第386話 お見合いの結末は

「我が家にかけられた呪いというのは、見返りなしに行動すると、見境なしに暴れてしまうというものです。些細な事でも報酬を求めねばならない。そんな非常に厄介なものでした」


 思い出すだけでも辛い過去だったが、マットは静かに語り出す。


「原因は種族間戦争でエルフを殺した事です。祖先がエルフを殺す時に呪いをかけられてしまいました。それは殺した本人だけではなく、子孫にも受け継がれていくというものです。呪いをかけられた私の祖先は、モーズリー男爵家から離れ、傭兵として生きるようになりました。理由は至って簡単。何事にも報酬を求める生き方をしても問題ないからです。以来二百年間、代々傭兵稼業を生業とするようになったのでした」

「……それは、子供全員にかかるものなのですか?」


 ジャネットがマットに疑問を尋ねる。

 もし彼と結婚すると決まれば、子供に関する事は聞いておかねばならなかったからだ。

 マットは過去を思い出すのに目を閉じた。


「子供全員にはかかりません。ただ、不幸には見舞われます」

「というと?」

「基本的に当主が呪われます。子供は呪われた親が死ぬまでは普通の暮らしを過ごせるが……。父は傭兵だった。となると――」

「ある日突然戦死する……、という事ですか?」

「その通り」


 マットが深い溜息を吐く。


「私が呪われたのは十四歳。戦場に出ていた父が死んだのでしょう。夕食後、母に頼まれて食器を片付けようとしていた私は……、気が付けば母と弟を殺していた」

「っ!?」


 話を聞いていた者達が息を呑む。

 食器の片付け程度で怒り、身内の人間を殺してしまうなど恐ろしい事だ。

 これ以上ないほどわかりやすいくらいに強い呪いだった。


「幸いな事に手配はされませんでした。定住せず、戦場を求めて移動し続ける傭兵の家族の死など、衛兵は気に留めません。傭兵同士の揉め事に巻き込まれて死んだとしか思われませんでした」


 傭兵は戦場では重宝されるが、戦争が終われば厄介者だ。

 いつ強盗などの犯罪を犯すかわからない目障りなよそ者でしかない。

 自国民の被害ではないので、仕事を増やすのが嫌で、まともに調べられなかったのだろう。

 それが幸運だったのかはわからない。


「家族を弔ったあと、私は自殺も考えました。ですが……、死ねなかった。自分で死ぬのが怖かったのです。その後傭兵となり、戦場で死に場所を求めました。誰よりも真っ先に敵陣に切り込み、誰よりも最後に戦場を後にする。それでも死ねませんでした。死ねない事こそが、本当の呪いなのではないかと思ったほどです」


(それは原作ゲームで登場するために生き残るように設定されていたからだろう。……これもある意味呪いだな)


 アイザックは、そう思った。


 ――戦場で生き残れたのは、サブ攻略キャラクターとして登場するため。

 ――ニコルに会って、呪いを解かれて心を奪われるため。


 これはマットが望んだ事ではない。 

 そのためだけに生かされていたのだから、まさに呪いのようなものだ。


「傭兵になって十年ほど経ちました。私が致命傷を負った仲間の傭兵に止めを刺そうとした時に、彼が呟いたのです。『死ぬ前にもう一度故郷を見たかった』と。その時、私は『故郷・・とは、そんなに良いものなのか?』と思いました。私は住居を転々としていたので、故郷と呼べる場所がなかったからです。そこで、休暇がてらに自分のルーツを調べてみようと考え、リード王国へ向かう事にしました」


 ここでマットは目を開き、ウェリントン子爵を見る。


「王都に滞在していた時、多くの方々から仕官の誘いがありました。ですが、仕官を求めてリード王国に来たわけではありません。申し訳ないと思いましたが、お話はすべて断らせていただきました」

「ウォリック侯やウィルメンテ侯の誘いまで断られていたのだ。私の誘いが断わられても含むところはない」


 マットは、ウェリントン子爵の誘いも断っていた。

 その事は先ほどフォスベリー子爵が言っていたので、今更な話題だった。

 当人同士以外は、特に感じるものはない。


「仕官の誘いが落ち着いた頃、エンフィールド公から呼び出しがありました」


 その分、アイザックの話題になると皆の興味が強まる。

 アマンダなど、大きく身を乗り出しそうになっていたくらいだった。


「ウェルロッド侯からの仕官の誘いならわかります。後継者としてサンダース子爵からの誘いでもわかります。しかし、まだ子供のエンフィールド公が私を仕官させようとする理由がわかりませんでした。ですが、会った時の行動を見て、すぐにわかりました。このお方は、呪いの事を知っている上で、私に会ったのだと。『多角的視点によって検討し、起こり得る事象の想定。仮定に仮定を重ねて考えた結果、お前が呪われているとわかった』というお言葉は今でもはっきりと覚えています」

「ほう」


 ――アイザックは会った事もない相手の事。

 ――それも、呪い・・という目には見えないものを見抜いていた。


 見抜く力が優れているというレベルではない。

 理論を超えた、超常的なものによる発想と言ってもいいレベルだ。

 この場に居合わせた者達にとって、改めてアイザックの異常さを思い知らされる出来事だった。

 アイザックだけが、答えを知っていた後ろめたさから動揺していた。


「その時、クロード様とブリジット様のお二人も同席されていました。エンフィールド公が私の呪いを解く事ができないかと考え、あらかじめ呼んでいてくださったのです。会ってもいない私の呪いを解くためにです。どこまで先を見据え、どこまで人のために動けるお方なのか……。器の大きさが計り知れません」

「それだけ家臣にしたかったという事ではありませんか?」


 アンが素朴な疑問を投げかける。

 それに対して、マットは自嘲めいた笑みを浮かべる。


「いいえ、エンフィールド公は自分の下で働けとは仰いませんでした。本当なら、あの時私から申し出るべきでした。しかし、私は呪いから解放されたという思いから、今までできなかった事をしようとしたのです。それが孤児院でした。エンフィールド公は『困った時に手助けしてくれればいい』と仰るのみ。助けた見返りとして、働けなどとは言われませんでした」


 マットがアンの考えを否定すると、彼女は焦った。

 すぐさまアイザックに謝罪する。


「なんて事を……。申し訳ございません。けっしてエンフィールド公が欲深いと思ったわけではありません」

「悪気はなかった発言だとわかっています。普通ならば、マットを家臣にしようと考えるはずです。特に戦争が近いと感じていたのなら、なおさらに」

「えぇ。私なら、きっと仕官してほしいと言っていたでしょう。平和な時代が続いていたので、経験豊富な傭兵は絶対にほしかったはずです」


 マットが王都を訪れたのは四年前。

 その翌年には、ロックウェル王国との戦争があった。

 しかも、アイザックは戦争を予測していたのだ。

 普通ならば、マットのような経験豊富な兵士は一人でも多く欲しいはず。

 だが、アイザックは欲しがっていなかった。

 その事はアンのみならず、皆に共通する疑問だった。


(人を殺してきた償いができますとか喜んでる奴に『これからは俺のために殺せ』とか言えるわけねぇし。それができるんだったら、とっくの昔にアマンダと婚約して踏み台にするくらいしてるって)


 その疑問の答えは、至ってシンプルなものだった。


 ――アイザックが非情になりきれなかっただけである。


 だが、そんな事を知らない者達は、アイザックが違う考えをしていたのだと感じていた。


「ならば、どうして家臣にしなかったんですか?」


 アマンダが皆の気持ちを代弁する。


「人を傷つけた事を後悔し、これからは人を傷つけずに生きたいと思っている人の邪魔なんてできませんよ。僕だって後悔する事はたくさんありましたしね」


 アイザックは本当の事を言えない寂しさを感じながら、微かな笑みを浮かべて答える。

 その憂いを帯びた笑みが、アマンダの胸をドキリと高鳴らせた。


「僕の事は、どうでもいいでしょう。今はマットの事です。さぁ、続きを」


 ジッと自分を見つめるアマンダの目に気付き、アイザックは居心地が悪くなった。

 すぐさま話を戻して、皆の視線をマットに向けようとする。

 マットも感極まった顔をしていたが、アイザックに言われたので、気を取り直して話を続けようとする。


「そのあとの事はご存知の通りです。孤児院を作ろうとして法に阻まれ、金を預けていた商人に全財産を持ち逃げされました。そんな私を拾ってくださったのがエンフィールド公なのです。人生をやり直すチャンスを二度も与えてくださいました。これが人生を共に歩む相手であっても、エンフィールド公より優先する事はできない理由です」


 マットは堂々と言い切った。

 今まで大人しく話を聞いていたウェリントン子爵が体を震わせている。


(俺は呪われているって知っていたから、エルフの魔法でなんとかならないか試してみただけ。だけど、マットにしてみれば、人生を一変させた重大事件だった。恩を感じていている事はわかっていた。……でも、ここまで強いものだったとはな)


 ジャネットは、ダミアンに捨てられたばかり。

 娘を大事にする気はあるものの、他に優先するべきものがあるという男に預けたりはしないだろう。

 アイザックは失敗を悟った。


「いいではないか」

「えっ?」


 ウェリントン子爵は、今までずっと口元を覆っていた手を外す。

 彼は笑みを浮かべていた。


「それだけの恩義を受けていれば、エンフィールド公に尽くすのも当然だ。親の贔屓目もあるが、ジャネットは美しく育った。アマンダ様の幼馴染という付加価値もある。だが、そんなものに目もくれず、ただひたすらに忠義を貫く男。武人たる者はこうでなくてはいかん。むしろ、こういう一本芯が通った男だからこそ、ジャネットを安心して任せられるというものだ。ロバート、いい男を連れてきたな」

「そうだろう? カービー男爵と話した時、お前なら気に入ると思ったんだ」


 ウェリントン子爵が満足した表情を見せて、フォスベリー子爵に話しかける。

 フォスベリー子爵は、友人の反応が良好だった事に安堵し、やり遂げたような表情をしていた。

 そしてアイザックは、目の前で起きている事に理解が追い付かず「なんでそうなるの?」と、お茶を飲みながら必死に考えていた。


(お前、マジか! ……あぁそういえば、フォスベリー子爵と意気投合して友達になったんだっけ? 良いか悪いかはともかくとして、ブレない男を気に入るのかもしれないな。……大丈夫か? マットは結構ブレるぞ)


 今のマットは、ウェリントン子爵の好みにど真ん中のタイプだったらしい。

 しかし、呪いが解けたあとから孤児院の一件を解決するまでの間、マットの生き方は大きくブレていた。

 アイザックもドン引きするくらいに。

 あれが本来のマットの姿なら、いつかボロを出すかもしれない。


(……俺だって人の事は言えない。いつボロを出すのかわからないんだ。そこまで心配していられない。夫婦でなんとかしてもらうしかないな)


 だが、アイザックはすぐに心配する事をやめた。

 これに関しては人の事を心配などしていられない。

 立場も相まって、自分の方がよっぽど危険な状態だ。

 それに、見合いの付添人は悪い事を言うものではない。

 今は話が上手く進む事を願って、黙っておく事にした。


「ジャネット、こういう男は頼りになるぞ。少なくとも、婚約すればお前一筋になるだろう。ロバートもそうだった。他の女に目もくれなくなる。カービー男爵のような男は、そうそういない」


 ウェリントン子爵は、ジャネットにマットを強く推す。

 しかし、ジャネットの表情は優れなかった。


「そうですね。でも……」


 彼女なりに思うところがあるのだろう。

 ウェリントン子爵とは違い、一発で気に入るとはいかなかったようだ。

 マットとの婚約を渋る姿を見せる。


(無理強いはよくない。けど、ジャネットならマットの私生活を支えてくれそうだし、応援したいところだな)


 アイザックが動こうとする。

 だが、彼が動くよりも先にマットが動いた。


「ジャネットさん、私との婚約を嫌がる気持ちはわかります。実は、私も貴族の娘と結婚したくはないと思っていたのです」

「ちょっと待って!」


 マットの爆弾発言を、アイザックが止めようとする。

 せっかくいい雰囲気だったのに、最後の最後でぶち壊そうとしたからだ。

 しかし、マットは「言わせてください」と言い、やめる気はないという意思を見せる。


「パーティー会場で見かけましたが、貴族の女は美しくあればいいという方々ばかりでした。もちろん、私も男である以上は美しい女性は嫌いではありません。ですが、私が平民だったせいもあるでしょうが、家に帰ったら使用人ではなく、妻となる女性の手料理を食べたいと思っています。美しさを磨き、友人とのお喋りに興じるだけの妻は欲しくありません。お互いに支え合う事のできる夫婦関係でいたいのです」


 彼は自分の気持ちを伝え始めた。

 その内容は悪いものではないので、アイザックももう止めようとはしなかった。


「あなたから見れば、私はオジサンですしね。嫌がる気持ちはわかります。ですが、私は今前向きにあなたとの婚約を考えています。若くて美しい娘だからや、ウォリック侯爵家やウェリントン子爵家と関係を持ちたいからというわけではありません。ジャネットさん、あなただからなのですよ」

「どういう事でしょうか」


 ジャネットが目を見開いて驚く。

 彼女はマットとの接点がないので、そこまで興味を持たれる理由がわからなかった。

 だが、本当はあったのだ。

 大きな接点が。


「二年ほど前の事です。エンフィールド公が街中を歩いていた時、ジャネットさんと会って話していましたよね?」

「ええ、そんな事もあったかと思います」

「私も護衛として居合わせました。盗み聞きというわけではありませんが、話の内容は聞こえていました。あの時思ったのです。あぁ、貴族にもこんなに魅力的な娘がいるんだなと」

「あの時の会話でですか!?」


 ジャネットが突然の告白に目を白黒させる。

 アイザックと話した内容は艶っぽい話ではなく、野暮ったい話だったからだ。


「そうです。未来の夫のために努力している姿は、とても魅力的でした。平民の娘ならば当たり前の事です。でも、すでに爵位を得ていた私が平民の娘と結婚する事は許されない。少なくとも正妻にはできません。貴族の娘の中から選ぶしかなくなりました」

「私のような者は多いですよ。むしろ、ほとんどの女子生徒が家事全般ができるようにしています」

「そうなのかもしれません。しかしながら、私が紹介される女性には、家事のできる人がいませんでした」

「……そういうお立場になられたという事の証明でしょう」


 マットが紹介される相手の事を聞いて、ジャネットはそう答えた。

 アイザックの側近で、本人も大手柄を立てた英雄の一人である。

 自分の手で家事をやる可能性を考えなくてもいい相手を紹介されて当たり前だ。

 マットは男爵と言えども、その辺りにいる子爵以上の立場だった。

 アイザックが金払いがいいという噂も聞くので、紹介する者に使用人を使った生活を前提として考えられていてもおかしくなかった。


「だからこそ、この機会を逃したくないと思っています。こうして見合いをする事になったのも何かの縁。是非とも、私と結婚を前提にしたお付き合いをしていただきたい」


 マットの告白に、ジャネットは頬を赤らめてうつむいた。

 ダミアンという婚約者がいたので、こうして異性に告白されるのは初めてだった。

 どうしていいかわからず、反応に困る。

 助けを求めて、両親やアマンダを見る。


「こんなにいい男はいない。お前が答えないなら、私が答えるぞ」

「こういう時の返事は、自分で言った方がいいわよ」


 ウェリントン子爵夫妻は、ジャネットの背中を押す。


「良い人そうだけど……。孤児院の一件を考えると、ジャネットを預けるのは不安かな。あぁ、でもジャネットが私生活で支えればいいだけかも」


 アマンダは悩んでいた。

 ジャネットの事を考えれば、安心できる相手だと確信してから応援したい。

 だが、この機会を逃すのはもったいない。

 すぐに答えを出すのは難しかった。


「お嬢様」


 ウォリック侯爵の秘書官が声をあげた。

 提案があるというのだろう。


「なに?」


 アマンダが発言の許可を出す。

 なんでもいいので、判断できるようになる意見があるのなら、聞いておきたかった。


「カービー男爵との正式な婚約は、一学期が終了するまでは保留。その間に、交流を深めるというのはいかがでしょうか? このような状況になった事情が事情ですので、ジャネット様に落ち着いて考える時間を与えるのもよろしいかと思われます」


 どうやら彼は安全策を取るべきだと言いたいらしい。

 卒業までには、まだ時間がある。

 元々「一学期の間に代わりを見つける」という条件だったので「今すぐこの場で」と焦る必要はない。

 特にジャネットの側には。

 マットは、ジャネットを求めているので、一学期の間くらいは待ってくれるはずだ。


「そうだねぇ……」


 アマンダは、ジャネットを見る。

 ジャネットは、助けを乞うような視線をアマンダに向けていた。

 普段は強気だが、こういう話には弱気になってしまっているようだ。


「うーん。でもさ、一方的な意見かもしれないけど、待たされるのも結構辛いんだよね。良い答えか悪い答えか関係なく、ある程度予想ができる答えがほしいかも」


 ――だが、アマンダはジャネットを突き放すような事を言った。


 ジャネットは「裏切られた」と驚くが、アマンダの視線がアイザックに向けられている事に気付き、裏切りではなかったと知る。

 アマンダは、この機会にアイザックに「答えがほしい」と言っているだけだった。

 ジャネットの話が上手くまとまりそうな事と、先ほどアイザックの憂いを帯びた表情を見た事で、自分の気持ちが抑えきれなくなってしまっていた。


 これにはアイザックもたじろぐ。

 こんなところで自分に矛先が向くとは思っていなかったからだ。


「いえ、答えまでには時間を置くべきでしょう。一時の感情で動いて、あとで後悔するなどといった事は避けるべきです。カービー男爵もジャネットさんの事を『思っていたのと違う』と思うかもしれません。ジャネットさんもカービー男爵の事を『加齢臭のするおじさんは無理』と思ったりするかもしれません。一学期の間はお互いを知る期間とし、その間フォスベリー子爵は念のために他の候補者を探し続ける。それくらいでいいのではないでしょうか? また辛い別れになるのは、お互いに嫌でしょう?」


 アイザックは、慌ててアマンダの問いかけを躱そうとする。

 安全策というのは、酷い目に遭った人物には有効である。

 秘書官が言った案に、意見を加えておく。

 こうする事で、さらに意見を受け入れやすくするためだ。


「むぅ、カービー男爵は良い相手ですが……。エンフィールド公の仰る通り、焦りは禁物ですな。子供が生まれる前に婚約をしていたから、このような事態になったのですし。私もお互いを知るための時間を用意する事に賛成です。ですが、カービー男爵に他の女性を紹介しないようにしていただきたい」


 ウェリントン子爵は、時間を置く事に理解を示した。

 またダミアンのような事になるくらいなら、少し時間を使うくらいどうという事はない。


「もちろんです。これだけジャネットさんの事を気になっていたというのですから、目移りなどさせません。その点はご安心ください」

「それならば、こちらはかまいません。エンフィールド公を信用させていただきます」


「フォスベリー子爵を信じる」と言わないのは、やはりダミアンの事があったからだろう。

 ダミアンの教育を恥じているフォスベリー子爵は、なにも言い返せなかった。


「……加齢臭などするのですか?」


 マットは気になって自分の体を嗅ぐが、自分では臭いがわからない。

 アイザックに不安そうな顔を見せていた。


「大丈夫、大丈夫。あくまでも一例だから。でも、身だしなみに気を付ける事は必要だよ」

「ええ、気を付けるようにします」


 問題があるとすれば、加齢臭ではなく年齢差の方だ。

 その辺りの事を埋めるだけの魅力があるかどうかが鍵となる。

 ジャネットには、マットと付き合っていくうちに、ある程度の妥協をしてもらえる事を祈るばかりだった。

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