第7話


学校を抜け出し、家へ戻る途中・・・


 児童養護施設…昔は孤児院と呼ばれていた…の横を通る。


 そこで俺は、一人でブランコに座り俯いている女の子を見かけた。


 ココの【陽だまりの家】は、先代のじいちゃんが一枚噛んで設立された、俺にも馴染みのあるところで……特に、姉ちゃんはココに執心していて、世界大会の優勝賞金とか、テレビCMの出演料とか、とにかくまとまったお金が入れば必ず寄付をしているし、イベントなんかでは出来るだけ顔を出して子どもたちのために何かをしている……。

 で、俺もそんな事情の中よく手伝わされ、特に食事を提供する際には造り手として……子供たちには『ご飯係のお姉兄ちゃん』として認識されていたりする。


 そんな場所で、一際俺に懐いている女の子が一人いて。


 初めて出会った時から


『おねにいちゃん☆』


と言ってくっついて離れないこの子の名前は華羅ふぁらちゃん。

 この施設での俺の呼び名『お姉兄ちゃん』は、この子が名付けたって訳で。


 いつもはとっても元気にはしゃいでみんなと遊んでいる印象のあるこの子が、一人っきりで、寂しそうにしている姿は初めて見かける。


・・・何か、あったんだろうか?



「……おう!華羅ちゃん!どした?元気が無えじゃん?」


とりあえずはいつも通りに軽く声を掛けてみることにする。



「・・・あ。おねにいちゃんっ!」


 俺を見るなりブランコからぴょん、と飛び降りた彼女はとたとたっ!と、可愛らしい足音とは裏腹に猛ダッシュで突進してきて、まるでこれから相撲でも取るかのような体当たりで飛び込んできて、ぶつかった。



「ぐはっ?!」


 とても4歳の女の子の飛びつきとはとは思えない衝撃が俺を襲う。

俺は避けたり受け流したりは得意だが、実はそんなに打たれ強くは無い。

だからこの子の体当たりは体の芯にズシンと響いたのだった。



「おねにひゃむ、ひょうむんはガッコ、むぐむぐ終わったも〜?・・・あれ??」


 いつもはあるはずのない胸に埋もれて、流石に違和感を感じた華羅ちゃんは一旦顔を胸から離し、俺の顔をまじまじと見た。



「・・・おねにいちゃん、オッパイがあるぅ??なんでぇ???」


・・・・・なんで?って聞かれてもねえ……

なんて答えたら良いのやら…(汗)



「あったかくて、やわらかぁい……へんなのぉ〜」


 むぎゅ、もぎゅっとやや強めにオッパイを揉み込まれた俺は、奇妙な感触に声を上げそうになったが何とかこらえてその手を外す。



「な、なんでかなぁ…俺にも解んないんだ」


「あ、ひょっとしたらぁ……

あのね、昨日の夜、わたしお星さまがたあくさん落っこちているの、見たんだよぉ?」


そう言いながら、また華羅ちゃんは俺の胸をむぎゅむぎゅと揉みだした。



「へ、…へえぇ〜…ぅ…そ、そおなんだぁ?…ひぅ……それは、俺も…ん…見たよぉ?」


うわぁ〜…胸が変な感じ……

こそばかゆむずむずじんわり…って、なんじゃこりゃあ・・・。



「…そいでね、お星さまにおねがいごとするとおねがいがかなうってせんせいが言ってたからぁ〜…華羅もおねがいしたんだよおぉ?」


あう…華羅ちゃん……そのくらいで、胸触るの止めてくんないかなあ?

……とは口には出せず、ただただ耐えるしか無い俺・・・

き、厳しいな、この状況は(汗)



「へ、へえ〜…ん……どんな事お願いしたの?」








「おねにいちゃんがほんとうのおねえちゃんになって、わたしのママになりますように・・・って。」



・・・。


・・・・・。



・・・・・・・・・・。



・・・え〜〜〜〜っとぉ……。



 つ、突っ込みたいことはいくつかあるけれども、まづわ、ひとつ。




 華羅ちゃんまで、そんなお願い事をしてたんか〜〜〜いっ!!


…しかも、罪がない分始末が悪い。

 こんな幼気でけがれの無い子供がそんなお願い事をお星さまにお願いなんてしちゃったら……

 そりゃあ神様だって最優先でそのお願い事は叶えようとするに決まってるじゃん!!



・・・しかも、そのお願い事……解除してもらうのは…非常に神様に頼みにく〜いっ!




「はは…ははははは…そ、そおなんだ……

おねがいごと、かなって、よかったねえ…」

「うんっ♬わたし、すっご〜〜〜く、うれしいっ☆」


…俺は、すっご〜〜く…辛いです…華羅ちゃん………(泣)




「なにしてんの?瞳ちゃん」


空笑いしている俺の背後から、聞き慣れた女の子の声がした。



「あ、あ、あきらぁ…はぅん」


「何、感じちゃってんのよおっ!この変態っ!」


 ゲンコツを俺の頭に叩き落としてその手をふうっと息を吹きかけ、勝ち誇ったような顔で俺を見下ろしながら明が笑った。



「どう?女の子の胸の感触は?案外悪くないでしょ?」

「うるへぇ!変態は無いだろお?」


「変態よ。小さな子に胸揉ませて喜んでんだもん」

「喜んでなんているもんかぁ!助けてくれよぉ〜」


 いいかげん変な気分になりかけてきた俺は、目の前の救世主に助けを求めた。

こんな時にどう対処したら良いのか…女子になってまだ一日目の俺には解んないからだ。 



「…ねえ?お嬢ちゃん。瞳がくすぐったいって言ってるから離れてあげてくれるかな?」


とびっきりの社交スマイルで華羅ちゃんに話しかけた明だったが………。




「やだっ!おねにいちゃんはわたしのママになるんだもん★

おばちゃんの言うことなんかきかないんだも〜んっだ!」




 可愛い天使のあっかんべーのポーズと悪魔的な台詞に、明の顔色がみるみる悪くなっていく・・・。


「こんガキゃ〜〜!ちょーしこいてんじゃねえわよっ!誰がおばさんだ、だれがっ!!

あたしゃ、まだ二十歳前はたちまえ…「…だーっ!落ち着け明あぁっ!小さい子の言葉に振り回されるなぁ!」



 説得できないどころか、子供にケンカ売ってどーするっ?!



 とりあえずは暴れる明を羽交い締めにして動きを止めて、華羅ちゃんに抱きつかれたまま……俺は深い溜め息をつくしかなかった・・・。



……なぜこうなる??

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