魔物の存在を感じて、震えてしまう ②

 よく分からない謎の声は、それから時々聞こえてくるようになった。

 その声も、もしかしたら僕にしか聞こえていないのかもしれない。それか僕しかその謎の声をあげている存在に近づけないのか。その辺はよく分からないけれど……、少なくとも僕以外はその声を気にしている様子はない。






 杉山たちの件があって、知らぬふりをしていて、それに慣れてきているのだけれども、それでもこの状況は異常なんだよなと改めて思う。




 その謎の声が何なのかは僕には分からない。情報が少なすぎるためだ。それでもなんとなく杉山たちの話を聞いて、推測することは出来る。






 多分、その謎の声は魔物と呼ばれるものの声なのだと思う。

 珍しく杉山たちが難しい顔をして、明らかに何か起きましたといった雰囲気で話していたのだ。










「まさか、こんなことになるとは」

「そうですわね。被害者が出ないように――」




 いつも大きな声で話す杉山たちがこそこそと小さな声で話しているので、僕の耳にあまり声も聞こえてこない。

 もう少し大きな声で話してくれれば、情報を集められるのだが。でもまぁ、情報が集まってしまったらそれはそれで色んな情報に翻弄されてしまいそうだけど。ただでさえ、僕はこうして杉山たちからの話を聞いて混乱しているから。






 でもどの場所だと危険であるかとか分かったらどうにかその場所を回避していきたい。僕には危険な目に遭った時にどうにかするための手段はない。インドア派で、身体を動かすことも嫌いな僕はそういう危険なことが身近にあると思うと恐ろしく思えた。






 僕に危険がなければ、僕は魔物を見たいという気持ちはある。僕自身がファンタジーな物語が好きで、そういう存在へのあこがれはあるから。とはいえ、客観的に考えて僕はそういうものに遭遇して生き延びられるほどではない。それが分かっているからこそそういうものに関わらずにいたいと思う。






 ……でも例えばそういうものに遭遇してしまった場合、どのように僕はするべきなのだろうか。

 死んだふりみたいなやつ? クマとか相手だとそういうのも有効だって聞いたことはあるけれど……そもそも動物と魔物の違いってなんだろうか。

 魔力とかそういうことか? そうなると益々この平和な世界に魔物がくるとか勘弁してほしい。絶対強盗とかより怖い奴だと思う。

 でもあれかな、もしこの世界に魔物が本当に出現しているなら車が引いて大騒ぎになりそうだな。現代に魔物が溢れて系の物語だと大騒ぎになってそういうことになったりするイメージなんだけど。








「でも光がいるのならきっと大丈夫ですわ。ね、光、頑張るわよ」

「ああ」






 なんだか急にフラッパーさんが、杉山のことを激励していた。

 それだけ気合を入れているなら恐ろしいから、即急に対応してほしいなと僕は思って仕方がない。






 僕にはどうする事も出来ないので、とりあえず心の中でだけ杉山たちの応援をしておいた。……流石に『勇者』である杉山も心の声が分かったりはしないらしい。まぁ、分かってたらとっくに僕がこうしてすべて聞こえていることが分かるだろうけど。





 そんなことを考えながらライトノベルを読みながら素知らぬふりをしていた。






 僕は杉山たちがさっさと魔物を倒して、平穏な日々がくることを望んでいた。

 けれども魔物の声は相変わらず聞こえている。夜に遠吠えのような声が聞こえた時は、怖くて仕方がなかった。





 魔物とかだと家とかも簡単に壊せそうなイメージだし、明らかにその声が聞きなれた動物の声ではなかったから。

 でもやっぱり母さんと父さんはその声が聞こえていない様子だった。僕にだけ聞こえている声というだけでも杉山たち関連なことがうかがえる。





 いや、真面目に誰一人、そういうことを語ってない事に本当に突っ込みたい。本当に聞こえていないのか、それとも実は聞こえているけれども知らんぷりをしているのか。

 とはいえ、本当に聞こえているのならば少なからず噂にはなるはず。秘密は隠していたとしても、ずっとそれは秘密のままにしていくことは難しい。






 誰一人、声をあげないという状況はやはり異常だ。……本当に何で僕にだけ、常識改変が全くきいてないんだろうか。

 最初に鳴き声が夜に聞こえた時は恐ろしかった。けれど、徐々に謎のそういう鳴き声が聞こえることにも僕は徐々に適応していく。






 今の所、僕の家に魔物が襲い掛かってくることはない。そして僕も存在はなんとなく感じても、実際に見た事もない。

 そういう実情だからこそ、僕は徐々に安心して眠るようになった。最初は気になったけれど、もうすっかりぐっすりだ。

 睡眠不足は身体に悪いし、僕には杉山がそう言う危険をどうにかすることを祈る事しか出来ない。






 そういうわけで僕は魔物の存在を感じながらものんびりといつも通り過ごしていた。




 ただ上手くその存在を倒すことが出来ないのか、杉山たちが少し焦った様子で気になった。







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