スパダリと異世界に行くことになりました

白川とも

第1話 

「ご、ごめんね!」


 そう俺たちに手を合わせて謝罪するこいつは、自称「神」らしい。

 どう見ても妖精だろ。小さいし、翼あるし。

 というかここは一体どこなんだ。神様は天国とか言ってたけど、天国ってもっとこう、雲の上みたいなところではないのか。なんでこんな部屋みたいなところにいるんだ。


「ほ、本当はね。君たちの近くにいたおばあちゃんとおじいさんをここに呼ぼうとしてたんだよ。でも、私、久しぶりに生死の神になったばかりで、座標設定うまくできなくて……ごめんなさい」


 わー。すごくしょんぼりしてる。さっきから色々と突っ込みたいことはあるけど、ここまでしょんぼりされたら何も言えないな。でも。


「神様」


「なっ、なんでしょう……」


 神様はゆっくり上目遣いで顔を上げ、俺の方を見た。今にも泣きそうな顔だ。


「俺はこれからどうなるんですか? やっぱ死んだから生まれ変わるんですか? それともこのままずっとここにいるんですか?」


 これだけは聞いておきたい。昔から、時々死んだらどうなるんだろうと想像することがあった。別に死にたいとか思ってたわけではなく、ただの興味だ。

 しかし、なぜだろう。神様が「こいつ何言ってるんだ」って顔で俺を見てくる。たしかに、殺されたとか、天国だとか、久しぶりに神になったとか、座標設定ミスったとか。いろいろ気になることはもちろんある。でも、やっぱどうなるかが一番気になる。


「それは、好きな方を選べるよ。というか、ここにいることに飽きたら転生するって感じかな? 恋人とか家族の様子を見たりする人がほとんどだけどね。あと、死んだ直後だと異世界に転移は可能だよ」


 ――異世界!? い、今異世界って言った!? 

 え、それってあれか? 最近よくアニメで見る異世界転生みたいな?え、え、めっちゃしたい。剣と魔法の世界とか行ってみたい。


「あ、あの神様。俺、異世界行きたいです」


「へ?」


 神はポカンと俺を見ている。何かおかしいことでも言ったのか?

 でも、男の憧れだろ? 剣と魔法の世界って。


「い、異世界っていっても色々あるけど、君はどんな世界に行きたいの?」


 異世界って色々あるんだ。お菓子の世界とか? 恐竜がいる世界とかかな?

 でも、やっぱり俺は……。


「剣と魔法が使える世界に行きたいです!」


「それ、本気で言ってる?」


 ん? 急に真剣な顔してる。まずかったかな。


「いいの!? ほんとに!?」


 急に目の前まで神様は飛んできて、嬉しそうな顔で俺に聞いてくる。

 よかった~。神様の機嫌悪くしたかと思った~。

 いいも何も、俺は行ってみたいんだけどな。こんなに喜ぶ理由ってなんだろ。


「はい。俺、剣と魔法の世界行ってみたいです!」


 そういうと神様は、さっきまで見せていた暗い顔とは裏腹に、パーっと明るい顔で俺の周りをクルクルと回った。


「やったー!やったー! 久しぶりの志願者! 実はね。君が行きたいっていう世界ね。皆行きたがらないんだ。大体ここに来る人達はおじいちゃんとおばあちゃんばっかりで、天国でゆっくりする人が多くて……。それに異世界へ行くっていう人も、みんな地球と同じようなところに行きたがって、全然剣と魔法の世界に行ってくれる人はいないんだ」


 そうなんだ。でも、俺みたいな考えの人とか少しはいるだろ?


「それに、剣と魔法の世界は今、あまりいい世界とは言えいんだ。人族、獣族、妖精族、ドラゴン族、魔族。これがその世界の種族なんだけど、友好的な関係の種族は存在しないんだ。特に人族と魔族は仲が悪く、毎日のように争いが起こってるんだ。そして力をあまり持たない獣族、妖精族は彼らの奴隷として扱われてる。ドラゴン族は基本的におとなしいけど、時々人族の領地で狩りをする。もちろん人間じゃドラゴンには勝てなくて、たくさん領民が死んじゃうんだよね」


 なるほど。確かにそんな世界には行きたいと思わないよな。でも、俺はすごく行きたい。だって魔法だよ? 魔法が使えるって、夢にまで見た魔法。ぜひ使いたい。できることなら、勇者になりたい!


「いいです! 俺、行きます!」


「……ここまで言ってまだ行こうとする人、久しぶりに見たよ。ありがとね!」


 さっきまでは少し混乱してたけど、今はなんか、わくわくで胸がいっぱいだ。


「ところで君はどうする?」


 そうだ、さっき神様は『君たちを殺した』って言ってた。どんな人だろ。そんな疑問を持った俺は、後ろを見た。

 わ~。めちゃくちゃイケメンだ。しかも身長何センチだよ。百八十は余裕であるんじゃないか? いいな。あんな人を俺の彼氏に……って! 俺は何考えてるんだ! もう男は好きにならないって決めただろ!


「じゃあ俺もそこの子と一緒に剣と魔法の世界に行きます」


 え、えーーーー!?

 待って、たしかに誰かと一緒ってのは安心だし、こんなイケメンとっていうのは嬉しいけど!


「き、危険なんですよ!? 俺が行こうとしているとこ。そんなところに見ず知らずの俺と行くなんて。……怖かったり、嫌だったたりしないんですか?」


「別に、特に問題ないよ」


 えーー? なんなんだこの人は! 冷静オブ冷静だ。


「そ、そうなの。(君たち変わり者過ぎじゃない?)」


 ほら! 神様も驚いてるじゃん! しかも小声で変わり者って! ん? たちって、俺も? 


「よし、わかった。じゃあ二人とも剣と魔法の世界ね。ちなみに転移と転生だとどっちがいい? 転移は今の年齢のまま。転生だと受精卵からのやり直し」


 受精卵って……。やっぱここは転移だよな。


「「転移で」」


 お、かぶった。あの人も異世界系のアニメ見たことあるのかな? さっきからすごく冷静だし。


「了解! じゃああとは、種族だね。なにがいい?」


「俺は人族で」


 やっぱこういうのは人族だよな。獣族とか魔族とかも気になるけど、人族が一番安心だ。変なところから足が生えたりするのは嫌だし。


「俺も人族でお願いします」


 よかった。あの人も人族だ。


「よし! じゃあ今から二人を剣と魔法の世界に送りまーす! なんか行く前に聞いておきたいこととかある?」


 聞いておきたいことか。


「そういや神様は久しぶりに神様になったって言ってたけど、何でですか? あなたの前にも神様がいたっていうことなんですか?」


「あ、それね。私たち神はいろいろ役割があるんだ。それを百年ごとに交代してるの。私は今は生死の神。名前の通り担当世界の住人の生死を管理してるの。あ、でも死んだ魂をここに連れてくるのが役割であって、気に入らない生き物を殺したりするとかではないよ。魂の入れ物が壊れる前に魂だけここに連れてくるの。だから、壊れる前に連れてこられなかった魂は、君たちの言う『幽霊』になってその世界でさまようんだ。他にも、天国の管理を担当する天国の神や、君たちのいた世界にある『ゲームの天の声』ってのを担当する情報の神もいるよ」


 『天の声』ってマジで神様がやってるんだ。

 そんなことを考えていると、あの人が口を開いた。


「そんなに俺たちに喋って大丈夫なんですか」


 たしかに。その通りだ。

 バンッ!

 いきなり後ろの扉が開き、また、妖精のような神様が来た。


「あんたね! いい加減にしなさい! 間違えて殺したって! しかもべらべらと私たちのことを喋って!」


 やっぱ言っちゃいけないことだったのか。神様、ドンマイ。


「ごめんなさい! ごめんないさい!」


「で? あんた、あの子たちからなんか要求されたりした?」


「それが……」


 何の話をしているのか全くわからないが、さっきあんなこと聞いちゃったから、俺たち、地獄行きとかかな。それだけは嫌だ。


「本当か!?」


「はい」


 ん? なんかデジャヴ。


「君たち、剣と魔法の世界、行ってくれるのか!?」


「「はい」」


 俺たちの返事を聞くや否や、もう一人の神様も俺たちの周りをクルクル回りだした。


「おっと、失礼。つい嬉しくてな。このバカの前は私がこの世界の生死の神だったんだが、その世界に行きたいと言ってくれる人は少なくてな。おいバカ、この方たちにギフトは?」


 ギフト? なんだろ。お菓子の詰め合わせとかかな。


「わ、忘れてました」


「はぁ、やはりか。すまない、お二人とも。こいつに代わって私が君たちにギフトを渡そう。この神の非礼に対する要求も、私が飲む」


 この神様、いい上司感が半端じゃない。𠮟りはしてもしっかり部下のフォロー! 神の世界にもこんな関係があるんだ。でも、別に殺されたことには怒ってないし、要求と言われても困る。


「特にないです」


「俺も特には」


 俺の言葉に続き、あの人も答える。


「な、ない……だと。(なんで、え、人間って欲が強い生き物ではなかったのか)」


 何やらもう一人の神様はブツブツと言っていいるが、それよりも早く異世界に行きたい。そして魔法を使いたい。


「そ、そうか。では、君たちが行く世界担当の情報の神に口添えしておくよ」


「ありがとうございます」


 どんな口添えをしてくれるかわからないけど、『天の声』の神様と話ができるとかかな?


「では、お二人とも。今から剣と魔法の世界に送ります。世界に到着したら、情報の神からの言葉が聞こえると思うので、それに従ってくださいね」


「はいっ!」 「わかりました」


 次の瞬間、部屋中真っ白な光に包まれた。


『無欲な人間よ。我らからのギフトを受け取りなさい。そして、貴方たちが望む剣と魔法の世界へ行き、よき人生を送らん事を』


 その言葉とともに、俺たちは「剣と魔法の世界」へ送り出された。


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