第31話 エルフとの交渉
アイザック達は、ティリーヒルの東にある森の手前の平原に天幕を張って待っていた。
モーガンはランドルフに留守を任せ、アイザックやオルグレン男爵と共に出迎えるつもりだった。
昨日、猟師達に森に入ってもらい、エルフに「明日、会談しよう」と伝えてもらった。
返答では「昼くらいに向かう」との事。
念のため、軽く食事が取れるように野外調理の用意はしているが、こちらの出す食事を警戒して食べないかもしれない。
とはいえ「用意をして無駄になる」か「無駄になるから用意しない」では意味が変わってくる。
今回は迎える立場なので、用意をしておく事となった。
もちろん、手土産も用意している。
「本当にあんな物で良かったのか?」
モーガンは手土産を載せている荷馬車の方を見る。
中身は塩がメインで、コショウと砂糖を少々といったところだ。
手土産というには心許ない。
だが、アイザックに心配する素振りは無かった。
「はい。南のドワーフと取引をしているそうですが、距離が遠いのでこの地の人間と塩を取引し始めたというのが交流再開のきっかけだと話しておりました。ならば、こういった実用性のある物の方が喜ばれると思います。もしも、僕がエルフでしたら、いきなり宝石などをプレゼントされても受け取らないと思いますし」
「そう言われれば、そうかもしれんな……」
モーガンにしてみれば、ウェルロッド領の南に岩塩の採掘場があるという立地故に「塩など掘ればいくらでも取れる物だ」という認識だった。
岩塩の鉱山と領域が接していないエルフの苦労はわかり辛い。
一方の高価な物を贈られて困るというのはよくわかった。
侯爵家なので、付け届けも高級品が多い。
しかし、無駄に高価過ぎる物を貰うのは負担でしかなかった。
贈り物に見合った物を返すにも、何をどう返すか考えるのが一苦労だ。
それはきっとエルフ達にとっても同じはず。
こんな基本的な事すら思いつかないほど「エルフとの交流」という事態に、モーガン自身興奮していたのかもしれない。
「誠に申し訳ありません。エルフと物々交換をしていたとは気付きませんでした」
謝っているのはこの地を任されているオルグレン男爵だ。
百年ほど前からという事は、彼が生まれる前から森に入る者達はエルフと会っていた事になる。
今まで気付かなかった事を非常に恥じている。
「いや、こういう末端の事は報告されねば気付く事はできない。オルグレン男爵に責はない」
モーガンは彼を庇った。
猟師や木こりといった者達に限らず、薪拾いや山菜取りに森に入った者達も詳しく報告していなかったのだ。
「森の中でエルフと会った」という報告はあったようだが、それだけで終わっている。
取引をしたというような事までは報告に上がっていなかった。
東の森にエルフが住んでいると知っている以上、遭遇する事は不思議ではなく、会っただけで取り立てて大事にする事もない。
町ぐるみならともかく、個人間で取引している事までは気付けなくても責める事はできなかった。
これは情報の伝達に関する問題だ。
――領主様に教えてもいいけど、信じてもらえなかったら罰を受けそうだ。
――物を交換したくらいなら、わざわざ伝えなくてもいいだろう。
そう判断する者ばかりだったから、オルグレン男爵にまで伝わらなかった。
だからといって「罰しないから街であった事を全て教えろ」と命令するのは無謀だ。
実態のない噂に右往左往させられる危険がある。
情報を取捨選択する役職を作っても、その役職に就いた者に適性が無ければ上位者に報告が届かないのは同じ事。
もっと情報伝達手段の発達と、それに伴う情報に関する意識向上を待たねばならないだろう。
「オルグレン男爵が知らなかったという事は、今まで大きな問題が無かったという事。そこからは、エルフ側にも騒動を起こす気がないという意思が読み取れます。男爵も知っていて黙っていたわけではありませんから、気にしすぎないでください」
自分が引き起こした事態でオルグレン男爵が処罰されるような事があっては寝覚めが悪い。
なので、アイザックもフォローに回る。
(オルグレン男爵は味方になってくれそうな雰囲気だったしな)
アイザックは彼が自分の支持者になってくれた事に、まだ気付いていない。
今まで味方がいなかったせいで、ハッキリと言ってくれないとわからないのだ。
なんとなく雰囲気で察してはいるが、アイザックは確信を持てなかった。
いつかは人の機微を感じ取れるように学んでいかねばならなかった。
「来ました! 数はおよそ二十!」
森を見張っていた者から、モーガンのもとへ報告が入る。
エルフの人数を聞き、少し緊張が走る。
「二十人か。微妙な数だな……。武装などはどのようなものだ?」
「目立つ武装は弓矢とナイフくらいでした。他は毛皮やズダ袋を持っています」
モーガンは顎に手を当て、少し考える。
「あちらも警戒はしているが、取引を中心に考えているようだな。こちらも護衛を二十人残して、他の者は距離を取るように伝えよ」
「ハッ」
自領内とはいえ、モーガンが移動するので護衛が三百ほど。
一人一人の戦闘能力に勝るエルフ相手とはいえ、それだけの数を傍に置いておけば何かを企んでいると思われかねない。
それに、交渉というのは論理的な交渉だけで済むものではない。
「こいつ、俺らにビビってるよ」と思われてしまえば、それだけで条件を決める時に不利になる。
内心では恐れていようが、表向きは普段通りであるかのように振る舞わねばならない。
意地を見せるために、モーガンは兵を離した。
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アイザックはエルフの服装を見て驚いた。
おそらく代表者であろう数人の老人達は羽織袴を着ていたからだ。
(それ、絶対森の中歩きにくいだろ……)
護衛として付き添って来た者達は作務衣のような服を着ており、その上に皮の胸当てなどを付けている。
弓を撃つ時に弦が胸が当たらないようにしているのだろう。
ブリジットの姿も護衛の中に見える。
「みなさん、初めまして。僕はウェルロッド侯爵家、ランドルフの息子アイザックです。こちらは当主であり、僕の祖父のモーガンです。そしてこちらはそこの街を治めている代官のクレイグ・オルグレン男爵です」
まずは打ち合わせ通りにアイザックが最初に口を開く。
それに合わせて、二人も挨拶をした。
アイザックが最初に名乗ったのは「誰がこの場を仕切っているのか」を表すためだ。
これは「名目上の責任者」とするためだった。
――エルフとの交渉はアイザックが主導する。
アイザックが身を守るために「エルフとの交渉を取り仕切った」という名誉はアイザックに譲る。
モーガンは「エルフとの交流再開」という事実さえあれば、外務大臣としての箔付けには十分だった。
「私はモラーヌ村の村長をやっているアロイスだ。ブリジットのいる村といえばわかりやすいかな」
人間でいえば五十歳前後に見える中年のエルフが答えた。
確かに服装はエルフ達の中で立派な部類だ。
成人式でもスーツだったアイザックからすれば、羽織袴姿は少し羨ましいくらいだ。
アロイスは次に隣にいる同じくらいの年齢のエルフを紹介し始める。
「こちらは長老であるマチアス。今回の話をして興味を持たれた」
長老と呼ばれたマチアスは鷹揚にうなずいただけだった。
顔にはかなり深いシワが刻まれているので、人間でいえば七十歳以上に見える。
アイザックが読んだ本では、エルフは人間の十倍の寿命を持つらしい。
マチアスはリード王国が誕生する前から生きていると思われる。
まさに長老といえる存在なのだろう。
「お待ちしておりました。お席の方へどうぞ」
アイザックは席を勧める。
同時に護衛の騎士達にも視線で合図を送った。
彼らは近くに置いた荷馬車から椅子を降ろし、テーブルについた村長達の背後に人数分の椅子を並べる。
しかし、その椅子に座ったのは半数。
――個人では信用できる人物も、集団になれば人が変わる。
おそらく、長年の取引で信頼を築いた猟師相手ならばともかくとして、人間の代表と話をするのに警戒を解く事ができないのだろう。
その事は特別取り立てて非難するような事ではない。
執って当然の行動である。
「本日はお越しいただきまして、誠にありがとうございます。何分にもエルフの皆様とは二百年振りの交流。作法の違いにより、不愉快な思いをさせるかもしれません。その際は、なにとぞご容赦のほどお願い申し上げます」
まずは礼儀作法の違いがあった場合の予防線を張る。
文化が違えば作法も違う事は十分考えられる。
こうした予防線はお互いのためである。
あらかじめ伝えられていれば、エルフ側も「無作法な奴だ」と腹を立てずに済む。
エルフに関する過去の資料は残っているので“不勉強な奴だ”と思われる可能性があったが、今のところは「慎重な子供だな」と思われていた。
「このような場を設けましたのは、森の中でブリジットさんにお会いした事がきっかけです」
アイザックはアロイスの後ろに座るブリジットを見る。
「ブリジットさんからは人間に対する恨みなどが感じられませんでした。喧嘩をしようと思わないなら、みんな仲良く暮らす方が楽しいと思いましたのでお声をかけさせていただきました」
ここで子供らしい明るい笑顔を浮かべる。
これには、緊張の色が見えたエルフ側も少し表情が和らいだ。
種族は違えど、子供の笑顔は場を和ませる効果がある。
エルフ達は「利口そうな子だな」という印象を持っていたので、何かを企んでいるのではないかと警戒していた。
しかし、仲良くしたいという「子供らしいきっかけ」に、警戒もやや緩む。
次にモーガンが口を開く。
「過去には人間とエルフの間で悲劇が起こりました。人間を代表するほどの立場ではありませんが、この場にて謝罪を申し上げます」
モーガンが頭を下げるのに合わせて、アイザックとオルグレン男爵も頭を下げる。
それをすぐにマチアスが止めた。
「お主らが頭を下げる必要などないんじゃ。争いを始めたのは祖先の罪。子孫にまで罪を償えとは言わん」
「マチアス殿の言う通り。だから、世代が完全に変わった頃に接触を始めたのだ」
アロイスもマチアスの言葉に続いた。
「そう言っていただけると助かります」
モーガンは心の中で溜息を吐く。
そして、気を引き締めた。
恨みは消えても、人間を見る目は厳しいはずだ。
これから自分達の行動次第で、今後の関係がどうなるか大きく動く事になる。
許してくれているという言葉に甘えるわけにはいかない。
「しかし、ブリジットは戦後に生まれた世代とはいえ警戒が甘すぎる。エルフと人間というのは関係なしに、若い娘が男の集団に火を借りに行くというのはよろしくない」
溜息を混じりにアロイスがブリジットの不用心さを嘆く。
まずは世間話で場を和ませようというのだろう。
モーガンもこれに乗る事にした。
「それはアイザックも同じ事。森の中には毒を持つ生き物や植物があります。侯爵家の血を引く者として軽率な行動でした」
「若い者には苦労しますなぁ」
お互いに子供をダシにして世間話をする。
それを何度か繰り返した頃、モーガンが少し踏み込んだ話を切り出す。
「そういえば、アイザックから塩が喜ばれると聞いておりました。ささやかではありますが、こうして会談の記念として贈り物を用意しております。塩やコショウ、砂糖を受け取っていただけますか?」
モーガンは品の目録を渡しながら言った。
アロイスは目録を見て非常に嬉しそうにしている。
「塩はありがたい。若い者でも森の中を十日以上毛皮などを持って歩き続け、ドワーフのところから塩を持ち帰るのは一苦労だ。こちらからも、返礼の品を受け取っていただきたい」
アロイスが背後にいた者達に指示を出すと、毛皮や果実などが差し出された。
「ありがとうございます。今はこうして会談の場を設けられただけで十分だと思っております。ですが、将来的には正式な交易を始めようとも考えております。もし取引をするなら、毛皮などの売買を中心としたものがよろしいでしょうか?」
エルフは森に住む。
自然と動物の皮や森で取れる物が中心となると考えられる。
人間よりも狩りの上手いエルフなら、毛皮などの量も増えると思われた。
しかし、エルフ達の顔は渋い。
「いや、森の動物は食べるために狩る物。売るために必要以上に狩りたくない」
マチアスが取引を否定した。
「その通りだ。今までは余剰分で物々交換していたに過ぎん。こうして公に取引ができるようになっただけで良しとするしかない」
アロイスも同意する。
これはエルフとしての生き方の問題だ。
強制して狩りをさせるわけにはいかない。
(関係改善だけか……)
表情にこそ出さないが、モーガンはガッカリしていた。
エルフとの交流再開自体は良い事だが、それではアイザックに旨味がない。
継続的な取引が無ければ、アイザックの望むエルフ利権は手に入らない。
利権という盾を手に入れる事ができないのは、かなり厳しいところだ。
モーガンはアイザックをチラリと見る。
ちょうどアイザックもモーガンを見ていた。
二人の視線がぶつかる。
(仕方ない)
モーガンは「なしだ」と言った方法を採る事にする。
「では、働きませんか? そうすれば、獲物を狩らずとも物を好きなだけ買えます」
「なにっ?」
アロイスもマチアスも露骨に嫌な顔をする。
人間がエルフに働かせようとする場合、ロクな事がない。
――男は戦争に駆り出され、女は体を売らされる。
借金だなんだと名目をつけてはエルフを食い物にしようとする。
過去の人間の所業を知っているだけに、人間に働かされるという事に忌避感を抱いていた。
「この子が思いついた事ですが、エルフの魔法で道や堤防を作っていただきたい。もちろん、希望者がいればですが」
――魔法で道を作る。
その言葉に思うところがあったのだろう。
マチアスが口を開く。
「……変わったな。人間に作らされる物といえば、城や要塞。戦争に関する物ばかりだった」
彼は遠くを見るような目つきをしている。
おそらく、数百年前の人間と交流があった時代を思い出しているのだろう。
「出稼ぎとして考えれば悪くない話だ。そこの街で自由に買い物ができるようになれば、鍋や包丁も手軽に手に入るようになるな。歩いていける距離に店が無いと不便でかなわん」
マチアスは前向きのようだ。
買い物に便利な暮らしを知っているだけに、金を稼ぐ利点も忘れていない。
「確かにティリーヒルには製鉄所があり、鍛冶師が鉄製品を作っております。ですが、さすがにドワーフ製の物とは比べないでくださいよ」
オルグレン男爵が少しおどけた感じで言った。
おどけてはいても、本心100%。
物作りではドワーフに勝てないので、ドワーフと取引をしているエルフにガッカリされないように予防線を張る。
「しかし、人間の領域で活動するというのは気が引ける……。越冬の用意もできているので、急ぎ過ぎる必要はないのでは?」
村長であるアロイスは慎重論を唱える。
彼も豊かな生活をしていた時代を覚えている。
だが、だからといって勢いで物事を決めるのは怖かった。
そんな彼の考えを、アイザックが支持する。
「僕もそう思います。冬の間に出稼ぎに出ても良いという人がいるか聞いてみるのが良いのではないでしょうか? 僕達も王都で冬を過ごすためにいなくなるので、一度冷静になって考える時間があった方が良いと思います」
その言葉にモーガンが“良いのか?”と視線を投げかけるが、アイザックは力強くうなずき返した。
「そう言ってくれるのなら、そうさせてもらおう」
アロイスも性急な判断を求められずホッとする。
自分一人ならばともかく、村長という立場を考えれば慎重な対応をしたかったからだ。
「そうだ。僕はブリジットさんの魔法をちょっと見せてもらったんですが、お爺様達にも見せていただけませんか? そこらへんに道を作ってもらえればわかってもらえるかと思います」
まずは実物を見ればわかる。
どのような道ができるかがわかれば、モーガンも渋々ではなく、積極的に協力してくれると確信している。
アイザックはエルフに魔法の行使を求めた。
「それじゃあ、私がやる」
ブリジットが手を挙げる。
彼女は今回のメンバーの中では一番若く、魔力も年相応に少ない。
彼女が行う事によって、エルフが最低限どの程度やれるかがわかりやすい。
アロイスもそう考えたのか、彼女に許可を出した。
「幅10m、深さ1m、距離は100mくらいの平坦な道でお願いします」
アイザックは道に注文を付けた。
本当は車が走るようになった時代の事を考えて四車線道路+歩道で15mくらいの幅が欲しかったが、この国の大体の基準である10mに合わせた。
深さも注文したのは、舗装部分が薄いと割れてしまいそうで怖かったからだ。
「オッケー、オン・カカカビ・サンマ・エイ・ソワカ」
ブリジットが魔法を唱えると、平原の草が地面から這い出して魔法の範囲から抜け出した。
(気持ち悪っ)
カサカサと根を動かして歩く姿はまるで虫のようである。
だが、本来の目的である道の部分は素晴らしかった。
100m×10mの舗装路がミシミシという音と共に出来上がる。
「おぉ」
それを見ていた者達の感嘆の声が湧き上がる。
たった一言でこのような道が出来上がったのだ。
同じ物を同じ時間で作ろうとした場合、どれだけの労力が必要なのか想像もつかない。
その驚く姿を見て、ブリジットは自慢げにしている。
「これは……」
モーガンは立ち上がり、突如平原に現れた舗装路を確かめる。
王都の石畳の道にも匹敵する平坦な道。
しかも、かなり頑丈そうだ。
「確かに、これなら仕事を依頼したいくらいだ。アイザックが街道整備を頼もうとしていた気持ちもわかる」
現物を見て、彼の考えも変わった。
労役を平民に課すよりも、その分働かせて得た税金でエルフに依頼した方がずっと良いと判断する。
「でしょう?」
アイザックはモーガンに微笑むと、アロイスの方に向き直る。
「皆さんにお願いしたいのはこれです。綺麗で頑丈な道、それと洪水が起こるところの堤防強化。魔法をちょっと唱えていただきたいだけなんです」
アロイスは「うーん」と唸る。
本当にこれだけで金を稼げるのなら悪い話ではない。
「報酬は?」
「まだ深く考えていませんが、一瞬で終わる事と立派な道ができる事を考えて一人あたり一日二万リード程度を考えています。塩で言えば大体40kgですね」
100mの道の工事費として考えれば格安。
しかし、魔法を唱えるだけで一瞬で終わる。
成果を考えればもっと高くても良いのだが、分給二万と考えれば破格ではある。
相場を知らないエルフを騙すような感じになるが、これは決定事項ではないので交渉可能である。
「これだけで塩40kgか……。前向きに考えさせてもらおう」
だが、当のエルフにしてみれば十分なようだ。
賃金引き上げ要求があってから、交渉してみてもいいのかもしれない。
「僕は来年の春にまたここに来ます。その時に出稼ぎしてもいいかどうか話し合ってください」
そう、アイザックはまたこの街に来る。
まだ入札は終わっていないのだ。
入札が終わるまでに話がまとまればいいくらいの気持ちでいようと、アイザックは思っていた。
「そうさせてもらおう」
考えるとは言っているが、アロイスの気持ちは揺れているように見える。
期待しても良さそうだ。
「皆さん、昼食は済ませましたか? まだでしたら簡単な物ですが用意してありますので、ご一緒しませんか?」
「せっかくだ。頂いていこうじゃないか」
アイザックの誘いにマチアスが答えた。
久々の人間とエルフの交流。
軽い食事会くらいは良いだろうと考えたのだ。
この後、食事をしながら雑談を交わし、喧嘩別れになる事無く会談を終える事ができた。
その結果にアイザックは満足していた。
(塩が不足していたところに、大量の塩やコショウを得る事ができた。その状態を維持しようと思い、かならずこちらとの繋がりを保とうとするはずだ)
アイザックは春にエルフが出稼ぎを受け入れると確信していた。
人というものは豊かな状態になってしまうと、貧しくなった時に我慢できなくなるものだ。
きっとエルフ達も、今は蔵の中に山積みになった塩を見て満足しているが、時が経つに連れて減っていく塩を見て焦燥感を覚えるはずだ。
――もっと備蓄が欲しいと。
それが塩以外の物になり、稼いだ金で物質的に満たされていくうちに、やがてアイザックとの縁を切れなくなる。
自然とアイザックとの関係を守ろうとする雰囲気ができるはずだ。
あとは、エルフ達の思いをそれとなく他の貴族や商人達に教えてやれば、アイザックの身は守られるようになるだろう。
そこまでの道筋がアイザックには見えていた。
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