第367話 ウィルメンテ侯爵の署名

 結局、終業式までにパメラと会う事はなかった。

 ルーカスに都合のいい日を尋ねてもらったが「今は都合のいい日がないため、また後日」という返事しかもらえなかったからだ。

「予定が合わないなら仕方がない」と、アイザックも諦めるしかなかった。


 ジュディスとは後日面会する予定だ。

 彼女と会うのは、ウィルメンテ侯爵と会った二日後になる。

 これはアマンダとロレッタに会った時の経験を活かしたものだった。

 神経を使う相手と立て続けに会うのは疲れるので、落ち着く時間を作るためだ。


 だが、彼らと会う以外の日も忙しい日が続き、ゆっくりできる時間などなかった。

 アイザックの生還を祝う者達が面会を求めてくるからだ。

 これはこれで、誰を先に会うのかを決めるのが難しかった。

 高位貴族は優先的に会うのは当然として、男爵家や子爵家などの下級貴族と会う順序に悩む。

 そこで、アイザックは特定の貴族を優先する事に決めた。


 ――金に困っている貴族達である。


 金に困ってはいるものの、プライドが邪魔をして「お金を貸してください」と申し出る事ができない者もいる。

 その中でも、ウェルロッド侯爵家・・・・・・・・・に借りるのならともかく、まだ未成年者のアイザック個人・・・・・・・に金を貸してくれと言えない者達をターゲットにした。

 そういった者達でも、アイザックの帰還を祝うためという名目なら堂々と会える。

 借金の申し入れを尻込みしている者達に、後押ししてやろうと考えたのだ。


 この考えは一定の成果を上げる。

 アイザックが気楽に金を借りられる状況を作ってやる事で、多くの貴族に金を貸し付ける事に成功した。

 後回しにされた貴族達は不満に感じていたが、先に会った貴族の顔ぶれを知ると不満を収めた。

 先に呼ばれたのは金に困っていた貴族であり、アイザックとの面会後、彼らが余裕のある態度を見せていたからだ。

 なにがあったのかは想像に難くない。

 救済・・を優先したアイザックの姿勢は歓迎するべきものだった。

 いつ、自分が彼らの立場になるのかわからないのだから。


 アイザックは可能な範囲で、貴族達との面会をこなしていく。

 しかし、それはランドルフやルシアを大きく動揺させた。

 アイザックが一千万リード単位で金をポンポン渡していくからだ。

 彼らはかつてのモーガン達のように、アイザックの金遣いの荒さについていけなかった。

 とはいえ、人助けでもあるので、止める事ができない。

 ランドルフは黙って見ている事しかできなかった。



 ----------



 週末、ウィルメンテ侯爵家一行がウェルロッド侯爵家を訪れた。

 彼らから出向いてきたのは、ウェルロッド侯爵家には現職の大臣であるモーガンや、無役でも公爵であるアイザックがいるからだ。

 軽い挨拶から始まり、雑談が始まる。


 フレッドはアイザックが不思議に思うほど大人しかった。

 ウィルメンテ侯爵がしっかりと「場をわきまえろ」と叱りつけたか、本人の意思なのかはわからない。

 弟の前ではちゃんとした兄の姿を見せようとしているだけなのかもしれない。

 場の雰囲気を壊すどころか、明るい話題で盛り上げようとしていた。 

 意外なところでコミュニケーション能力を見せてくる。


「ケンドラ、ローランドと一緒にテレサと遊んできたら?」


 ある程度時間が経ったところで、ルシアがケンドラに声をかける。

 ケンドラやローランドは、まだまだ子供。

 退屈そうにし始めたので、ペットと一緒に遊んできたらどうかと提案した。


「それもよさそうね」


 ウィルメンテ侯爵夫人のナンシーも、ルシアの意見に同意する。

 子供同士で仲良く遊ばせたいという思いがあるのだろう。

 ローランドとケンドラの婚約は、ウィルメンテ侯爵家にとって重要なもの。

 ウェルロッド侯爵家の中でも、最も厄介なアイザックがローランドとの婚約を警戒している。

 二人の絆を深める機会を作り、安心させる事も重要だった。


 ケンドラはローランドを連れて部屋を出て行った。

 この時、リサとローランドの世話役もついていく。

 まだ子供なので男女の間違いを警戒するわけではない。

 怪我をしたりしないよう、見守るためだ。


 二人がいなくなったところで、アイザックは好機だと考えた。


「フレディ」

「フレディと呼ぶな」


 ローランドがいなくなったら、すぐさまアイザックにムッとした表情を見せる。

 やはり、弟の前で良いお兄さんを演じたかっただけなのかもしれない。

 少し懐かしいやり取りだったので、アイザックは笑みを見せる余裕があった。


「そう邪険にしないでよ。君のためにマットを待機させているのに」

「マット? カービー男爵の事か?」

「そうだよ。彼は傭兵上がりで、剣一本で貴族になった男だ。最強の騎士を目指しているのなら、手合わせをしたいんじゃないかと思ってね」

「やりたいとも! いいのか?」


 フレッドが立ち上がり、アイザックに顔を近づける。

 鼻息が荒く、興奮しているようだ。

 マットと戦えるのが嬉しいのだろう。

 だが、それだけではなく、ランドルフの方もチラチラと見ている。


「フレッド、座りなさい」


 ウィルメンテ侯爵がドスの利いた声でフレッドに座るよう命じる。

 フレッドはビクリと体を震わせ、大人しく椅子に座り直す。


「まぁまぁ、いいではないですか。フレッドは学内では敵なし。彼にとっても切磋琢磨する相手がいた方が、お互いのためになります。一度くらいは手合わせをさせてあげてもいいではないですか」


 しかし、アイザックとしてはフレッドがいない方がいい。

 彼に助け舟を出してやろうとする。


「そうですよ、父上。やらせてください!」


 アイザックがなぜ味方をしてくれているのかわからなかったが、フレッドはありがたく援護を受けた。

 手合わせしたいという熱意の籠った視線を父にぶつける。

 ウィルメンテ侯爵は観念したように溜息を吐いた。


「行ってこい」

「ありがとうございます! アイザック、お前もいいところあるな!」

「カービー男爵は強い。泥にまみれる事になるだろうけど、頑張ってね」


 感謝しているのかどうか……。

 失礼な事を言い残して、フレッドは使用人に連れられて去っていった。

 だが、アイザックは気にしない素振りを見せる。

 いや、気にしないどころか、せいせいしたと言わんばかりに清々しい笑顔を見せていた。

 その顔を見て、ウィルメンテ侯爵は苦々しい表情を見せる。


「そろそろあの話に触れたい。ですが、フレッドは不要というわけですか」


 ――フレッドは不適格。


 アイザックに、そう断言されたようなものだからだ。


「最高の司令官ならともかく、最強の騎士を目指しているようでは……」


 アイザックの言葉を、ウィルメンテ侯爵は否定できなかった。

 前線指揮官としてなら、槍働きができるほうがいい。

 だが、それは侯爵家の嫡男が求められる働きではない。

 個人の働きではなく、配下を統率し、動かす能力が求められている。

 その点、フレッドは侯爵家の跡継ぎとして、現段階では不適格であった。

 しかし、ウィルメンテ侯爵にも言い分がある。


「幼い頃、子供でありながら騎士を倒す従兄弟の姿をよく見ていたのでね。しかも、叔父が戦場の槍働きで大手柄を挙げてしまった。まともに戦っていない私などよりも、叔父の背中を追い求めてしまうのも無理はない」


 ネイサンは子供でありながら、騎士を倒していた。

 それが「癇癪を起こすから、わざと負けている」といったものでも、子供の目には凄いものに見えていたはずだ。

 しかし、それだけなら根気よく教えれば修正が可能だっただろう。

 だが、修正不可能の出来事が起きた。


 ――侯爵家の次期当主であるランドルフが、個人の武勇だけで名を挙げていたトムを一突きで討ち取ってしまった。


 これはフレッドだけではなく、多くの若者に衝撃的なまでに鮮烈な印象を与えた出来事だった。

「自分も強くなりたい」「強くなる分には損などない」と、個人技を磨く事に専念する者が増えた。

 当然、フレッドもその一人だ。

 ランドルフの事を持ち出して「最強の騎士を目指すのが正しい」と理論武装するようになり、脳筋一辺倒になっていってしまった。

 

 ――ネイサンとランドルフにも責任がある。


 ウィルメンテ侯爵は、そう言いたいところだった。

 しかし、自分の教育が足りなかったというのもあり、はっきりと非難する事はできなかった。


「すまないが、みんな出ていってくれ」


 アイザックが使用人に部屋を出て行くように命じる。

 部屋の中に残ったのは、人払いを命じられても残る事が認められる側近中の側近のみ。

 ウェルロッド侯爵家側は、ノーマンやベンジャミンが残り、ウィルメンテ侯爵家側も彼の秘書官が残っていた。

 話を聞いていないランドルフとルシアが動揺を見せる。


「さて、ウィルメンテ侯。カニンガム男爵から聞いておられると思いますが、間違いのないように説明しておきましょう。父上と母上にも説明していない事もありますしね。僕は将来的に議会のようなものを考えています。その理由は、最近の王家の動きでお分かりいただけるかと思います」

「議会!?」


 ランドルフが大きな声を出して驚いた。

 まったくもって予想外の話だったので、その驚きは一際大きい。

 彼とは対照的に、内容を知っていたウィルメンテ侯爵は落ち着き払っていた。


「エンフィールド公のお考えもわからなくはないもの。ですが、サンダース子爵が驚いたように、その話をする事自体が難しいのではないでしょうか?」


 彼も議会のメリット、デメリットは調べてある。

 少なくとも、リード王国は今の王政で安定している。

 議会制を導入する事で、政治を不安定にさせてしまうのではないかと危惧していた。

 そこで「ランドルフのように多くの貴族は驚き、反発するのではないか?」と慎重な姿勢を見せていた。


「確かにその通りです。ですから、誰にでも話していい内容ではありません。ただ、わかっていただきたい事があります。ノイアイゼンやファラガット共和国のように、王位を廃止して議会が政治を行うというものではありません。もっと軽いものを想定しております。要点は、王家が出す命令のチェックと良い意見を持つ者が発言できる場所を作る。この二つです」


 アイザックの言葉を、誰もが神妙な顔をして聞いていた。

 だが、二人だけ他の者と違う心境で聞いている者がいた。


 ――モーガンとマーガレットだ。


 二人はアイザックの本音を聞いている。

 今回はウィルメンテ侯爵を泥沼にはめて、抜け出せないようにするための話だと知っている。

 ウィルメンテ侯爵が真剣に聞けば聞くほど、滑稽なもののように思えて笑いを堪えるのに必死だった。

 笑ってはいけない場所だからこそ、笑ってしまいそうになる。

 堪えられているのは、高位貴族として演技を身に付けてきたおかげだった。


「議会を作っても、王権を制限したりは致しません。基本的に王命を追認するだけの存在です。ですが、追認する過程で誰かが疑問を呈する事もあるでしょう。僕がノイアイゼンに派遣された時など、誰か一人が『外務大臣も同意されているのですか?』と発言していれば、陛下も考えを改めておられたかもしれません」

「そうなっていれば、ウェルロッド侯に謝罪をせねばならない事態も避けられていた……か」

「もちろん、失敗を未然に防げるというだけではありません。誰も陛下の命令に異論を持たず、議会を素通りした命令が失敗だった場合、どうなるか?」


 ウィルメンテ侯爵は、ハッとなにかに気付いた表情を見せる。


「誰も陛下の命令に疑問を述べなかったのだ。追認した議会側にも責任はある。責任は王家だけにではなく、議会にも分散されるというわけか」

「ええ、その通りです」


 アイザックは「我が意を得たり」と、ニコリと笑う。

 王党派・中立派・貴族派という派閥に関係なく、王家に絶対の忠誠を誓う者がいる。

 ウィルメンテ侯爵は王党派の筆頭なので、その一人だとアイザックは考えていた。


 ――王家に忠誠を誓う者達を説得するにはどうすればいいか?


 その事を考えた時、アイザックは「議会には王家を守る意味も含まれる」という事にすればいいと思いついた。

 実際に実行する気などない、ウィルメンテ侯爵にサインさせるための方便である。


(でも、こんだけ察しがいいと、敵に回った時が怖いな……)


 フレッドの父親なので、ついつい脳筋だという印象を持ってしまう。

 だが、メリンダとネイサンを殺した現場で見せた動きは切れ者そのものだった。

 ウィルメンテ侯爵は、やはり強く警戒するべき相手なのだと思い知らされる。


「そして、もう一つの誰でも意見を述べる事ができるというのは……。言うまでもないでしょう。今この場にいる者だけで、今後の政治を決める話をしている。その事が答えです」

「私とウェルロッド侯が話を進め、ウィンザー侯やウォリック侯も自分達の利益を損なう提案でなければ、そのまま物事は進んでいく。有力貴族だけで決めるのではなく、意見を広く求めるというわけですな」

「はい。一見有力貴族には損のように思えますが、人が集まる以上、派閥というものはなくなりません。派閥の領袖として力は保持し続ける事ができます」

「実質的には、なにも変わらない。だが、一部の者だけで物事を考えるよりも、広く意見を受け入れた方がリード王国は繁栄する。リード王国が繁栄すれば、自然と我らの権威も高まるというわけですな。しかし――」


 ウィルメンテ侯爵は頭脳明晰のようだ。

 当然、彼の頭には疑問点も浮かび上がる。


「――それでは今と変わらないのでは? 素晴らしい意見ならば、我々が聞き入れてやればいいだけでしょう」

「それはウィルメンテ侯だからできる事です。どんなに素晴らしい意見も、その価値をわからないものには無価値でしかありません。意見を聞き入れてやるにしても、聞き入れる側に一定の器量を求められるのです。そういった難しい判断を個人ではなく、多数でできるようにしたいという思いもあります」


 この返答は、アイザックも想定したものだった。

 余裕を持って答えた。


「あっ……。もしかして、私のためか?」


 アイザックとは対照的に、ランドルフが余裕のない顔で声を漏らす。

 アイザックは彼の問いに答えず、曖昧な表情を浮かべるのみだった。

 それが事実なのだと物語っていた。


 ウィルメンテ侯爵も、彼と同じような感想を抱いていた。

 ランドルフは政治面で頼りないところがある。

 ウィンザー侯爵家のセオドアも優秀ではあるが、人を引っ張っていくようなタイプではない。

 次の世代は、自分やウォリック侯爵がいる王党派が優勢になるだろう。


 ――では、議会を作ればどうか?


 当主同士の話し合いでは、ランドルフも失敗するかもしれない。

 だが、議会で多くの貴族と共に議題を論じるようになれば、ランドルフ個人の比重は軽くなる。

 彼をサポートする者達が優秀であれば、ウェルロッド侯爵家は影響力を損なう事なく維持し続ける事が可能だ。

 アイザックが議会を作ろうと動き始めたのは、ノイアイゼンに派遣されるよりも前からである。

 王家の失策をなくすためというよりも、ランドルフのために作ろうと思い始めたと考えた方が自然なもののように思えた。


「あの、父上……。これは父上のためではないのです」


 なんとかアイザックがフォローしようとする。

 実際はカニンガム男爵が勘違いして、その勘違いにウィルメンテ侯爵が乗ってきたから、上手く味方に引き込もうとしているだけだ。

 議会の事など考えてなかったので、ランドルフのために考えた事ではない。


「わかっている。議会があれば、先代のウォリック侯の時に起こったような事を未然に防ぐ事だってできる。リード王家にとっても、貴族達にとっても、きっといい方向に動くだろう。不満などないよ」


 最初は驚きこそしたが、ランドルフは「気にしていない」と笑う。

 きっかけは自分だったとしても、アイザックの提案は上手くいけば、王国をよりよい方向へ向かわせる事ができるもののように思えた。

「プライドを傷つけられた」というよりも「皆のためになった」という気持ちの方が大きい。

 言葉通り、不満はなかった。


「そういえば、陛下がウォリック侯爵領に減税を命じられた事もあったな。あの時は我が家も大変だった。エンフィールド公が勉強会を作ろうと動いたのは一年生の時。ノイアイゼンの派遣を命じられるずっと前の事。おそらく、あの時の事が議会を考えるきっかけになられたのでしょうな」


 ウィルメンテ侯爵は、ランドルフの言葉に同意した。

 王命を一度は議会を通して問題がないかチェックするというのは、王家を守る事になる。

 忠臣であるアイザックが考えそうな事だ。

 まだ幼いうちから、そんな事を考えていたアイザックの知謀が恐ろしいものだと再確認させられた。


「考え始めたきっかけは色々ですね。勉強会を始めたのも、様々な意見をぶつけて話し合えばどうなるかを確かめるものでした。先ほど述べた意見はまだまだ未熟。骨子となるべきところを考えただけです。これから様々な人と話し合って、どういう形で実行するかを考えていきます。五年、十年とかかるでしょうが、いつかは必要になるものです。今後もウィルメンテ侯と話し合っていければ助かります。……ノーマン、例の書類を」


 アイザックは、ノーマンに書類を出すように命じる。

 彼は一枚の紙をアイザックに渡す。

 それはカニンガム男爵が「すべて理解した上でアイザックに協力する」と署名した紙だった。


「申し訳ございませんが、こちらに署名していただけますか? 父上のように初めて『議会を作る事を考えている』と聞いた者は驚くでしょう。中には謀反を考えていると飛躍した考えを持つ者が出てくるかもしれません。今後、口外しないという事を約束していただきたいのです」

「いいでしょう」


 ウィルメンテ侯爵はサインを書く。

 その光景を見て、アイザックは小躍りしたいくらいだった。

 モーガンとマーガレットも「してやったり」と悪い笑みを浮かびかねない様子だった。

 サインをしながら、ウィルメンテ侯爵が笑う。


「フフフッ。それにしても、こんな謀反の片棒を担がされても言い逃れできない内容の書面にサインをする事になるとは思いませんでした。しかし、内容を知らずに議会という言葉を聞けば、王家に対する叛意と取られかねない事も事実。警戒されるのも無理はありませんね」


 まさにその通りなのだが、ウィルメンテ侯爵はアイザックの事を疑わなかった。

 それは、モーガンへの謝罪を求めた事が大きい。

 謝罪を求めるという事は、王家への不満を持っていると公言しているようなものである。

 叛意を持つほど恨んでいるのなら、公に謝罪など求めない。

 いつかまとめて代償を支払わせるはずだ。


 だが、アイザックは不満を隠さなかった。

 嫌われる事を恐れず、不満を解消できる段階で問題を終わらせようとしたのだ。

 アイザックに叛意があるとは見抜けなくとも仕方がない。


「すべてはリード王国・・・・・のため。時間をかけてゆっくりと話し合いましょう。幸い、これから親戚になる予定の関係です。頻繫に会うような事があっても、誰も不審に思わないでしょう。頃合いがくれば、ウィンザー侯やウォリック侯を話し合いに誘っていくという事でよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんかまいません。ゆっくりと話し合いましょう」


 これはウィルメンテ侯爵にとっても悪い話ではない。

 議会という新しい組織の骨組みを作る作業に最初から関わる事ができるのだ。

 議会が誕生したあと、ウィルメンテ侯爵家の影響力は増すだろう。

 ウィンザー侯爵家やウォリック侯爵家よりも先に協力したというのも大きい。

 上手くいけば、アイザックのいるウェルロッド侯爵家に次ぐ影響力を保ち続ける事ができるはずだ。


 そして、この一件はランドルフにも大きな影響を与えた。

 自分は無難に領地を運営していけばいいという立場ではない。

 ウェルロッド侯爵家の次期当主として意識し始めなければならないという事を強く認識させた。

 今までは親任せ、息子任せだった貴族間のやり取りも、自分が判断できるようにならなければならないと。

 モーガンも年齢が年齢だ。

 自分が当主になった時、アイザックに迷惑をかけないよう、より一層勉強し、経験を積んでいこうと決意させる。

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