第201話 全てを見通す目
ウェルロッドに戻る前に、演習に参加していた貴族達を集めて状況を説明した。
伝令が来た時、本陣にいなかった者達は衝撃的な知らせを受けて沈黙する。
沈黙の理由が「戦争になった」からか「アイザックの先を見通す力に驚いた」からかまではわからない。
「みんな、いきなりで驚いているとは思う。だが、援軍に行かなければならないという事もわかっているはずだ」
ランドルフが皆に声を掛ける。
そして、アイザックもファーティル王国に援軍へ向かう理由を頭の中で再確認する。
ファーティル王国は、リード王国の東に位置する同盟国である。
だが、同盟国というだけで無条件で援軍を出すわけではなかった。
援軍を出す理由は、防波堤としての役割を果たしてもらうためだ。
二百年前の種族間戦争で、リード王国は国土が戦場になる悲惨さを学んだ。
だから、ドワーフが住む南以外の三方向の国と同盟を結ぶ事にした。
国土を戦場にしないため、隣国を盾にするためだ。
この条件は、隣国にとっても悪いものではなかった。
同盟を結べば、リード王国を警戒しなくて済む。
他の国が攻め込んできた時に援軍を期待できるというのもありがたい。
それに貢ぎ物などを求めなかった。
戦争が起これば、リード王国がただ援軍を出すだけ。
お互いを守り合う同盟というよりも、不可侵条約を結んで一方的に援軍を送っているといった方がわかりやすいかもしれない。
この国内を戦場にしない方針は、ウェルロッド侯爵家の十三代目当主ティムによって考えられた。
普通の精神をしていれば「自分の国を戦場にしたくないから援軍を出してやる。だから、お前達の国で敵を食い止めろ」などという話は考え付かないし、申し込む事などできない。
だが、リード王国だけではなく、同盟国にも利益のある内容だったので受け入れられた。
どこの国も「仮想敵国が減る」というだけで十分な利益である。
そこに「援軍が送られる」という上乗せがあるのだ。
断れる国はなかった。
ここで重要なのが「援軍を送る」というところだ。
この約束を破れば、他の国にも不信感を持たせる事になる。
リード王国の国土を戦場にしないためには、この約束だけは守らなくてはならなかった。
「父上、この戦いに僕も同行させてください」
重要な戦いだとはわかっている。
しかし、それ以上にアイザック
是非とも参加せねばならなかった。
息子の頼みに、ランドルフは首を横に振って答える。
「ダメだ。子供は戦場に連れていけない」
アイザックの願いは、もっともな意見で一蹴される。
だが、これで諦めるアイザックではない。
「父上は戦術などを学んでいるのかもしれませんが、人として真っ直ぐ過ぎます。戦場では人の足をすくう能力が必要とされるでしょう。僕はそれが得意です。父上のためだけではなく、一人でも多く無事に帰ってこられるように手伝いたいんです」
アイザックの言葉に、ランドルフは悩む。
確かにメリンダとネイサンを殺した時の手際はよかった。
しかし、だからといって本当に連れていっていいかは別だ。
「皆さんはどう思いますか? 僕が同行するのに反対の方はおられますか?」
ここでアイザックは最後の一押しをする。
かつて使った「俺に反対する奴は手を挙げろ」という方法であるが、今回は大勢が好意的に受け取っていた。
アイザックは初陣だが、ランドルフも初陣である。
他にも初めて戦場に出向く者もいる。
智謀に長けた者がいてくれると安心と思う者が大半だった。
――そう、
堂々と手を挙げて反対する者が二人もいる。
その一人は、母方の祖父であるハリファックス子爵だった。
「アイザック様まで出陣なされると万が一の事があった場合、男児の後継ぎがいなくなります。おやめになられた方がいいでしょう」
戦争には勝っても、戦死する者だって当然いる。
その中にアイザックが入る可能性もある。
ハリファックス子爵は、孫可愛さで反対していたが、これは至極真っ当な意見だ。
そして、もう一人の手を挙げている者はキンケイド男爵だった。
「私もハリファックス子爵に同意見です。ジュード様も若かりし頃に戦場で戦われたそうですが、あまり活躍はできなかったようです。戦場に出るという危険を冒す必要はないのではありませんか?」
彼の意見も納得のいくものだった。
戦場に行きたくないと思っていたなら「心配してくれてありがとう」と言うところだ。
しかし、今回は逆。
戦場に行きたかった。
二人の話を聞いても納得していないアイザックを見て、ランドルフが話しかけた。
「一度屋敷に帰ろう。ルシア達と顔を合わせても戦場に行こうとする覚悟があるのなら、私も前向きに考える」
ランドルフは「家族の顔を見れば、戦場に行きたいなんて言わなくなる」と思っていた。
だが、同時に「一緒に来てほしいな」とも思っている。
アイザックは、今までにない規模のロックウェル王国軍が攻めてくる事を予測していた。
「戦場でも、その慧眼を活かした助言をしてくれないかな」と考えていたからだ。
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「ダメよ、そんなの! なんでアイザックまで行かないといけないのよ」
当然、ルシアが反対する。
出陣するのは貴族の義務だから仕方ないにしても、まだ子供のアイザックまで行ってしまう事は認められなかった。
「母上、大丈夫ですよ。僕は最前線に出ません。僕も父上が無事に帰ってこられるように手助けをしたいんです。それにエルフによる救護班も……。マチアスさん、そちらはどうなってます?」
アイザックはマチアスにエルフ達の様子を尋ねる。
演習には参加してくれていたが、実戦にまで参加する気のある者は少ないはずだと思われた。
「大体、二十人ってところだな。報酬の増額で考えてもいいというのが更に十人というところか」
「結構残ってますね」
今回の演習に備え、出稼ぎに行く者を含めてエルフを百人ほど集めていた。
その中の三割が参加してくれるというのはありがたい事だった。
「エルフの魔法があれば怪我を治せます。死ななければ助かるんです」
「治療される前に死んでしまったらどうするの?」
「危険な最前線には行きません。父上のそばで意見をするだけです。大将のそばにいるんだから安全ですよ」
「でも……」
怪我をしても大丈夫だと言っても、ルシアはまだ納得する気配がない。
これはアイザックとは違い、戦争に対する恐怖を持っていたからだ。
――戦争に行った親戚や知り合いが帰ってこない。
彼女はそんな経験を二十年前の戦争でしている。
顔見知りが、ある日突然いなくなってしまう寂しさ。
何とも言えぬ喪失感を、自分の息子で経験したくはなかった。
「ルシア、私はアイザックを連れていきたい」
「あなた!」
ランドルフがルシアの肩に手を回し、優しく抱き締める。
「アイザックなら何か良い作戦を思いついたりするかもしれないだろう? 剣を持たせて戦わせたりはしない。危なくなったら供回りと一緒に逃がすつもりだ」
「でも、そんなのって……」
ルシアがランドルフの胸元で泣き始める。
ランドルフが今度はアイザックに顔を向けた。
「ハリファックス子爵が言っていたように、お前は大事な後継ぎだ。だから、危なくなったら逃げてくれ。お前なら大丈夫だと思うが、血気に逸って突撃したりするなよ。どんなにみっともない形で逃げても、生き残る事が最大の親孝行だという事を忘れないでくれ」
「わかりました」
言われずとも、無謀な突撃をするつもりなどない。
そもそも、アイザックは剣や槍といった武器の使い方が下手だという事を自覚している。
シミュレーションゲームで言えば、武力が10か20くらいに設定されているヘボ武将。
直接戦うつもりなど微塵もなかった。
アイザックはルシアに歩み寄る。
「僕はまだまだ若いですからね。やりたい事もいっぱいありますので死んだりしません。ケンドラと一緒に帰りを待っていてください」
「アイザック……」
ルシアが今度はアイザックに抱き着いた。
アイザックも強く抱き締め返す。
(いつの間にか、お袋も小さく感じるようになったなぁ……)
ルシアの身長は160cmくらい。
180cmを超えたアイザックには小さく感じられた。
こうして抱き着くのが久し振りという事もあり、以前よりも体格差をよく実感できた。
「怪我をしないで帰ってくるのよ」
「手足がもげても魔法で治るらしいので大丈夫ですよ」
「重傷でも治る」という事でアイザックは気楽であるが、ルシアは「治る怪我ならしてもいい」と言っているわけではない。
「そもそも怪我をするな」と言っているのだ。
この認識の違いにより「やはり行かせない方がいいのでは?」と、ルシアは不安になった。
「ケンドラ。お父さんとお兄ちゃんはしばらく出かけるから、パトリックの事をよろしくな」
アイザックはルシアから離れ、ケンドラを抱き上げる。
「うん、はやくかえってきてね」
「もちろん。協定記念日までには戦争も終わるだろうさ」
アイザックはケンドラに笑顔で言った。
まだ総力戦という概念がない時代だ。
戦争は長くならないだろうと思っていた。
ケンドラに頬ずりをして柔らかいほっぺを堪能すると、次はリサのもとへ向かう。
「リサお姉ちゃん、ケンドラの事をよろしくね」
「ええ……、無事に帰ってきてね」
アイザックはリサにも抱き着く。
今回は堂々と抱き着ける名目があるからやらない理由などない。
(リサは……、大きく感じるな)
――主に胸が。
鎧を脱いでいる今、リサに抱き着く事によってダイレクトに柔らかなものを感じられる。
こちらはケンドラのほっぺとは違った柔らかさと心地良さがあった。
全神経を接触部分に集中するが、周囲の目が気になったので適当なところで渋々離れた。
「クロードさんとブリジットさんは、モラーヌ村に帰られた方がいいのではありませんか?」
「なんでよ?」
「ロックウェル王国は今までにない数で攻め込んできました。ファーティル王国を攻め落として、そのままの勢いでリード王国にという事も考えられます。エルフが戦争に巻き込まれないためにも、一度村に戻られた方がいいかなと思いました」
本当はエルフの戦争利用を積極的に推し進めたい。
ドワーフからも火薬を急遽仕入れて実戦で試したかった。
だが、それはまだできない。
新兵器は反旗を翻す時まで隠しておきたかったからだ。
今使ってしまうと対策を考えられてしまう。
それまではエルフやドワーフに関係するものは戦場で使わない。
だから、今回は魔法による救護班程度に抑えるつもりだった。
魔法を使った医療行為は、まだ常識の範囲内だからだ。
医療行為は教会関係者の仕事だが、どうせ教会関係者は戦場に来ないので文句を言われる事はない。
まずは段階を踏んでいきたいというのがアイザックの考えだった。
「確かにアイザックの言う通りだ。万が一の事を考えてお前は村に帰っておけ」
「なんで私だけ? クロードはどうするのよ」
自分だけ村に帰れと言われて、ブリジットは頬を膨らませる。
のけ者にされているようで不愉快なのだろう。
だが、クロードにそのような意思はない。
どこか達観したような表情をしていた。
「爺様が乗り気のようだからな。俺も付いていって、無茶をしないように見張る必要がある」
「あぁ、長老の事ね……」
ブリジットは憐れむような目でクロードを見て、呆れた視線でマチアスを見る。
これにはマチアスが憤慨する。
「なんだ、その目は! ワシは三百年ほど戦い続けた歴戦の勇士だぞ! 今回は魔法を使って戦ってはならんそうだが、知恵で手助けだってできるんだぞ」
「いや、その知恵の部分も心配なんだ」
クロードの言葉にアイザックも同感だった。
マチアスは
あまり攻撃的なアドバイスをされても困るところだ。
「でも、私はやっぱりここに残るわ。ウェルロッドまで攻められたりしないように、隣の国を助けに行くんでしょ? だったらなんとかしてきなさいよ。もしここまで敵が来たら、ケンドラ達くらい守ってあげるわよ」
「いえ、エルフに戦われては困るんですが……。お気持ちだけありがたく受け取ります」
念のために危険だと言ったが、本当にウェルロッドまで攻め込まれるとはアイザックも思っていない。
そんな事になる前に国境付近で敵を防いでいるはずだ。
心配はしていなかったが、ブリジットの言葉は嬉しかった。
(無事に帰ってきて、お礼をしなきゃな。ファーティル王国のお土産って何があるんだろう?)
周囲が緊迫感を感じられる表情をしている中、アイザック一人が呑気な表情をしていた。
戦場に向かうという事がどういう意味かは、今後知る事になるだろう。
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ウェルロッド侯爵領は、ファーティル王国と国境を接していない。
軍の合流という目的もあるので、アイザック達はランカスター伯爵領に向かう。
兵は一万五千。
残りの五千はあとから物資を運んでくる商人の馬車を護衛してくる予定だ。
軍保有の荷馬車だけでは補給を維持できない。
金が掛かるが致し方ない事だった。
ランカスター伯爵の屋敷に到着すると、彼は驚きながら出迎えた。
「どうした、やけに早いではないか? あと一週間か二週間は編成に時間が掛かると思っていたぞ」
「ええ、実はちょうど大規模な演習を行っていたところなのです」
「演習? この時期にか?」
ランドルフの返事を聞いて、ランカスター伯爵は首を傾げる。
王都から戻ってきたばかりの時期は、まずは残っている仕事を片付けなければならない。
中には留守居役が処理できないものだってあるはずだ。
わざわざこの時期に演習をやる理由がわからなかった。
それはランドルフも同じ。
だが、彼はこの時期に演習を行う意味を知っていた。
誇らしげにアイザックの肩に手を置く。
「アイザックが提案したんです。おそらく、ロックウェル王国の動きを予測していたものだと思われます」
「ほう、それは凄いな。どうしてそう思ったのか、中で聞かせてもらおうじゃないか」
(えっ……)
ここに来て、アイザックはようやく「自分がロックウェル王国軍の動きを察知していた」と勘違いされている事に気付いた。
(やばい、やばいぞ! なんでそんな事になってんだ? 伝令が来るまで知らないって言ったじゃないか。何勘違いしてんだよ、親父! けど、この勘違いを無駄にするのはもったいない気がする。急いでそれっぽい事を考えないと……)
初めて訪れるランカスター伯爵邸。
その会議室に向かうまでの間、アイザックは必死に理由を考えた。
会議室は手狭となっていた。
普段ならランカスター伯爵領の貴族が集まるだけだが、今回はウェルロッド侯爵領の貴族達も集まっている。
立ち見している者もいるくらいだった。
「こちらも貴族が結構集まっていますね。もう戦闘準備はできているんですか?」
アイザックは、ランカスター伯爵に話しかけた。
こちらも戦闘の準備が整っているのなら、それだけの用意をしている。
「いや、お前達が来ると聞いたから先に貴族を集めただけだ。兵士が揃うのはあと二日ほど掛かる。よければ、皆になんでロックウェル王国が動いたか説明してくれんか」
「……はい」
ランカスター伯爵に一段高くなったところに連れていかれる。
会議室に集まっている貴族達の視線がアイザックに集まった。
(平常心、平常心)
大勢の前で話すのはできない事ではない。
だが、自信のない適当に考えた話をするのは辛かった。
今すぐにも逃げたい気分だ。
しかし、ここに立った以上はもう遅い。
意を決して口を開く。
「皆さん、ロックウェル王国がウォリック侯爵領を大きくしたような国という事はご存じだと思います」
この言葉に、皆がうなずく。
――国全体が山岳や丘陵地帯で食料生産力が低く、鉱物資源が売りの国。
食料生産が少ないのに国として成り立っているのは、二百年前までは食料も自給できる国だったからだ。
元々ファーティル王国は、ロックウェル王国の一部だった。
食料が豊富なファーティル地方。
その平野部があった時期には、リード王国とタメを張る大国だった時もあった。
しかし、種族間戦争のドサクサに紛れてファーティル王国が独立。
ロックウェル王国に残されたのは、鉱物資源が豊富な地方だけだった。
そのため、食料のほとんどを輸入に頼る歪な国が出来上がってしまった。
このファーティル王国の独立も、ティム・ウェルロッドによる策謀という説もある。
事実かどうかはわからないが「やってもおかしくない」と思われる人物だったのだろう。
ロックウェル王国とファーティル王国の事は教科書にも載っており、皆が知る内容だった。
「だから、僕達が王都にいる時期ではなく、冬にまいた小麦が収穫できるこの時期を選んだのだと思います」
「確かにそうだ」
ランカスター伯爵が納得してうなずく。
他の者達も納得できる内容だった。
――食料がないから現地調達。
戦後処理の事を考えると頭が痛いが、持たざる者にとって大軍を率いて攻めるにはこれくらいしないといけないのだろう。
「だが、今年になって急に攻めてきたのはどういう事だ? 去年でもよかったんじゃないか?」
アイザックが説明しきれていないところを、ランドルフが尋ねる。
「一年半ほど前にサイモン陛下が崩御され、ギャレット陛下に代替わりされました。新しく国王になったら、少しでも早く目立つ成果を残したいと思うのは当然の事。ファーティル王国の併合という長年の夢を叶えるため、今までは計画立案に力を注いでいたのだと思います」
この考えは、アイザックにとって簡単なものだった。
アイザックもネイサンを殺した時は一撃で仕留めた。
リード王国を乗っ取る時も、ダラダラと長引かせる事なく一撃で仕留めるつもりだ。
――戦うのは一度だけでいい。
アイザックもその考えを持っていたからこそ、ロックウェル王国側が今までにない大軍で一挙に押し寄せた理由が理解できた。
おそらくギャレットは、リード王国から援軍が来る前に戦争の趨勢を決めてしまおうと考えているはずだ。
「それだけに、今回の戦いは厳しいものになるかもしれません」
「むぅ……」
アイザックの考えを聞いた事は正解だったが「皆に聞かせたのは間違いだったのではないか」とランカスター伯爵は後悔した。
アイザックが「厳しい」と言うのなら、本当に厳しいように思える。
皆の士気が下がってしまうのではないかと心配していた。
だが、その心配もアイザックが払拭してくれる。
「ですが、その分勝てば褒美なども思いのまま。それにエルフから治療従事者を募っております。死なない限りは助かるそうですよ。安心して戦いましょう」
――何が安心できるというのか。
アイザックの楽天的な考えに、貴族達の間から不思議な笑いが起きる。
暗く落ち込みそうだった会議室が少し明るくなった。
このあとは、ランドルフとランカスター伯爵が引き継いでこれからの行動指針を話し始めた。
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会議を解散したあと、アイザック達はランカスター伯爵と別室で話を始めた。
そこにはジュディスも呼ばれていた。
彼女は水晶玉を胸の前に持っていた。
「大きい……」
アイザックは思わず呟いてしまった。
もちろん、水晶玉の大きさではない。
ジュディスの胸の大きさだ。
彼女は胸が大きいだけではなく、くびれもあるので尚更大きく見えた。
世の中にはトップとアンダーの差だけを見て胸の大きさを評価する者がいる。
だが、アイザックはそれだけではなかった。
アンダーバストとウェストの差も評価基準の中に入っている。
バスト : 100cm
ウェスト: 100cm
ヒップ : 100cm
という体型よりも――
バスト : 90cm
ウェスト: 60cm
ヒップ : 90cm
というモデル体型の方が胸が大きく見える。
アイザックは胸囲だけの評価ではなく、アンダーバストとウェストの差も含めた評価で考えていた。
その評価基準において、ジュディスは最高クラスの評価だった。
グラビア写真ではなく、生身でここまでの逸材を見たのは前世でもなかった事だ。
食い入るように胸元を見る。
「そうだろう。大きいだろう」
ランカスター伯爵もアイザックの言葉に同意する。
この時、アイザックは考えていた事が口から出ていたと気付いて焦る。
「その水晶玉はジュディスのために用意したんだ。占わせるのは心苦しいが、戦いに出向く前には占ってほしいだろう?」
「そ、そうですね。ご立派な水晶玉です」
(あぶねー、いくら何でも胸を見ていたとかバレたら殴られる。何やってんだよ俺の馬鹿!)
アイザックは迂闊な自分を罵る。
しかし、その思いは表には出さなかった。
「ですが、占ってもらうのはランカスター伯爵と父上だけにしてもらえますか」
「なぜだ? 気にならんのか?」
ランカスター伯爵の疑問はもっともなもの。
だが、万が一「リード王家の旗を踏みにじって玉座に座る姿が見えた」とか言われたら大変だ。
アイザックは占わせるわけにはいかなかった。
「ジュディスさんの占いはよく的中するそうですね。でも、だからこそ聞きたくないんです。戦いに勝つと聞けば、きっと僕は『戦いに勝つんだ』と思って油断します。負けると聞けば『どうせ負けるんだ』と思って弱気になるでしょう。どちらの結果が出ても、きっと悪い方に動いてしまいます。僕は弱い人間ですので」
「いや、弱くはないだろう」
ランカスター伯爵からツッコミが入るが、アイザックはスルーする。
アイザックはジュディスに微笑みかけた。
「ジュディスさんは特別な力を持っています。だから、ランカスター伯のついででかまいませんので、僕達が無事に戻ってくる事を祈っておいてください。それが僕の力になります」
アイザックの頼みに対して、ジュディスはうなずいて返す。
長い黒髪で顔が隠れているのでわからなかったが、彼女の頬は少し赤くなっていた。
――アイザックの言葉に反応してのものか。
――それとも、アイザックの視線に気付いていたからか。
彼女が何も話さなかったので、誰にも判断する事ができなかった。
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