監禁などした場合にのみ実行します。多少の事では実行しませんので、ご安心ください」


 アイザックがフフフッと笑う。


「そういう事ならば……。不必要に驚かせるなど、エンフィールド公もお人が悪い」


 ウィルメンテ侯爵が、アイザックに合わせて笑う。

 その表情には安堵の色が多々混じっていた。


「あくまでも非常時に備えてですからね。ですが意思の統一は必要です。もしも、私が言ったような事態になった場合、皆さんの協力を約束していただきたい」


 またしてもウィルメンテ侯爵の顔が強張った。

 さすがに「ジェイソンを討つ」などという事は軽く約束できない。

 周囲の様子を窺う。


「約束致しましょう。いいな?」

「異存はありません」


 まずはウィンザー侯爵が賛意を示し、セオドアに確認する。


「当家も約束しよう。なんなら、裏切らない証明として娘を差し出しても――」

「今はそういう事を言っている場合じゃないでしょ!」


 さりげなくアマンダを嫁に出そうとするウォリック侯爵だったが、売り込もうとしたアマンダ自身に止められてしまう。

 

「非常時にうろたえないよう、心構えをしておくのは重要だ。わかるな」

「はい……、わかっています」


 モーガンの言葉に、ランドルフは渋々ながらも大人しくうなずいた。

 きっと、これが現実になるのだと諦めながら。


「私も異存はございません」


 ウィルメンテ侯爵も、この条件ならば文句はない。

 素直に受け入れた。


 この反応を見て、ウィンザー侯爵は「やはり様子を見ていたか」と思った。

 ウィルメンテ侯爵は慎重な男だ。

 アイザックに説得されていたとはいえ、事が事だけに他の面子の行動を見てから皆の前で意思表示をしたかったのだろう。

 王党派筆頭という立場上、即答を避けねばならないので、その対応もやむを得ないと受け止めていた。


「それならば、全員一致で決定ですね」


 アイザックは「裏切るな」と釘を刺したりはしなかった。

 すべて言わずとも誰もがわかっていた。


 ――裏切れば手段を選ばず報復されると。


 事が事だけに、裏切った場合の報復は苛烈なものになるだろう。

 それはアイザックだけではない。

 他の家からも徹底的な報復がなされるという事だ。

 例えジェイソンの側に付いた者が勝利しても、二度と安眠の日は訪れない。

 常に暗殺や部下の裏切りを気にしなくてはならなくなる。


 もっとも、決起する場合の状況が状況なので、まず裏切りはしないだろう。

 ジェイソンの側に付けば、その時点で逆賊なのだから。


 これでひとまずは、アイザックを旗印として反乱を起こす約束はできた。

 あとは実行する時まで本当の約束をウィンザー侯爵に黙っておいてもらえれば、万事丸く収まる。


「しかし、このような話をしなくてはならんとはな。孫にリード王家中興の祖、ロイ陛下の御名をいただいたというのに……」


 話が一段落すると、ウィンザー侯爵は少し疲れたように独り言を言う。

 ジェイソンとパメラの婚約により、エリアスはウィンザー侯爵家を味方に取り込もうと数々の配慮をしていた。

 ロイの名前も、その一つだった。

 ジェイソンの行いには殺意すら覚えるし、エリアスにも不満はある。

 だが、王家への恩を完全には忘れ去っていない。

 それだけに、ウィンザー侯爵も思うところがあった。


「受けた恩の分は働きで返してきたはず。むしろ、これまでの働きに対する報償のようなもの。気にする必要はないはずです」


 ウォリック侯爵が、ウィンザー侯爵の言葉に反応した。

 彼の言葉には、王家に酷い仕打ちを受けた先達としての説得力がある。

 とはいえ、そう簡単に頭を切り替える事はできなかった。

 しかし、ウォリック侯爵の気持ちには応えねばならなかった。


「そうだな、そう考える事にしよう。こういう時、どう乗り切ればいいのかなども教えてもらいたいな」

「それは簡単です。明日に希望を持てる事を見つければいいだけですよ」


 ウォリック侯爵がニヤリと笑う。


「例えば、娘を大事にしてくれそうな前途有望な若者と婚約させようとするなど、わかりやすい目標を持てば辛い時を乗り切れるでしょう」

「それは……、なかなか難しい問題ですな」


 例え冗談でも、ウィンザー侯爵は「それはもう達成した」などとは言えなかった。

 ウォリック侯爵が望んでやまないものを、あっさりと手にいれたからだ。

 アイザックとパメラが結婚したのは、アイザックが望んでいたからに過ぎない。

 しかも元凶は、アイザックである。

 素直に「いい相手と結婚できた」などと喜べるものではなかった。


 しかし、アイザックにそそのかされたとはいえ、ジェイソンがパメラではなく、ニコルを選ぶような男だったのは事実。

 その点に関しては、結婚前に判明してよかったとは思えるものだった。


「王家への対応の話が一段落したところで、こちらも重要な話を切り出したいのだが……。今日はやめておこう」


 ――ウォリック侯爵が珍しく「アマンダと結婚してくれ」と言わず、大人しく引き下がった。


 これにはアイザックだけではなく、他の者達も驚いた。

 誰もが「頭でも打ったか?」と聞きたいところだったが、辛うじて我慢する。


「エンフィールド公、ご結婚おめでとうございます」

「……ありがとうございます」


(えっ、なに? いったい、どんな罠が仕掛けられているんだ?)


 ウォリック侯爵の豹変ぶりに、アイザックは恐れをなす。

 先ほどまでの態度とは打って変わって、普通の貴族っぽくなってしまったからだ。


「本日は結婚なさったという事もあり、アマンダと結婚してほしいとは申しません」


(散々アピールしていた気がするけど……)


 これはアイザックだけではなく、他の者達も似たよう似たような事を考えていた。

「今更!?」といった印象が強い。


「エンフィールド公が、その気になるまで待たせていただきます。それまでアマンダは誰とも結婚させません。絶対に!」

「えっ」

「えっ」


 アイザックとアマンダの驚きの声が被る。

 アイザックは「そこまで言うか」という驚きであり、アマンダは「さすがにそれは嫌だな」と思った驚きだった。

 ウォリック侯爵は攻め方を変えたらしい。

 なかなかいやらしいところを突いてきた。


「いや、あの……。アマンダさんには誰か違う人を探してあげてください」

「探しません。侯爵家に婿入りできるふさわしい者が、今誰か残っているでしょうか? いいえ、残っていません。フレッドとの復縁はもとより、ブランダー伯爵家やアダムズ伯爵家の息子も論外。子爵家などで文武を問わず探しても、特に秀でたところがある若者もいない。ならば、エンフィールド公の心変わりを黙って待つしかありません」

「それでは後継者問題などが発生すると思うのですが……」

「その場合は親族から男児を養子に取る事も考えましょう。アマンダはエンフィールド公の妻となるか、一生を一人で寂しく過ごすかのどちらかとなるでしょう。他の誰とも結婚を認める気はありません」


 これは「アマンダを可哀想だと思うのなら妻にしろ」という捨て身の脅迫である。

 ウォリック侯爵は、今までのやり方がダメだったと、ようやく察して変化を加えてきた。

 

 ――パメラを救うために結婚したのなら、アマンダを助けるために結婚してくれるはず。


 アイザックは、ジュードのように根っこが腐っているわけではない。

 ならば、政略結婚の色を消して「ずっと寂しい思いをする哀れな女の子」という方向で売り込めばいい。

 きっと「愚かな親から助け出さないといけない」と思ってくれるだろう。

 あとは行動してくれるのを待つだけだ。


「かはっ」


 ――しかし、行動に出たのはアマンダだった。


 彼女は隣に座る父の顎に掌底打ちを食らわせて脳を揺らし、その意識を刈り取った。

 ウォリック侯爵は机の上に勢いよく倒れ込む。


「どうか父の今の発言はお忘れください。今日は衝撃的な事件が起き、非常に重要な話をする事になったので、冷静さを欠いてしまったのだと思います。絶対に実行させたりは致しません。次期当主、アマンダ・ウォリックとしてお約束します」


 アマンダとしても、今の発言は絶対に認められない事だった。

 アイザックと結婚したいとは思っている。

 しかし、ロレッタの登場により「ダメならダメでもいい。他の誰かと結婚しよう」という思いもあった。

「一生独身を貫かせる」という言葉は、正式なものとして周知されては困るものである。

 そのため、即座に行動して否定したのだった。


「……家庭内で意思の統一ができていないというのなら、時間を置いてもよいかもしれぬな」


 アマンダの鮮やかな手並みに引きながらも、モーガンは彼女の意見に同意した。


「ま、まぁウォリック侯も冷静さを欠いていたようであるし……」

「今日中に解決しなくてはならない問題でもないからな」

「ありがとうございます!」


 ウィンザー侯爵とウィルメンテ侯爵も賛同したため、ウォリック侯爵の発言は聞き流される事となった。

 アイザックとしても嬉しい流れである。


「ありがとう、アマンダさん」

「いいんです。エンフィールド公に対して遠回しに強要するような発言をした父が悪いのですから」


 アマンダは自嘲染みた笑みを浮かべる。

 そして、友人としてアイザックに語りかけた。


「ボクがこの会合でまともに発言できたのは父を止める時だけ。4Wの重圧に耐えて発言する事の難しさがよくわかったよ。こういう話し合いの場に顔を出す事は覚悟していたのにね。アイザックくんのように頼もしい人が隣にいてくれたら、どれだけ心強いんだろうなってどうしても考えちゃうよ」


 彼女の自嘲は、侯爵家の当主が集まる場所で気圧されてしまった事。

「一人でも大丈夫だ」と思ってはいたものの、いざとなれば誰かに頼りたくなってしまう弱さ。

 その両方に向けられたものだった。

 表向きは、横からアイザックをかっさらう形になってしまったパメラが気まずそうにする。


「僕も最初はダメだったよ。だけど意外と慣れるものだよ。あとは場数をこなすだけだね」


 アイザックも友人として返答をする。

 だが「隣にいてくれたら」という部分には、あえて触れずにいた。

 そこに触れてしまえば、また話を蒸し返す事になってしまうからだ。

 とりあえず、今すべき事として、アイザックはハンカチをアマンダに差し出す。


「ありがとう」


 アイザックがパメラと結婚してしまった以上、これまでのように「結婚してほしい」と言えなくなってしまった。

 その事をわかってはいるものの、やはり辛いものは辛い。

 アマンダは、おそらく最後になるであろうアイザックの優しさに、声を噛み殺して涙を流し始めた。


 ――だが、アイザックがハンカチを渡した意図は違ったものだった。


(親父さんの止血をしてほしかったんだけど……)


 ウォリック侯爵が突っ伏しているテーブルクロスが赤く染まっている。

 倒れた時に鼻を強く打ち、鼻血が出ているのだろうと思われる。

 これは他の皆も気付いていた。

 中でもウィンザー侯爵とセオドアは頭を抱えそうになるほど困っていた。


 ――会合は紛糾し、流血沙汰にまで至った。


 テーブルクロスを片づける使用人に、そう思われるだろうからだ。

「屋敷に呼ぶのではなく、違うところで集まればよかった」と後悔する。


「……ウォリック侯がその有様ではこれ以上の話はできんな。今日のところは、今後について意思の統一ができた事でよしとしよう」

「えっ、あっ。ごめんなさい……」


 ウィンザー侯爵が解散しようという雰囲気を出すと、アマンダは自分のした事の重さを知って謝った。


「かまわん、今のはウォリック侯が悪い。身内の者が止めるべき時に止めた。それだけだ。それよりもいいのか? 鼻血が止まらぬようだが」

「あぁっ! ごめん、お父さん! あぁっ!?」


 指摘されて、アマンダはようやく父が血を流している事に気付いた。

 顔を上げて血を拭こうとするが、アイザックのハンカチで拭いてしまった事で、さらなるショックを受ける。

 彼女のドタバタとする姿が、緊張続きの会合の最後に柔らかい雰囲気をもたらした。



 ----------



 会合は解散となり、アイザック達が屋敷に戻る。


「あー、緊張した」

「あの会合が終わって、緊張したの一言で済ませられるお前は凄いよ」


 アイザックの言葉にランドルフが呆れた。

 王家を抜けば国家のトップが勢揃いした会合である。

 しかも、話す内容が内容だ。

「場合によってはジェイソンを討つ」とまで言った本人が、軽く緊張しただけで終わったのが信じられなかった。


「次はお前がウェルロッド侯爵家の当主なのだ。アマンダに負けぬよう、お前も慣れねばならんぞ」

「はい」


 モーガンの言葉に、ランドルフはうなずく。

 ウォリック侯爵はアイザック相手にも物怖じせずに物申す事ができる。

 ウィルメンテ侯爵も駆け引きに長けており、状況に応じて対応している。

 年齢の近い二人は、当主として頑張っている。

 彼らに負けないように意識しておかねばならないという事はわかっていた。


 馬車から降りる時に軽い話をしていたが、降りてから出迎えの顔色が悪い事に気付いた。


「お帰りなさいませ。シルヴェスター殿下が訪ねてきておられます」

「殿下が? ならばなぜお前がいる? いや、そもそもなぜ断らん」


 王族が訪ねてきているのならば、マーガレットが応対していてもおかしくない。

 だが、その彼女自身が出迎えにきている。

 そもそも、今日は他国の王族と話をする余裕などないので断っておくべきだ。

 様々な疑問が頭に浮かぶ。


「ダッジ殿に会いにきた、という口実を使われましたので」

「なるほどな……」


 ウェルロッド侯爵家の客人ではなく、ダッジの客人であるならば、マーガレットが同席する必要はない。

 しかし、本来の目的は違うだろうという事は容易に予想できた。


「ダッジ殿の客人であっても、当家に足を運んでいただいているのなら一言挨拶はしておかねばならんな」


 ウェルロッド侯爵家の屋敷を訪れている以上、アイザック達は挨拶に出向かねばならない。

 たとえそれがシルヴェスターの狙いであっても。

 アイザック達にとっては嫌なタイミングではあるが、ロックウェル王国としては最高のタイミングだろう。

 どのような話を持ち出してくるのか不安を覚えながら、彼らのいる場所まで向かっていった。




「リード王国はこれから大変な事になりそうだな」


 挨拶が終わると、シルヴェスターはにこやかにそう言った。


「いえいえ、この程度の問題は乗り越えられますとも」


 モーガンは平静を装って答えたが、内心では冷や汗をかいていた。

 ここでロックウェル王国が参戦となれば、王家をどうにかするどころではない。

 不用意な発言が、大惨事を引き起こす事になりかねない。


「そうだろう、そうだろう。リード王国には素晴らしい家臣団が揃っているようだからな。国内・・の問題くらいはどうにかするだろうな」


 シルヴェスターは言外に「国外の問題も発生したらどうかな?」と含ませる。


「そういえば、先の戦争でリード王国との交易で安く鉱物を売るという停戦の条件があったな。あれを撤廃していただけると助かるのだがどうだろう?」


 そして、彼は過大な要求をしてきた。

 これも言外に「安く売るという条約を撤廃してくれれば、ロックウェル王国は今回動かないと約束しよう」という交換条件が含まれていた。


 これは悩むところだった。

 ロックウェル王国からの輸入は確かに安く上がるが、そこまで安いというわけでもない。

 距離があるため、運搬の手間や人足の給与で旨みが少ないからだ。

 それだけでロックウェル王国が動かないでくれるのなら、その方が十分な利益となる。


「その必要はありません」


 モーガンが悩むところで、アイザックはきっぱりと断った。


「もしもこの状況で軍を動かしたいというのであれば、動かしてくださって結構です。受けて立ちましょう」


 それどころか、受けて立つとまで言い切った。

 モーガンとランドルフは焦るが、シルヴェスターはクックックッと含み笑いをしていた。


「エンフィールド公、それは早合点というものだ。我らに一戦を交える気はない。ダッジの言う通り、静観させていただこう」

「ダッジ先生の?」


 彼はアイザックの家庭教師である。

 露骨なまでにロックウェル王国に肩入れされては、アイザックの面子が丸潰れだ。

 彼に咎めるような視線を向ける。


「現在のロックウェル王国軍は指揮官を多く失っています。解雇した兵を呼び集めるのは容易でしょうが、新しく編成した部隊が軍として戦えるかは疑問です。それにこの時期に兵を動かしたロックウェル王国に対し、リード王国は一丸となって戦おうとしてくるでしょう。それではリード王国の意思を統一させてしまう。エンフィールド公がリード王国の事に専念している間に、ロックウェル王国は大人しく改革を進めた方がいいと、一般論を説いただけですよ」


 ――あくまでも一般論である。


 この一般論というのは便利なものだ。

「ロックウェル王国に肩入れしたわけではない」という言い訳に使われている。

 だが「わざわざ蜂の巣をつつくよりも、大人しくしておいた方がいい」というのは一般論でもある。 

 ダッジを非難するほどのものではなかった。


 ――いや、アイザックとしては褒めたいくらいだった。


(大人しくするよう説得してくれていたのか。いいぞ、いいぞ)


 弱みを見せてはいけないと思って、シルヴェスターの条件を突っぱねた。

 しかし、やはりロックウェル王国に動かれると厄介な事になる。

 ダッジが「やめておけ」と言っておいてくれたのはありがたい事だった。


「殿下、先ほどの失言申し訳ございませんでした」

「かまわぬ、エンフィールド公には借りがあるからな。紛らわしい言い方をしたこちらにも非がある。気にするな」


 シルヴェスターは平然と返したが、彼も内心肝を冷やしていた。


(もしも、ダッジと相談していなければ……)


 ダッジは改革に不満があって辞任したとはいえ、喧嘩別れをしたわけではない。

 国への恩をまだ感じている彼に助言を求めておいて正解だった。

 もし、これ幸いにと軍を動かしていれば、リード王国は外敵に集中するために混乱が収まり、徹底的にロックウェル王国は叩きのめされていただろう。

 アイザックがリード王国の混乱を収めるために、ロックウェル王国にちょっかいを出す余裕がなくなった事だけでも喜ぶべきだ。

 嬉々として本国に「軍の再編成を急げ」と知らせを送らなくて正解だった。


「両国の友好関係が末永く続く事を願っている。ただし、今回の一件は陛下に知らせぬわけにはいかない。その事はわかってほしい」

「ええ、それは仕方ないでしょう」


 シルヴェスターは外務大臣であるモーガンに語り掛け、モーガンも「やむを得ない」といった表情で答える。

 ジェイソンのしでかした事を広まらないようにするのは不可能だ。

 他国の王族や貴族相手に、脅迫や買収で黙らせるのは限度がある。

 そうなる事を望んでいる、望んでいないに関わらず、ジェイソンの愚行が広まるのは止められなかった。


 シルヴェスターとしても「リード王国の王太子は危険だ」という話は報告しなくてはならない。

 今後のロックウェル王国にも大きな影響を与えるからだ。


 特に恐ろしいのが――


 ジェイソンの馬鹿げた行動に、アイザックが真剣に付き合う。


 ――という事だった。


 そうなると、周辺国がどんな被害を受けるかわからない。

 仮想敵国として見られているロックウェル王国が、その被害を一番受ける可能性が高い。

 対処は考えておかねばならないので、どうしてもジェイソンについての話題を避ける事ができなかった。


「しかし、陛下の時は国内の貴族から支持を集めていたが……。今回はそのように見えなかった。国内の混乱をどう収めるのかを見させていただこう」


 シルヴェスターは他人事のように語る。

 事実、他人事だから当然だろう。

 しかし、それは彼だけではなかった。

 周辺諸国の使節団も、これからのリード王国の動きを注視している事を意味する。

 アイザック達も、一挙手一投足を注目されている事を意識し、上手く対応していかねばならなかった。

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