魔物の存在を感じて、震えてしまう ③

「くそっ、はやく魔物を倒してしまいたいのに」

「光、焦っても仕方がないわ。貴方の魔法と剣の腕ならどうにでもなるわ。私たちだっているもの」



 杉山は学園で、悔しそうな声をあげていた。






 やはり魔物退治は難航しているらしい。恐ろしいからはやくどうにかしてほしいものである。僕みたいな一般人には、魔物なんて恐ろしいものが近くに存在するかもしれないというだけで恐怖しかない。






 それにしても杉山がどういう経緯を得て『勇者』と呼ばれるようになったかは不明だけど、何かしらの強敵を倒してきたのだと思う。そんな杉山が中々倒せないなんて、こちらの世界に紛れ込んできている魔物はよっぽどの強敵なのだろうか。なにそれ、怖いって気持ちで一杯だ。






 それともよっぽど隠れるのが上手いとかだろうか。魔物と呼ばれるぐらいだから、特殊能力でも持っているのかもしれない。自分の存在をまわりに溶け込ませるようなカメレオンのような能力とか、あとはステルス能力とか。

 でも姿を隠せたり、誰にも気づかれなくするような能力があったらまずどうやって対処したらいいか分からないよな。





 姿が消えているだけであるというのならば、ペイントボールでも投げればどうにかなるかもしれないけれど。

 杉山たちってどちらかというと正統派な戦い方をする方みたいだし、そういう真正面からぶつかり合わないような存在だと対処が難しいのかもしれない。






 そう考えるとしっくりくる気がする。

 というか本当に僕の平穏な日々のためにも、魔物はさっさと倒してほしい。

 僕以外の人たちは、魔物の鳴き声も聞こえないみたいだけどさ。それでも魔物っていうぐらいだから、人の事を襲うのかもしれないし。というか、それで人が亡くなった場合どうなるんだろうか。

 別の原因で亡くなったことにするのか、それともその事件そのものを亡くすとか? 異世界だと蘇生魔法でもあったりする?

 なんてそんなことを僕は考えてしまっていた。



 強制力とか、常識改変とかで、誰かの存在が消されたりとかしたらそれはそれで恐ろしいことである。しかも僕にはそれが分かってしまうっぽいし。



 そんなことを考えていたら、「がうがう」と鳴き声が聞こえた。






 大きな鳴き声。だけど、それに反応したのは杉山たちだけである。

 ちなみに僕にはもちろん聞こえているけれど、不自然に思われないように微動だにしなかった。僕も中々この不自然すぎる状況に慣れてきているものだと思う。






 はっとなったように顔を合わせた杉山たちはもうすぐ授業が始まる時間だと言うのに教室の外へと駆けだしていった。

 他の生徒に「授業だぞ!」と声をかけられ「えっと、トイレだ!」といって出て行ったのがちょっと面白かった。集団でトイレ? ってなってしまった。




 まぁ、その辺は常識改変が何か力を働かせるのか、深く突っ込むものはいなかったけれど。そして杉山たちは校庭の方に……って、いるし。何がって、なんか謎の魔物的な犬みたいな生き物。明らかに普通の犬より大きくて、牙が鋭くて恐ろしい黒い生き物。







 ……杉山たちもその近くにいるのにその魔物に近づいていないっぽい?

 もしかしてあれなの? やっぱりさっきの推測があっていて、ステルス系の魔法でも使っているんだろうか。だからこそ、杉山たちは近くに敵がいるのを気づかないってこと?

 そしてそうだとしても何でやっぱり僕にはそのステルスも通じてなくて見えているんだろうね??







 校庭で杉山は警戒したように武器を取り出し……うおっ、光の剣みたいなの取り出した!! おお、かっこいい。やっぱり『勇者』みたいな存在が扱う王道の武器っていうか、それっぽいよな。つかどっからそれ取り出したの??

 フラッパーさんは、真っ白な杖を装飾のついた杖を取り出し、明らかに回復職っぽい!

 ルードさんは、某魔法学園の有名なストーリーで出てきそうな一目見て魔法使いの杖だって分かるようなの持ってる。

 トラジーさんは、腰に下げていた剣を引き抜いた。うん、それは分かってた。ですよね! 相変わらずの銃刀法違反でやばすぎる。







 僕は杉山たちに目が合わないように、窓の外の空を見ているんですよーって演技をしながらチラ見した。

 ちなみにあの謎の犬みたいなのの攻撃を杉山は受けそうになっていた。やっぱり見えてないっぽい。でも紙一重で避けていて、運動神経どうなってんの? ってなった。



 しかしまぁ、そういうバトルをしている杉山たちに誰も気づかず普通に授業が始まったので常識改変がきいているらしい。




 ……こんな校庭でドンパチやられていると僕は落ち着いて授業に挑めない。当てられた時に答えを上手く答えられなかったし。






 僕も杉山たちのおかげでスルー能力が高められていると思ったけどまだまだらしい。何だかこれからもこういう事が起きそうだし、もっとスルー能力を高めておこうなどと謎の決意を僕はするのであった。








 結果だけ言えば、その後あの犬は杉山たちに倒されていた。

 教室に戻ってきた杉山たちの言葉を聞いた限り、解体をして素材を売るらしい。生々しい解体の話を教室でしないでほしい。なんとか平常心を保つことを心掛けていたが、本当にやめてほしいと思った。






 しかも杉山たちが倒したはずなのに謎の声、時々聞こえるんだけど。

 一匹じゃない??

 本当に勘弁してほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る