2

「私がクロム様とも付き合ってたって、告げ口したのあんたでしょ?私がイジメの濡れ衣着せたからって酷いわ!仕返しのつもり?え?何もしてないって?嘘よ!じゃないと殿下が私のこと、冷たくするはずないもの!殿下ったら、階段から落ちてから急に私に冷たくなって·····本当に酷いわ!でも、まぁいいわ。クロム様が私を変わらずに愛してくださるから!」


アイリスの発言内容と、その態度に俺は目眩がした。

あの可愛いアイリスが、こんな事を言うはずがない夢なら覚めてくれ·····

俺の願いは虚しく、クロムとアイリスはベッタリとくっついてイチャついていた。クロムは俺に見せつけるように、アイリスの腰を抱き寄せて言った。


「アイリス、殿下は君の作られた顔しか愛さなかったけど、僕は君のその裏表や奔放なところ含めて受け入れてあげるよ。それにしても、バカ殿下が最近あやつり人形になってくれなくて困っているよ。あげく『イザベラ嬢と直接話したい』などと言い出した時には驚いたよ。まぁ、そんな願い叶えてやれる訳はないから、代理で俺がお前の話を聞きに来たって訳だ。なんかあるなら早く話せ!」


上から目線の冷たい発言は俺の事をいつも褒めたたえていたクロムと同一人物とは思えなかった。

何よりアイリスに裏切られていたことが、ショックだった。俺をいつも優しく褒めたたえてくれていたアイリスは偽の姿だったのか!?

俺は絶望で体中が黒く塗りつぶされたかのように感じると共に、怒りがふつふつと湧いてきた。

クロムに一矢報いるためと、真実を伝えるために俺は口を開いた。


「俺が王太子だ!その証拠に俺は、クロムの隠された趣味も知っている!お前は週に一度の娼館通いが趣味だ!そして、お前は性病を患っていて、服薬してることも知っているぞ!これは俺しか知らないはずだ!」


俺がそう叫んだ途端に、クロムが机にあった熱い紅茶を俺に向かってぶっかけた。


「そんな根の葉もないことを二度と言うな。次に言いやがったら、殺してやるから覚悟しろ!」


黒髪から紅茶の水滴を滴らせた俺に、ドスの効いた声でクロムは言って足音踏み鳴らして去って行った。


アイリスは一瞬、性病と聞いて怯んだようにクロムから身体を離したが、「イザベラ様、階段から落ちて頭がおかしくなったのね、可哀想!」とニヤニヤ汚い笑みを浮かべながら俺を見下したあと、クロムの後を追って出ていった。


***


それから数ヶ月が経った。


俺は、まだイザベラだ。


王太子となったイザベラが手を回してくれたのか、調査の結果アイリスへのイジメは事実無根だったとされ、国外追放は無くなった。

だが、公爵令嬢は家に居場所がなかった。貴族の令嬢だとしても、爵位も財産も女性には何も与えられないこの国の現状に、女の身になって初めて思い知った。


殺されないように大人しく屋敷にいた俺を、リシュリー公爵は怪しい年寄りの後妻に娶らせようとした。貰い手がこの家しかなかったとの事だ。


俺も今まで、女の価値は嫁ぎ子を産むことだけだと思っていた。だから何処に嫁がされても当然受け入れて然るべき義務だと思っていた。

だが我が身がそうして、知らぬ男に嫁がせられる立場になると、それは身の毛がよだつほどの地獄に感じた。


俺は女の身になれど、心は男のままなので、男に抱かれるなど想像するだけで吐いてしまいそうだ。また、イザベラの身体を汚されることが、とても耐えられなかった。

人の醜い面にあてられて荒んだ俺の中で、日記から窺えるイザベラの清い心だけが唯一の救いであった。俺は心が荒れる度に何度もイザベラの日記を読んだ。いつも寝る前に日記を開きイザベラの丁寧な文字で『殿下の純真で自分に素直に生きている所が羨ましくも眩しくて、好ましいです』と書かれている部分を指でなぞり、深呼吸してから寝るのがいつしか俺の習慣になっていた。


俺の抵抗虚しく、嫁がせられることが決まってしまった。

俺は覚悟を決めて、嫁がせられる日の夜に抜け出した。イザベラの純潔は俺が守る。


目指すは街の修道院だ。

だが、月に一度のあの腹痛がちょうどその日から始まってしまい、夜風に冷えた体へ激痛をもたらした。護身用の包丁も屋敷から持ち出していたが、これではまともに戦えそうにない。

よろよろ街を歩いて男に声をかけられそうになったが、俺が苦しみに呻いていたおかげで、何かの病だと思われたらしく男は離れていった。


俺は息絶え絶えに、やっとの思いで修道院に辿り着き、修道院の扉を叩いたところで意識が途絶えたのだった。


***


それから数年の月日が流れた。


俺はまだイザベラだ。


もうこのまま死ぬまでイザベラの身体なのだろうかと、最近諦めの境地に達している。


修道院はとても貧しい暮らしだったが、半生を振り返るのにはちょうどいい静かな環境だった。

修道院長のシスターは鶏ガラのように痩せた女性だった。幽霊のようなガリガリの見た目に敬遠していた俺だったが、彼女の心の広さと清さに触れて、今では祖母のように慕っている。

修道院では、日常生活身の回りの世話や家事などすべて自分達で行う。

当初、やり方もわからず、教えてもらうことにも嫌気が差していた俺は不貞腐れていた。


俺は例えどんな身体であっても、俺の魂さえあれば自然と周りに尊重されるような人間なのだと、どこかで思っていた。


だが、現実はまったく違った。


俺はただ、生まれもった権力を笠を着てただけの男だった。周りは王太子という存在を褒めそやしていただけで、俺にはなんの実力もなかった。

実際のところ辛いこと、泥臭いことが嫌いで、勉強や剣術などほとんど真剣に取り組んでこなかった。


裸の王様ならぬ、裸の王子だ。


俺は、役立たずでバカで浅ましいどうしようもない存在なのだと、ようやく気づきはじめていた。

だが、それを認めたくなくて葛藤していた。


そんな俺によく話しかけてくれたのが、修道院長のシスターだった。


「貴方は自分の担当分の洗濯をなぜしないのさね?」


「なんで俺·····いや、私が洗濯しなくちゃならないんだ。冷たい水でイザベラの指が荒れるからやりたくない」


「そりゃ、ワガママというもんさ。貴方の代わりにやってくれる人の手は荒れてもいいと言うのかね?」


「そういうつもりではなく·····得意な人がやればいいってことだ!」


「じゃあ貴方は、そのやってくれた人のために何がしてあげられるかね」


「何も·····でも、やりたくない。冷たい水で手が荒れるのは嫌だ。この体を少しでも傷つけたくない。代わりに誰かにやって欲しい」


「おやおや、やってもらって何も返さないのは泥棒と同じだよ。やってもらって当然な世界で生きていいのは3歳児くらいまでさね」


「3歳児だと!?」


「ワガママが通るのは普通はその位までってことさね。4歳もすぎればだんだんと社会に参加しはじめて、労働には対価が伴うことや、ワガママを言うと結局自分が損すると学んで、言わなくなるもんだがねぇ」


「自分が損する?何故だ?」


「あれあれ、そんなことも学べないほど、周りがドロドロに甘やかしてくる環境だったのだね。可哀想に」


「可哀想だと?この修道院の教えにも、人に優しくしろとあるではないか?」


「甘やかすのと、優しくするのは似て非なるものさね。この修道院の教えは『本当の優しさ』の方を説いているんだよ。貴方は『本当の優しさ』とは何だと思うかね?」


「本当の優しさ·····」


「自分なりに考えて明日、私に教えておくれ。そうしたら手荒れが治る薬を塗ってあげよう。洗濯はゆっくりでもいいから自分でやること。やり方は教えてもらって覚えているだろ?自分の汚れは自分で綺麗にすることだよ、心も洋服もね」


俺はイザベラの手が荒れないよう、極力効率的になるよう集中して洗濯した。

そして保湿クリーム確保のために、俺は本当の優しさについて考えた。

相手のすべての要望を受け入れてあげることではないのか??いや、その要望を聞いたら、のちのち困る場合もある。はたして、本当の優しさとは·····両親達は俺の願いをなんでも叶えてくれた、俺が耳に痛いことを言ってくる家庭教師や側近を辞めさせた時も直ぐに希望を叶えてくれた。そうして、今は王太子の俺の周りには太鼓持ちのイエスマンばかりで裏表のある人間が集まった。

本当に大切にすべきは、不興を買ってでも俺を正しい方向に導こうとしてくれていた側近達や家庭教師だったのかもしれない。


また、修道院長の言っていた「対価を貰って何もしないのは泥棒と同じだ」という言葉も俺の心に残った。

それは昔の俺ではないか。

王や王太子という立場は、民から税という対価をもらって成り立っている。

王太子である俺は対価を享受して、国民のために何一つしようとしていなかった。それは泥棒と同じだったのか!?と気づいてしまった。


翌日、修道院長に手荒れの塗り薬を貰うために会いに行った。


「本当の優しさとは、その人間の過去と現在と未来を思いやった言動をとることだと思います」と俺が述べると、修道院長は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。


そんなこんなで、なにかと話していると、修道院長はある時、言った。


「貴方はとても純真な心をもってるようさね。そんな中、初めて葛藤をもったのだね。だけど葛藤があるからこそ、共感もできる人間になれたのだよ。人の話を聞くことを覚えたから、とても心が広くなったようさね。ここに来るものは皆、心に葛藤を抱えて疲れてるものばかりさね。『話す』は『離す』だよ。人は話すことで、葛藤と少し離れることができ、心が少し落ち着くのさ。人の過去・現在・未来を思いやる修行だと思い、ここにいる女性達の話を聞くことを心がけなさいな」


俺は内容はイマイチよく分からなかったが、何も無いと思っていた自分の魂を、成長を認めてくれた気がしてとても嬉しかった。


それから俺は、修道院にいる女性達の話を聞くようにした。

女性達の中には見目麗しい元令嬢も多かったが、まったく性欲は感じなかった。性欲というものは体に紐づいているのかもしれない。

何より俺にとって一番大事な存在は日記を読んだ時からイザベラになっていたのもあるだろう。今は俺がイザベラの身体なのだから、究極のナルシストとも言えるかもしれない。


修道院は女性達の、救護施設となっていた。

お金が無く苦しんでいる平民の女性はもちろん、子どもが産めないからと家を出された令嬢や、病になったからと家を出された令嬢。顔に怪我したからと家を出された令嬢、夫に殴られ続け命からがら逃げてきた夫人もいた。なんと殴られたその夫人は話を聞けば、夫は元殿下護衛騎士のザックだという。最近、殿下に職を解かれて荒れて、妻に暴力をふるっていたという。


なぜ物のように扱われなくてはならないのか、女性だって男性と同じ人間だ!

俺は憤りを感じた。それと共にその言葉は昔の自分にも跳ね返ってきた。

俺は物のようにイザベラを捨てようとした。物のように、外面の綺麗なものだけそばに置こうとした。

俺は同じ人間として、女性の内面を見ようともしていなかった。


女性だけではない、俺は周りの側近達の内面も知ろうともしなかった。上辺だけ見て、自分に心地よい言葉をくれるものだけをそばに置いた。そして自分を咎めようとするものは、両親に言って遠ざけてしまっていた。

俺は国の苦しむ民の事を考えたことがなかった。教育は受けたし、数字上の報告なども聞いたことがあるが、自分事として捉えてなかったので、何一つ身についていなかった。


自分の心地良さを一番に優先して何が悪いとすら思っていた。

そうして、まったく人の見る目のない、思いやりの欠片のないバカ王子が出来上がった訳か·····


イザベラと入れ替わってよかったのかもしれない。

俺は自分が無能なばかりに、罪もない心優しきイザベラを国外追放などにしてしまうところだったのだ。

今の俺のこの状況は、当然の報いだ。

精霊神の思し召しだったのかもしれない。


修道院には多くの蔵書があった。

図書館が老朽化して取り壊されそうになった所を、修道院に改装したらしく、古い書物がいくつも残っていた。しばらく生活するうちに俺は、自分の身の回りの世話も手早く終えられるようになった為、空いた時間は修道院に残る書物を読み過ごしていた。

書物を読み、人の話を聞き想像力が身についたせいか、昔の自分の視野の狭さと人としての器の小ささを身に染みて実感していた。

己の過去の黒歴史に居た堪れなくなると、俺は礼拝堂の精霊神の銅像の前に跪き、ひたすら後悔し懺悔する事が習慣化していった。


***

それからまた、数年が経った。


修道院長は最近、ひどく咳き込むことが多くなってきた。今後のことが不安なのか院長は最近、俺を何かと修道院の運営に関わらせたがる。


今日は、新しく修道院に入りたいという希望者がいるという事で、院長が希望者に修道院での生活の様子を説明するのに、俺も同席することになった。

修道院での生活は決して楽ではない。国からの援助金は雀の涙程で、雨漏りの修繕さえできていない。食料は裏の畑で自給自足が基本であるし、刺繍や繕い物を請負なんとか生計を立てている。

俺も最近ようやくまともな刺繍が刺せるようになってきた所だ。

希望者にはそういった内容を説明し、納得した上で修道院に入ってもらう。来るものは拒まず、去るものは追わずが修道院のスタンスだ。


俺は院長と共に、面談の部屋に入り座っていた女性を見て驚いて足を止めた。


なんと、修道院に入りたいと来ていた女性はアイリスだったのだ。

彼女のピンクブロンドの髪はパサパサで、異様に厚化粧で歳に似合わないピンクのフリルのドレスを着ていた。近づくと顔や皮膚のあちこちにはブツブツとした疱疹が出来ており、それを隠すために厚化粧をしているようだった。

疱疹はどうやら、性病の後遺症のようだった。

アイリスは目線を下げたまま、ひたすら髪を指にくるくると巻き付けては離したり、爪をいじったりを繰り返し落ち着かない様子である。どうやら、俺がイザベラだと言うことにも気づかない様子だった。


複雑な内心を抱えた俺をよそに、院長は淡々と修道院での生活をアイリスに説明した。すると、アイリスは突然言った。


「え?お金が貰えると聞いてきたんだけど?貰えないの?そんなお金もない極貧生活なの?お金がなければ生きてる意味ないじゃない。それなら、今まで通り娼館で働いてる方がずっとマシだわ。帰るわ」


アイリスは、そう言って後ろも振り向かずに帰って行った。


俺は、彼女の言動に呆気に取られていた。そして、しばらくするとじわじわと怒りが湧いてきた。


お金がなければ生きている意味ないって·····彼女は贅沢するために生きてるって事か?

だから、王太子だった昔の俺に近づいたのか?次にクロムをたらしこんだはいいが、性病を貰って捨てられて、今は娼館で働いてるって事か。いい気味だな。


俺が黒い感情に支配されていると、修道院長が呟くように言った。


「きっとお金がなければ生きていけない環境で生まれ育ってきたのだろうね。生き延びるために身についた価値観はなかなか、根が深いからね·····可哀想に」


俺は同情する価値もないと思い、院長へ冷たく言った。


「私には、贅沢という欲に溺れているだけの、他人を利用する事しか考えない醜い人間に見えましたが?」


「そうかね。私には、彼女が飢えているように見えたね。溺れていても、飢えていても苦しい事には変わりないよ。·····例えば、他人の食べ物を盗まねば餓死する環境にいる人間に、盗むのは倫理的にいけないことだと説いても響かないのと同じさね」


「·····すみません。私にはよく分からないのですが」


「生まれながらの善人も悪人もいない·····育ってきた環境で生きるために身についてしまった、間違った価値観に苦しむ人が多いって事さね」


「つまり、国や親は環境を整えるのが役目って事ですね·····」


「環境を整えてやれない親が多いのが、現状だから国に期待したいところだがねぇ·····ゲホッゲホゲホ」


院長の背をさすりながら、俺は院長の言葉のひとつひとつを深く考えたのだった。


それから数ヶ月後、院長は静かに息を引き取った。

俺が今修道院長をやっている。もっと相応しい人がいるはずだと俺は辞退したが、修道院の皆が俺の事を推してくれた。


俺は今でも亡くなる前に院長と交わした会話を鮮明に覚えている。


ただでさえ鶏ガラだったのに益々やせ細った院長の死に影に怯え震えながら、俺は膝まづいてベッドに横たわった院長の手を取り言った。


「どうか院長、死なないで院長を続けてください」


「人生はバトンさね。院長の座も貴方に引き継げることを嬉しく思うよ」


「私には修道院長の座は相応しくありません。私は過去に深く人を傷つけました。罪深い、器の小さい人間です」


「過去に1度も人を傷付けたことのない人間はいないよ。皆、罪深い。器の小ささに気づけたのなら、努力すれば良いさね。修道院の庭の裏に水滴に穿たれて器のようになった石があるだろう?あのように1滴1滴、石を穿つように器を広げていけばいいさね。焦ることは無いよ」


もう院長のこの優しい言葉を今後聞けなくなるのだと思うと俺は涙が止められなかった。俺が慌てて涙を拭っていると、院長は言ってくれた。


「いいんだよ。泣き止むために人は泣いているんだよ。泣き止みたくなるまで、心のままに泣けばいいさね」


そう言って、院長は骨のような手で俺の頭を優しく撫でてくれたのだった。



***


それからまた数年が経った。


その日俺は、朝早く目覚めたので身支度を整え、礼拝堂に向かった。

美しい中性的な精霊神の白い像が、朝日に照らされ眩しく見えた。

俺は、跪きいつものように過去の己の過ちを悔い、改められるよう日々精進して行くことを祈っていた。


過去の俺のまま、国王になっていたらただの無能な国民の税金泥棒になっていたことは間違いない。

王太子の身体に入ったイザベラは、今や国王となった。未だに娶っていない点が問題視されているが、とても国民のためを思った賢明な政策ばかりの政治を行い、その手腕は高く評価されてきていた。彼女の王妃教育での苦労は、今活かされているのだろう。彼女の努力が無駄にならなかった訳だ。だが、きっと彼女には多くのいらぬ葛藤や苦労を背負わせてしまっただろう。

そして俺が傷つけた過去も変わらないのだ。


ああ、あの時に戻りたい。

婚約破棄の前日に。

いや、もっと前か。

そうしたら、もう俺は二度と間違えないのに。


『戻ったとて、お前は間違えるだろう。なぜなら人間は間違える生き物だからだ。それを知るからこそ、自分の短慮で無実なものを傷つけないかよくよく気をつけるようになるのだ。権力者は特にそれを知るべきだな』


いきなり聞こえた透き通るような声に、俺がギョッとして顔を上げると精霊神の白い像が7色に輝いていた。そして石像の口が動いた。


『人は十数年で随分と変われるものだな。我は国守りの精霊神である。あまりにも稚拙な器のない王が立つことにより国が乱れることが見えたので、お前とイザベラを入れ替えたのじゃ』


「あ、貴方様のおはからいでしたか!我が事ながら情けなくも、この国の民を護ってくださったこと感謝申し上げます」


俺はアワアワしながら、慌てて頭を下げて言った。


『よい。王の器はいかに人を思いやれるかだ。以前のお前は自分以外の人間を思いやる心がなかったが、今のお前の器になら多少の民も入りそうだ。全国民が入れる器になれるよう、励めよ』


そう言って、国守りの精霊神が消えると共に俺は猛烈な下腹部の痛みを感じ、気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る